「焼きそばパン買ってこいよ」
「私はクリームパン」
「俺は三食豆パン!」
午前の授業が終わると、いつものようにいじめグループに囲まれた。僕は教室の後ろの隅に座っていたが、逃げ場なんてどこにもない。彼らは昼ごはんのパンをパシらせるのが日課で、もちろんお金は僕持ちだ。
「一気に注文したら、また前みたいに間違って買ってくるだろ?」と、グループのリーダー、エイジが割り込んできた。相変わらず似合わない金髪で、根元が黒くなっている。
「俺はめんたいフランスパンな。早く行けよ」と、エイジが僕の背中を押す。
鬱陶しい、そう言いたかったのに、飲み込んで僕は立ち上がった。高校の食堂のパン売り場は、昼休みになると生徒でごった返す。僕は普段弁当を持ってくるけど、最近は両親が共働きで作ってもらえず、コンビニやこのパン屋で昼ごはんを買う日が増えた。特にこのパン屋は駅前の人気店で、学生割引があるため、パンの争奪戦は激しい。
売り切れても、買ってきても、どのみちエイジたちは文句を言ってくる。クラスの誰もが見て見ぬふりだし、エイジの親が学校に出資しているから、先生たちも何も言わない。
僕は走った。人にぶつかり、謝り、睨まれて逃げる。転んでも立ち上がり、ようやくパン売り場にたどり着く。
「あれ……なんだったっけ」
焦って頭が真っ白になり、注文を忘れてしまった。どうしよう、またいじめられる。そんなことを考えているうちに、棚には潰れたパンが数点残るだけだった。
「大丈夫かい?」と、声をかけてくれたのはパン屋の売り子さんだった。
「いつもたくさん買ってるけど、友達の分?」
声をかけられたのは初めてだ。いつも見かけるパン屋の売り子だが、こんなふうに話しかけられるのは初めてだった。僕より少し年上に見えるけど、完全に大人ではない。男のくせに、綺麗な顔をしているなと前から思っていた。あんなに多くの生徒が押し寄せるのに、僕のことを覚えているなんて不思議だ。
「財布がべりべりのだから覚えてたよ」
彼は僕が持っている、マジックテープで開く財布を指差した。これは駅前の百均で買ったものだ。じいちゃんの形見の財布を、エイジたちのせいで川に落としてしまったから、仕方なくこれを使っている。バイトもできないし、弟の面倒を見ながら家事をしているから自由な時間もない。母さんが一生懸命働いてくれて、この高校に通わせてもらっている。
でも、じいちゃんの形見を無くしたなんて言えない。大事すぎてしまってあると言い訳している。
「とりあえず、残ってるこのパンを」
僕が指をさすと、店員はにっこりして言った。
「半額でいいよ。誰も買わないからさ」
はみ出したクリームに、潰れた生地。じいちゃんが「食べ物を粗末にする奴には、夜に食べ物が化けて出るぞ」って怖い顔で言ってたのを思い出す。だから僕はいつも、食べ残しをしないように心がけている。このパンを作る老夫婦のことを思うと、潰れたパンでもちゃんと持っていこうと思った。
「そのまま買います」
僕は目で計算して、残り少ないお金でパンを買い、店を出た。
「ありがとうございます」
売り子さんが深々と頭を下げてくれた。
しかし、教室に戻ると案の定、エイジたちは文句を言ってきた。
「遅ぇよ」
「なんだこのパン、潰れてるじゃねぇか」
「ゴミでも食わせるつもりか!」
わかってたけど、やっぱり胸が痛む。だけど、彼らは結局、文句を言いながらもパンを口に押し込み、他の食べ物と一緒にすぐに食べ終わってしまった。飲み込むようにして、あっという間だった。
これがいつものことだ。それでも、僕はパンを買ってきたんだ。
「私はクリームパン」
「俺は三食豆パン!」
午前の授業が終わると、いつものようにいじめグループに囲まれた。僕は教室の後ろの隅に座っていたが、逃げ場なんてどこにもない。彼らは昼ごはんのパンをパシらせるのが日課で、もちろんお金は僕持ちだ。
「一気に注文したら、また前みたいに間違って買ってくるだろ?」と、グループのリーダー、エイジが割り込んできた。相変わらず似合わない金髪で、根元が黒くなっている。
「俺はめんたいフランスパンな。早く行けよ」と、エイジが僕の背中を押す。
鬱陶しい、そう言いたかったのに、飲み込んで僕は立ち上がった。高校の食堂のパン売り場は、昼休みになると生徒でごった返す。僕は普段弁当を持ってくるけど、最近は両親が共働きで作ってもらえず、コンビニやこのパン屋で昼ごはんを買う日が増えた。特にこのパン屋は駅前の人気店で、学生割引があるため、パンの争奪戦は激しい。
売り切れても、買ってきても、どのみちエイジたちは文句を言ってくる。クラスの誰もが見て見ぬふりだし、エイジの親が学校に出資しているから、先生たちも何も言わない。
僕は走った。人にぶつかり、謝り、睨まれて逃げる。転んでも立ち上がり、ようやくパン売り場にたどり着く。
「あれ……なんだったっけ」
焦って頭が真っ白になり、注文を忘れてしまった。どうしよう、またいじめられる。そんなことを考えているうちに、棚には潰れたパンが数点残るだけだった。
「大丈夫かい?」と、声をかけてくれたのはパン屋の売り子さんだった。
「いつもたくさん買ってるけど、友達の分?」
声をかけられたのは初めてだ。いつも見かけるパン屋の売り子だが、こんなふうに話しかけられるのは初めてだった。僕より少し年上に見えるけど、完全に大人ではない。男のくせに、綺麗な顔をしているなと前から思っていた。あんなに多くの生徒が押し寄せるのに、僕のことを覚えているなんて不思議だ。
「財布がべりべりのだから覚えてたよ」
彼は僕が持っている、マジックテープで開く財布を指差した。これは駅前の百均で買ったものだ。じいちゃんの形見の財布を、エイジたちのせいで川に落としてしまったから、仕方なくこれを使っている。バイトもできないし、弟の面倒を見ながら家事をしているから自由な時間もない。母さんが一生懸命働いてくれて、この高校に通わせてもらっている。
でも、じいちゃんの形見を無くしたなんて言えない。大事すぎてしまってあると言い訳している。
「とりあえず、残ってるこのパンを」
僕が指をさすと、店員はにっこりして言った。
「半額でいいよ。誰も買わないからさ」
はみ出したクリームに、潰れた生地。じいちゃんが「食べ物を粗末にする奴には、夜に食べ物が化けて出るぞ」って怖い顔で言ってたのを思い出す。だから僕はいつも、食べ残しをしないように心がけている。このパンを作る老夫婦のことを思うと、潰れたパンでもちゃんと持っていこうと思った。
「そのまま買います」
僕は目で計算して、残り少ないお金でパンを買い、店を出た。
「ありがとうございます」
売り子さんが深々と頭を下げてくれた。
しかし、教室に戻ると案の定、エイジたちは文句を言ってきた。
「遅ぇよ」
「なんだこのパン、潰れてるじゃねぇか」
「ゴミでも食わせるつもりか!」
わかってたけど、やっぱり胸が痛む。だけど、彼らは結局、文句を言いながらもパンを口に押し込み、他の食べ物と一緒にすぐに食べ終わってしまった。飲み込むようにして、あっという間だった。
これがいつものことだ。それでも、僕はパンを買ってきたんだ。