「林懐高校の野々本?」
「ああ、最近やけにチャトランガの周りを嗅ぎ回ってる。何か知らないか?」
俺の言葉に、三叉槍である里田がうーん、と唸る。
「林懐高校の青龍って不良グループがあんのは蛇も知ってんだろ?」
「ああ。」
林懐高校は不良校で有名だ。その中でもその荒くれ者達をまとめる不良グループ『青龍』はそれなりの規模を誇る、手を出しにくいグループだ。
「野々本ってやつはおそらくそこのリーダーの野々本春ってやつだと思うぞ。」
「危険か?」
「それなりに。」
里田は自分の不良グループを持っている。彼らに関しては里田の方が詳しいだろう。
その里田が『危険』と判断する人物。
(シヴァ様に何も無ければいいが……)
やつらの狙いが何であるか分からない以上、下手に接触するのも悪手になりかねない。
「野々本春は入学早々に当時の青龍のリーダーをボコボコにしてその座を奪い取った血の気の多いやつだ。俺も直接は会ったことねーけど、下っ端同士が何度か小競り合いを起こしたことがあったはずだ。」
里田のその言葉で野々本というやつがいかに野蛮な輩かがわかる。
そんな野蛮なやつがシヴァ様に近寄るなど許されることではない。
しかし、目的にもよるがこのまま何もせずに居れば、やつらが調子づくのも時間の問題だ。
「……ひとまず、シヴァ様に判断を仰ぐべきか……」
「そうだな。青龍はそこそこの規模があるし、伝統も長い。俺たち幹部だけで判断するには少し相手が悪い。ましてや相手の目的が分からない以上はシヴァ様のお耳に入れておくべきだろう。」
そう、同意を示した里田に、「だな。」と俺も頷き返す。
(となれば、早急にシヴァ様と話がしたいな。)
メールで伝えるには内容が内容だ。誰が見てしまうかもわからないような伝達はできない。
直接会うしかないが、そうなれば、大学生の自分より同じ学校の里田の方が怪しまれずに話せるだろう、と口を開こうとしたその時だった。
向こう側から見慣れたお姿が自転車に乗って現れたのは。
「シヴァ様?なぜこちらに?」
「おっ!シヴァ様おはようございます!」
まるで図ったかのようなタイミングだ。
それに、確かシヴァ様は電車通だったはず、と内心首を傾げる。
「珍しいですね、シヴァ様。いつもは電車でのご登校だったと記憶しておりましたが……」
もしや、すでに何かあり、急遽自転車通学に変更したのだろうか。
そうなれば、この蛇なんたる失態。シヴァ様の身を守ることこそが側近であり幹部である自分の役目だと言うのに。
しかし、シヴァ様は俺の問に淡々と
「丁度いい、タイミングだったんだ。」
そう答えた。
タイミング。
そうか、図ったかの『ように』ではなく、青龍の動きが怪しいこのタイミングだからこそ、シヴァ様は幹部との接触を図ったのだ。
「なるほど、そういう事だったんですね。」
思わず深く頷き感心を顕にしてしまう。
流石シヴァ様。我々が手にした情報はすでに耳に入っていたらしい。
「ま、シヴァ様だもんな。」
と、同じく状況を理解した里田もウンウンと頷いている。
シヴァ様が青龍のことに気がついているのならば話は早い。
急遽ではあるが、ここで今後の方針を決めてしまおう。
「シヴァ様がご察しの通り、現在、林懐高校の不良グループ『青龍』がやけにこちらを探っているんです。」
そう切り出せば、一言も聞き逃さないとでも言うようにじっとこちらを見つめるシヴァ様。恐らくこの事はシヴァ様も大変危惧してらっしゃるのだろう。
あらかたこちらの手に入っている情報を提示していくのをシヴァ様はじっと聞いている。
きっと、シヴァ様の手に入れた情報とすり合わせをしているのだろう。それにより、シヴァ様の優れた脳内でどれだけの思考が組み立てられているかなんてきっと我々のような凡人には理解ができない。
「……ということなのですが、如何されますかシヴァ様。」
情報を出し切り、そうシヴァ様に判断を仰げば、シヴァ様はスっと里田へと視線を移した。
「三叉槍さん。お願いしてもいいですか?」
シヴァ様は三叉槍という駒のみを動かすことに決めたらしい。
シヴァ様の中で、里田1人で事が足りる、と判断されたようだ。
しかし、ここでシヴァ様が予想外の言葉を零された。
「……まぁ、チェスしてみるのもありか。」
チェスをする。
つまりはシヴァ様と相手が同じ机を囲むということ。
(仲間に引き入れるつもりなのだろうか……?)
