それからというもの、僕は毎日アヤトさんと落ち合い、パン屋のトラックで試供品のパンを一緒に食べるようになった。アヤトさんは僕のためにサンドイッチも残してくれていて、お金を払おうとすると、
「これは僕が試しに作ったやつで、見た目が悪いからダメになったものだよ。私も一緒に食べるから心配しないで」
そう言って一緒に食べてくれた。店長さんが作るしっかりしたパンとは違って、見た目が少し崩れているザクザクパンを、彼が作っていたなんてちょっと驚きだ。
「実は、この前のザクザクパン、僕が作ったんだ。嘘ついてごめん」
「あ、やっぱり……でも、今日も売ってたね。少し形が整ってる気がするけど」
「店長に相談したらOKもらって、改良したんだ。名前もそのまま『ザクザクパン』ってトオルくんのおかげで決まったんだよ」
「まじかよ、恥ずかしいな……」
「いいじゃない、結構評判なんだから」
やっぱり、ザクザクした食感がこのパンの魅力だ。
彼と過ごす時間が増えるにつれ、僕がいじめられていることも、アヤトさんには自然とわかってしまったようだ。
「今もあるのね、そういうパシリみたいな役回り。断れないの?」
「……そのグループのリーダーは〇〇商事のお偉いさんの息子だし、周りも先生ですら見て見ぬふりしてるんだ。クラスが変わらない限り、状況は変わらないと思う。それに、僕が逃げても他の子がいじめられるだけだ」
そう言って、僕は胸の中に溜まっていた思いを吐露した。
「トオルくん……本当に、弱いの?」
その言葉に、僕は俯く。体力もないし、口も達者な方じゃない。何より、僕の家庭の貧しさが、僕の自信を奪っているんだ。
「最近、共働きの家庭が増えてるから、親が弁当を作る時間がないっていう話もよく聞く。子供にお金を渡して済ませる親も多いけど、ちゃんとした食事が取れないからイライラして、結局誰かに当たるってことも少なくない」
アヤトさんの言葉に、僕はうなずいた。確かに、僕の家も両親が忙しくてご飯を作れないことが多い。だからこそ、僕が家族の弁当を作っているんだ。早起きはきついけど、それでも頑張っている。
「ケンカしても勝てないし、言い返すのも難しいんだよ」
「暴力には暴力で返すのは絶対にダメ。それだけは約束して」
アヤトさんは僕の目をしっかり見つめながら言った。確かに、暴力で解決することはできない。でも、耐えるにも限界がある。
その時、アヤトさんが一枚のチラシを差し出してきた。
「これ、どうかな?」
そこには「ハロウィンイケメン高校生コンテスト」と書かれていた。
「イケメン……コンテスト?!」
イケメンだなんて、僕には縁遠い言葉だ。
おしゃれする余裕なんてないし、時間もない。肌も荒れてるし、服だって何年も同じものばかり。
すると、アヤトさんが突然僕の前髪を掴んでガッと上げた。
「眉毛と髪型を整えれば、君、絶対かっこよくなると思うよ」
こんなに近くでまじまじと顔を見られたのは初めてだった。恥ずかしくてたまらない。アヤトさんのうるんだ目、長くカールしたまつ毛……男なのに、どうしてこんなに美しいんだ?
