僕が自分で作ってきた弁当を開こうとすると、すかさずエイジたちがからかい始める。

「なんだ、そのカス弁当」
「地味すぎだろ、笑える」
彼らはくちゃくちゃ口に食べ物を含んだまま見下してくる。

しょうがない。弁当には昨晩のおかず、安い米のご飯、少し焦げた卵焼き。それは弟が癇癪を起こしたせいで焦がしてしまったんだ。母さんが作り置きしてくれたヒジキの煮物も入れてあるけど、全体的に地味な見た目だ。弁当箱も黒くて、より一層地味に見える。

「きゃー、手が滑ったー」
突然、いじめグループの女子が僕の弁当に手を伸ばして、それを落としてしまった。もちろん、わざとだってわかっている。

「またか……」
僕はうつむきながら、落ちた弁当を見つめる。朝早く起きて家族の分と一緒に作った弁当が、こうして台無しにされるのはもう何度目だろう。

「それ捨てちゃうのかよ、もったいねーなー」
「食べ物が化けて出るぞー」
「犬みたいに床で食べたら?」
彼らは笑いながら嘲る。クラスメイトたちも、誰一人助けてくれるわけでもなく、見て見ぬ振りをしている。

くそ、くそ、くそ!!!

僕は弁当をかき集めて、弁当袋に詰め込み、教室を飛び出した。向かった先は下駄箱だ。さっき買ったパンを一つ入れておいたのだ。一番潰れていたホイップ入りのパン。もちろんこれだけではお腹が満たされるわけないけど、もう慣れている。このクラスになってから半年、毎日こんな感じだ。

急いでパンを取り出し、下駄箱の隅でかじりつく。誰かが来る前に食べ終わらないと。

「あの……」
誰も来ないはずの場所に、声が聞こえてしまった。僕が振り向くと、そこにはパン屋の売り子さんが立っていた。いつものにこやかな笑顔を浮かべている。きっと帰り道なんだろう。

「こんなところで食べてたんだ?」
僕は慌てて口を拭うと売り子さんが水筒を差し出してきた。
「喉つまらすよ。飲んで」
彼の強い口調に従って、僕はお茶を受け取り、一口飲む。

「これだけ?」
「はい」
「なら、これもどうぞ」
売り子さんは大きなカバンからパンを取り出した。チョコチップメロンパンだ。

「まだ試作品なんだ。先生たちに配って余ったから。アレルギーとかないよね?」
「ないです。ありがとうございます」
見た目はちょっとゴツゴツしているけど、なんだかおいしそうだ。

「これは店長が、残った材料を混ぜて作ったものなんだ」
「あ、店長が……てっきりあなたが作ったのかと」
僕の言葉に売り子さんは笑った。

「僕も修行中なんだ。まだまだだよ。でも、君がそう思ってくれるなんて嬉しい」
そう言われて、僕はパンをかじる。ザクザクとした食感、チョコと胡桃が絶妙に合わさっていて、本当においしい。

「おいしいです! ザクザクパンって感じですね」
「ザクザクパンか……その名前、いただこうかな」
「えっ、冗談です……」
恥ずかしさで顔が赤くなる。僕のネーミングセンスなんて、たいしたことないのに。

「あ、名前、聞いてなかったよね。優木……」
「トオルです。あなたは?」
つい気になって、逆に聞いてしまった。

「柿本アヤトだよ。アヤトって呼んでくれていい」
「じゃあ……アヤトさんで」
年上の人を呼び捨てにはできない。アヤトさんは少し笑った。

「僕もトオルくんって呼ぶね。また明日、待ってるよ」
その笑顔に、胸が少しだけ暖かくなった気がした。なぜか……そして少しドキドキした。