それとも、同盟を?
シヴァ様の優れた脳内でどんな作戦が練られているかなど俺らには分からない。
だが、1つ確かなことはシヴァ様は相手と対話する機会を欲しているということ。
ならばそれに全力で応えるのが、部下である俺らの仕事だ。
「よし、任せろシヴァ様!きっちり連れてきてやるぜ!」
「シヴァ様がそう言うのであれば頼みます。しくじるなよ、三叉槍。」
元気よく応える里田の背中を軽く小突く。
シヴァ様は、里田の返答に満足したのか、「じゃあ、学校行ってくる。」と、そのまま颯爽と居なくなってしまった。
「……さて、じゃあ俺はメンバー集めてくるわ。」
シヴァ様のお姿が完全に見えなくなり、里田がそう言ってスマホに何やら打ち込み始める。
「ああ。サポートが必要なら呼んでくれ。」
と、俺の持つスマホを降って見せれば、
「まさか!シヴァ様は俺1人で十分だって言ったんだぜ?ならそれに応えんのが幹部だろーよ。」
椅子に座って待ってろよ、なんて笑って言いながら、学校とは反対方向へ消えていった里田。その背中に少し苦笑を漏らしながら、俺も自分の大学へと向かって歩き出した。
「ああ、最近やけにチャトランガの周りを嗅ぎ回ってる。何か知らないか?」
俺の言葉に、三叉槍である里田がうーん、と唸る。
「林懐高校の青龍って不良グループがあんのは蛇も知ってんだろ?」
「ああ。」
林懐高校は不良校で有名だ。その中でもその荒くれ者達をまとめる不良グループ『青龍』はそれなりの規模を誇る、手を出しにくいグループだ。
「野々本ってやつはおそらくそこのリーダーの野々本春ってやつだと思うぞ。」
「危険か?」
「それなりに。」
里田は自分の不良グループを持っている。彼らに関しては里田の方が詳しいだろう。
その里田が『危険』と判断する人物。
(シヴァ様に何も無ければいいが……)
やつらの狙いが何であるか分からない以上、下手に接触するのも悪手になりかねない。
「野々本春は入学早々に当時の青龍のリーダーをボコボコにしてその座を奪い取った血の気の多いやつだ。俺も直接は会ったことねーけど、下っ端同士が何度か小競り合いを起こしたことがあったはずだ。」
里田のその言葉で野々本というやつがいかに野蛮な輩かがわかる。
そんな野蛮なやつがシヴァ様に近寄るなど許されることではない。
しかし、目的にもよるがこのまま何もせずに居れば、やつらが調子づくのも時間の問題だ。
「……ひとまず、シヴァ様に判断を仰ぐべきか……」
「そうだな。青龍はそこそこの規模があるし、伝統も長い。俺たち幹部だけで判断するには少し相手が悪い。ましてや相手の目的が分からない以上はシヴァ様のお耳に入れておくべきだろう。」
そう、同意を示した里田に、「だな。」と俺も頷き返す。
(となれば、早急にシヴァ様と話がしたいな。)
メールで伝えるには内容が内容だ。誰が見てしまうかもわからないような伝達はできない。
直接会うしかないが、そうなれば、大学生の自分より同じ学校の里田の方が怪しまれずに話せるだろう、と口を開こうとしたその時だった。
向こう側から見慣れたお姿が自転車に乗って現れたのは。
「シヴァ様?なぜこちらに?」
「おっ!シヴァ様おはようございます!」
まるで図ったかのようなタイミングだ。
それに、確かシヴァ様は電車通だったはず、と内心首を傾げる。