顔が一気に熱くなる。心臓がバクバクしてるのが、自分でも分かる。
なんで、こんなにドキドキしてるんだろう……。
「まつ毛も濃いし、長くてカールもしてるじゃん。羨ましいわ……そうだ!」
アヤトさんが急に僕の手を握った。
「私に任せて! トオルくんをもっとかっこよくさせてあげる」
「えっ? そ、そんな! ぼ、僕がコンテストに出るなんて……!」
「そうよ、もちろん! まだ時間はあるし」
え……本当に無理だよ、そんなの……。
「でも、トオルくんも努力はしてもらうけどね。お金がかからない方法で十分! 見返してやろうよ、あのいじめてくる人たちを」
アヤトさんの目は本気だった。まさか自分がそんなことをするなんて思ってもみなかったけど……。
「ええ?! ほんとに僕が……?」
自信がないまま、僕は戸惑ったままアヤトさんの手を見つめていた。
「これは僕が試しに作ったやつで、見た目が悪いからダメになったものだよ。私も一緒に食べるから心配しないで」
そう言って一緒に食べてくれた。店長さんが作るしっかりしたパンとは違って、見た目が少し崩れているザクザクパンを、彼が作っていたなんてちょっと驚きだ。
「実は、この前のザクザクパン、僕が作ったんだ。嘘ついてごめん」
「あ、やっぱり……でも、今日も売ってたね。少し形が整ってる気がするけど」
「店長に相談したらOKもらって、改良したんだ。名前もそのまま『ザクザクパン』ってトオルくんのおかげで決まったんだよ」
「まじかよ、恥ずかしいな……」
「いいじゃない、結構評判なんだから」
やっぱり、ザクザクした食感がこのパンの魅力だ。
彼と過ごす時間が増えるにつれ、僕がいじめられていることも、アヤトさんには自然とわかってしまったようだ。
「今もあるのね、そういうパシリみたいな役回り。断れないの?」
「……そのグループのリーダーは〇〇商事のお偉いさんの息子だし、周りも先生ですら見て見ぬふりしてるんだ。クラスが変わらない限り、状況は変わらないと思う。それに、僕が逃げても他の子がいじめられるだけだ」
そう言って、僕は胸の中に溜まっていた思いを吐露した。
「トオルくん……本当に、弱いの?」
その言葉に、僕は俯く。体力もないし、口も達者な方じゃない。何より、僕の家庭の貧しさが、僕の自信を奪っているんだ。
「最近、共働きの家庭が増えてるから、親が弁当を作る時間がないっていう話もよく聞く。子供にお金を渡して済ませる親も多いけど、ちゃんとした食事が取れないからイライラして、結局誰かに当たるってことも少なくない」
アヤトさんの言葉に、僕はうなずいた。確かに、僕の家も両親が忙しくてご飯を作れないことが多い。だからこそ、僕が家族の弁当を作っているんだ。早起きはきついけど、それでも頑張っている。
「ケンカしても勝てないし、言い返すのも難しいんだよ」
「暴力には暴力で返すのは絶対にダメ。それだけは約束して」
アヤトさんは僕の目をしっかり見つめながら言った。確かに、暴力で解決することはできない。でも、耐えるにも限界がある。
その時、アヤトさんが一枚のチラシを差し出してきた。
「これ、どうかな?」
そこには「ハロウィンイケメン高校生コンテスト」と書かれていた。
「イケメン……コンテスト?!」
イケメンだなんて、僕には縁遠い言葉だ。
おしゃれする余裕なんてないし、時間もない。肌も荒れてるし、服だって何年も同じものばかり。
すると、アヤトさんが突然僕の前髪を掴んでガッと上げた。
「眉毛と髪型を整えれば、君、絶対かっこよくなると思うよ」
こんなに近くでまじまじと顔を見られたのは初めてだった。恥ずかしくてたまらない。アヤトさんのうるんだ目、長くカールしたまつ毛……男なのに、どうしてこんなに美しいんだ?
顔が一気に熱くなる。心臓がバクバクしてるのが、自分でも分かる。
なんで、こんなにドキドキしてるんだろう……。
「まつ毛も濃いし、長くてカールもしてるじゃん。羨ましいわ……そうだ!」
アヤトさんが急に僕の手を握った。
「私に任せて! トオルくんをもっとかっこよくさせてあげる」
「えっ? そ、そんな! ぼ、僕がコンテストに出るなんて……!」
「そうよ、もちろん! まだ時間はあるし」
え……本当に無理だよ、そんなの……。
「でも、トオルくんも努力はしてもらうけどね。お金がかからない方法で十分! 見返してやろうよ、あのいじめてくる人たちを」
アヤトさんの目は本気だった。まさか自分がそんなことをするなんて思ってもみなかったけど……。
「ええ?! ほんとに僕が……?」
自信がないまま、僕は戸惑ったままアヤトさんの手を見つめていた。