家に帰って、部屋のベッドに寝そべると、なんだか急に眠くなってきた。 

「陽咲ー、帰ったならお風呂に入っちゃってよ〜」

 ドアの向こうから聞こえてきたお母さんの声に「はーい」と答えて、そのままウトウトと目を閉じる。瞼の裏には、まだ公園の花火が残像に残っていて、赤や黄色の光がチカチカと点滅する。それに混じって、ときどき蒼月の笑う顔がちらつく。

 どうして、蒼月――?

 寝ぼけた頭で考えていると、ピリリッと耳元でスマホが鳴った。スマホを手で手繰り寄せて、うっすらと目を開けて見ると、大晴から電話がかかってきていた。

 さっき別れたところなのに、いったい何の用だろう。

「もしもし……?」
「陽咲? 寝てた?」

 電話に出たわたしの掠れた声を聞いて、大晴がククッと笑っている。

「んー、ちょっと。ウトウトしてた。なに、大晴。何か用事?」

 寝転んだまま気だるげな対応をするわたしに、「おれの扱い雑だろ」と大晴が文句を言ってきた。

「それは、お互い様でしょ」

 ふっと笑うと、大晴が「あのさー」と言ったきり、しばらく無言になる。

「ん?」

 用もないのにかけてきたとかはないよね。なんだか、目が覚めてきた。不審に思いながら、ゆっくりとベットから身体を起こしたとき。

「来週末……、十二日の土曜日なんだけど、ふたりで地元の夏祭り行かない?」

 少し緊張しているみたいな大晴の声が耳に届いた。その声の雰囲気で、夏休み前に告白されたときのことを思い出す。

 告白してきたときの大晴は、夏休み中にデートをしたいからそれまでに返事がほしいと言っていた。わたしもそのつもりでいたけれど、大晴が映画撮影のことを持ち出してきたことで、告白の返事はできないままになっていた。夏休みが始まっても、大晴は告白の返事を催促してこないし、デートにも誘ってこない。

 だから、わたしは少し安心していた。もしかしたら、このままうやむやになってしまえばいいと心のどこかで思っていたのかもしれない。

 でも、忘れていたわけではなかったんだ。何も言わないだけで、大晴はわたしからの告白の返事を待っている。そう思うと、トクトクと、脈が速くなっていく。

「おれとふたりじゃ嫌?」

 黙っていると、大晴がわたしに訊ねてくる。明るくて奔放な大晴にしてはめずらしい、不安そうな声。それを聞いたら、告白の返事をうやむやにしてしまおうとしていたことが申し訳なくなった。

 生まれたときからずっと一緒だった幼なじみ。わたしに告白しようと決めたとき、大晴はきっと、長年幼なじみとして築いてきたわたし達の関係が崩れてしまうことも覚悟していたはずだ。その覚悟に、わたしもちゃんと向き合わないといけない。

「嫌じゃないよ。ふたりで行こう」

 わたしが言うと、「よかった」と、大晴が電話越しにほっと息を吐く。

「楽しみにしてる。でも、まずは二日後の海での撮影だな」 
 わたしの返事を聞いて緊張が解けたらしい。電話越しに聞こえてくる大晴の声が、明朗になる。

「予報通り、晴れるといいね」
「大丈夫だろ。きっと、いい映画ができるよ。何度忘れても思い出せる」
「え……? 何を?」
「ん? おれの編集に期待しててってこと」

 大晴がそう言って、ふっと笑う。大晴の自信たっぷりな言葉に苦笑いしながら、わたしは何か大切なことを誤魔化されているような気がしていた。