エンドロールが流れて映画上映が終わると、大晴が部屋の電気をつけた。

「どうだった?」
「よかった。すごく……」

 自信たっぷりな笑顔で振り向いた大晴に、僕は即座にそう告げた。

「陽咲は? 予想以上の出来だっただろ」
「そうだね。たしかに、予想以上だった。すごい良かったよ。わたしのヘタクソな演技が大晴の編集によってだいぶカバーされてた」
「まあ、そうだな。最初のほうに撮ってるシーンはいいところを頑張って繋げたから。でも後半とかラストのシーンは陽咲の演技もいい感じだったよ。な、蒼月」

 陽咲と笑顔で話していた大晴が、ふと唐突に僕に同意を求めてくる。

「うん。花火のシーンも海のシーンも、いつもの陽咲っぽくて良かったと思うよ。僕はすごく好きだった」

 今日のことは、今日の僕にしかわからない。そう思って、素直な感想を口にしたら陽咲がふわっと嬉しそうに笑った。

「ありがとう」

 陽咲の笑顔に、左胸がドクンと跳ねる。だけど、そのことを悟られるわけにはいかない。陽咲にも、大晴にも。

 今感じているときめきも愛おしさも。伝えてはいけない、ままならない感情すべて。今日の僕が持ったまま消えるのだから。 

「鍵、僕が返してくるよ」

 試写会が終わったあと、僕はパソコン室の鍵を返却に行くことを申し出た。

 大晴と陽咲は僕も含めて三人で帰宅するつもりだったみたいだけれど、その誘いは断った。 

「僕はいいよ。邪魔しちゃ悪いし」

 七月七日よりも先に進めない僕は、陽咲と大晴の未来を邪魔しちゃいけない。もう二度と、陽咲に気持ちを伝えてはいけない。

 大晴が残した映画の中の、僕らがほんの少しだけ気持ちを重なり合わせた記録。明日にはすべてを忘れてしまっても、僕にはそれがあれば充分だから。

 陽咲と大晴の未来がしあわせに続くことを願うよ。陽咲がずっと、笑っていてくれるように。

 それが、僕の望むハッピーエンドだ。