今日も今日とて、人に避けられながら電車に揺られる僕。
早朝のこの人の多い電車の中、僕の立ってる周りだけぽっかり空いてるのって凄く悲しい。

(……僕、電車乗るの辞めようかな……)

ここまで人に避けられるなんて、僕の顔って凶悪犯罪者並みなのでは?と毎朝ひっそりと心に傷を負っている。
前回の人の腕を掴んでしまった事件以降から席には座らず、出入口付近でボーッと立っているのだが、入学して早一年以上。立っても座ってもこんな状態なら、正直電車に乗らない方が他の人達にも迷惑にならない気がしてきた。

(……明日から頑張って早く起きよう……)

ちなみに、前話にあった通り、乗客は皆「王様に近寄るなんて畏れ多い!見てるだけで幸せです!」精神で朝呼吸をしているので、明日からどこにも王様の姿が見えなくて発狂することにかるのだが、それは芝崎は一生知りえない事実である。


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頑張って朝早く起きて、中学生以来、中々乗ることのなかった自転車に跨る。
初夏に向かっているこの時期の朝はまだ少し肌寒いものの、しばらくペダルを漕ぎ続けていればそんな肌寒さも気にならなくなった。

しかし、現実は無情。

「シヴァ様?なぜこちらに?」
「おっ!シヴァ様おはようございます!」

(あぃえなんでぇぇええ!?)

それなりに学校までの道のりが長いため、遅刻しないように急いでいた僕は、ばったり会ってしまった(サーンプ)さんと三叉槍(トリシューラ)さんの存在に内心盛大な叫び声を上げた。

ここはチャトランガのアジトから特段近いわけでもないし、(サーンプ)さんに至っては大学が反対方向だったはず。

「珍しいですね、シヴァ様。いつもは電車でのご登校だったと記憶しておりましたが……」

眉尻を下げ、どこか心配そうな表情に見える(サーンプ)さんに、「乗客にびびられてるんでチャリ通に変えました!」なんて恥ずかしくて言えない。
しかもこの顔面で怖がられてるなんて言えるわけが無い。

ここは上手く言い訳を考えなければ。

と思っていたが、よくよく考えれば、僕の口下手は筋金入り。「ちょっと自転車通学に変えてみたんです。そろそろ定期切れるからタイミングいいし!」なんて言おうとしたところで、

「……丁度いい、タイミングだったんだ。」

こうなる訳である。

何が??
何がタイミングいいの?主語ぶっ飛ばしてるよ、僕?

「なるほど、そういう事だったんですね。」

(ええええわかるの!!?)

深く頷く(サーンプ)さんには僕がすっ飛ばしてしまったワード『定期の期限切れ』が分かったらしい。

「ま、シヴァ様だもんな。」

と、何故か三叉槍(トリシューラ)さんまでウンウンと頷いている。
何に納得しているのかよくわからないけれど、たまに皆が呼ぶ『シバ様』の音がちょっと違う気がする。
そもそも様付けしないで欲しいのが本音なんだけど。

「シヴァ様がご察しの通り、現在、林懐(りんかい)高校の不良グループ『青龍』がやけにこちらを探っているんです。」

(なんて???)

(サーンプ)さん、「ご察しの通り」って言ったよね?
なんだが嫌な予感がして、一言も聞き逃さないようにじっと(サーンプ)さんを見つめる。
(サーンプ)さんはその間も淡々と色々を説明していくものの、僕はそもそも、その話題に上がっている林懐高校を知らない。
名前はなんとなく聞いたことがあるものの、どこにあるのか。どの部活動が強いのかなどそういった詳しいことは何一つ分からない。

不良グループがあるというのも初めて知ったし、そのリーダーがうんたらかんたら言われても、僕にはどうしようも出来ない。

「……ということなのですが、如何されますかシヴァ様。」

(……え、むしろ僕にどうしろと?)

大雑把に言えば、その林懐高校の不良グループがチャトランガにちょっかいを出している、ということであっているはずだ。

それならむしろ、同じ不良である三叉槍(トリシューラ)さんの管轄なのでは、と隣に佇む三叉槍(トリシューラ)さんの方へと視線を向けた。

三叉槍(トリシューラ)さん。お願いしてもいいですか?」

そして、打開策とかそんなもの浮かばないので、丸投げした。
我ながら最低である。

しかし、不良にはきっと不良のやり方があるだろうし、僕に出来ることなんて精々チェスくらいだ。ケンカなんて無縁もいい所。
丸投げする以外に方法がないだろう。

(あ、でも、もしその不良グループのリーダーさんがチェスできるのなら……)

と、ふとその考えが頭を過ぎれば、チェスバカの僕は、ボソリと

「……まぁ、チェスしてみるのもありか。」

そんな呟きを落としてしまった。
完全に無意識に零した言葉だったが、それをしっかり聞き取っていた三叉槍(トリシューラ)さんは、

「よし、任せろシヴァ様!きっちり連れてきてやるぜ!」

そう元気よく宣言したのだ。

(えっ!?)

驚いているのもつかの間、(サーンプ)さんも「シヴァ様がそう言うのであれば頼みます。しくじるなよ、三叉槍(トリシューラ)。」と、そんな感じで話が纏まってしまった。

もしかしなくとも、これ、相手がチェス出来なければ僕がその不良にボコボコにされるパターンでは?

(あ、無理。)

やっぱり電車通に戻そうかな。