「珍しいですね、シヴァ様。いつもは電車でのご登校だったと記憶しておりましたが……」
もしや、すでに何かあり、急遽自転車通学に変更したのだろうか。
そうなれば、この蛇なんたる失態。シヴァ様の身を守ることこそが側近であり幹部である自分の役目だと言うのに。
しかし、シヴァ様は俺の問に淡々と
「丁度いい、タイミングだったんだ。」
そう答えた。
タイミング。
そうか、図ったかの『ように』ではなく、青龍の動きが怪しいこのタイミングだからこそ、シヴァ様は幹部との接触を図ったのだ。
「なるほど、そういう事だったんですね。」
思わず深く頷き感心を顕にしてしまう。
流石シヴァ様。我々が手にした情報はすでに耳に入っていたらしい。
「ま、シヴァ様だもんな。」
と、同じく状況を理解した里田もウンウンと頷いている。
シヴァ様が青龍のことに気がついているのならば話は早い。
急遽ではあるが、ここで今後の方針を決めてしまおう。
「シヴァ様がご察しの通り、現在、林懐高校の不良グループ『青龍』がやけにこちらを探っているんです。」
そう切り出せば、一言も聞き逃さないとでも言うようにじっとこちらを見つめるシヴァ様。恐らくこの事はシヴァ様も大変危惧してらっしゃるのだろう。
あらかたこちらの手に入っている情報を提示していくのをシヴァ様はじっと聞いている。
きっと、シヴァ様の手に入れた情報とすり合わせをしているのだろう。それにより、シヴァ様の優れた脳内でどれだけの思考が組み立てられているかなんてきっと我々のような凡人には理解ができない。
「……ということなのですが、如何されますかシヴァ様。」
情報を出し切り、そうシヴァ様に判断を仰げば、シヴァ様はスっと里田へと視線を移した。
「三叉槍さん。お願いしてもいいですか?」
シヴァ様は三叉槍という駒のみを動かすことに決めたらしい。
シヴァ様の中で、里田1人で事が足りる、と判断されたようだ。
しかし、ここでシヴァ様が予想外の言葉を零された。
「……まぁ、チェスしてみるのもありか。」
チェスをする。
つまりはシヴァ様と相手が同じ机を囲むということ。
(仲間に引き入れるつもりなのだろうか……?)
それとも、同盟を?
シヴァ様の優れた脳内でどんな作戦が練られているかなど俺らには分からない。
だが、1つ確かなことはシヴァ様は相手と対話する機会を欲しているということ。
ならばそれに全力で応えるのが、部下である俺らの仕事だ。
「よし、任せろシヴァ様!きっちり連れてきてやるぜ!」
「シヴァ様がそう言うのであれば頼みます。しくじるなよ、三叉槍。」
元気よく応える里田の背中を軽く小突く。
シヴァ様は、里田の返答に満足したのか、「じゃあ、学校行ってくる。」と、そのまま颯爽と居なくなってしまった。
「……さて、じゃあ俺はメンバー集めてくるわ。」
シヴァ様のお姿が完全に見えなくなり、里田がそう言ってスマホに何やら打ち込み始める。
「ああ。サポートが必要なら呼んでくれ。」
と、俺の持つスマホを降って見せれば、
「まさか!シヴァ様は俺1人で十分だって言ったんだぜ?ならそれに応えんのが幹部だろーよ。」
椅子に座って待ってろよ、なんて笑って言いながら、学校とは反対方向へ消えていった里田。その背中に少し苦笑を漏らしながら、俺も自分の大学へと向かって歩き出した。