私の自宅は、ここから徒歩で十五分くらいの距離にある。私が通っていた小学校、中学校も徒歩圏内にあり、真莉愛が知れば、こんなに学校が近いなんてと羨ましがるだろう。

 ただ、自宅から学校にたどり着くまでに、交通量の多い大きな道路がある。ここが私の事故現場でもあるため、両親は高校が近所であっても、心配が絶えないのだ。
 朝の時間は、小学校が近くにあるのでボランティア活動の人が毎朝交差点で旗振りや見守り活動をしているので、両親も安心している。けれども、帰宅時間にボランティアさんはいないので、母を安心させるため帰宅前に連絡を入れるようにしているのだ。

 図書室を出て、私たちは駐輪場へと向かった。

 校内での自転車の運転は禁止されているので、校門を出るまでは真莉愛も自転車を手押しで移動しなければならない。

 聞けば、真莉愛の通学路は私の自宅前を通るとのことで、今日は自宅まで一緒に帰ることとなった。真莉愛の家は遠いので、早く帰りたいだろうに申し訳ない気持ちになるも、真莉愛は笑って答える。

「何言ってんのよ。友達でしょ? それに、私が一緒ならお母さんも安心するでしょ?」

 その言葉を聞いて、私は胸が温かくなった。

 ああ、友達っていいな。

 私は真莉愛の言葉に甘えて、これから下校は一緒に帰ることとなった。

 翌日の放課後、私たちは写真部の部室へと呼び出された。部室の扉を開けると、そこには昨日部室にいた部長、西村先輩、そして顧問で私たちのクラスの副担任、落合先生が椅子に腰掛けて私たちのことを待っていた。

 落合先生は、前髪をオールバックにして、銀縁の眼鏡を掛けている。眼鏡を外して前髪を下ろしたら、きっと今よりも若く見えるだろう。

 入学式の日のHRで、西村先輩に雰囲気が似ていると思っていたけれど、親戚なら納得がいく。

 西村先輩の叔父さんだと事前に聞いていたけれど、若く見えるせいで年齢の想像がつかない。

「空いた席に座って」

 部長の声に、私たちは机の上に荷物を置くと、二人並んで椅子に腰掛けた。

「昨日、部長から入部届を預かったんだけど。これ、第二、第三希望の欄が未記入だったけど……?」

 落合先生はそう言うと、昨日提出したプリントを私たちの目の前に並べた。部長と西村先輩は、落合先生の言葉を黙って聞いている。

 しばらく沈黙が続いたけれど、その沈黙を破ったのは真莉愛だった。

「はい。私は写真部以外に、入りたい部活動がありません。それと、私は中嶋さんと一緒に入部を希望します。どちらかが入部できないなら、入部は辞退したいと思います」

 その言葉に、私も同じ意見だと頷いた。
 それを見て落合先生は、静かに口を開いた。

「それから、昨日、自前の一眼レフを持ち込んでも入部したいって聞いたけれど……」

「あ、それは私が言いました。写真部の入部希望者が多いと聞いていたので、もし私と中嶋さんが一緒に入れるなら、私は父が一眼レフを持っているのでそれを使います」

 真莉愛の言葉に、落合先生が考え込む。

「んー、どうしたものかねえ……」

 しばらく部室の中に沈黙が走る。
 その間に、ほかの部員が次々と部室に入ってくると、ロッカーの中に置かれているカメラを手に取り、部室を後にする。人の出入りをやり過ごし、しばらくしてから先生はポツリと呟いた。

「とりあえず、今、爽真……西村くんが使ってるカメラは買い替えの予算が下りてるから、それで一台購入する予定なんだけど……。一眼レフは高額な物だし、個人所有のものに何かあった時に補償ができないから、今後も持ち込みは許可しない。本当に二人は、他に入りたい部はないのか?」

 落合先生は、私たちに最終意思を確認する。多分ここでうんと言わないと、入部は叶わないだろう。

 私たちは無言で首を縦に振ると、落合先生は大きな溜息を吐き、しばし考え込むように腕を組んだ。

 先輩たちも、先生が決断を下すのを見守っている。
 そして、少しして落合先生が口を開いた。

「……本当なら平等に選考すべきだけど、二人とも俺のクラスの生徒だし、特別に入部を許可しよう」

 その言葉を聞き、私たちの顔に笑みが浮かんだ。

 部長は驚きの表情を見せ、それと対照的に先輩は安堵の表情を浮かべている。

 私たちが「やった!」と声を漏らしたその途端、先生が再び口を開く。

「その代わり、写真部は元々活動もそこまで活発じゃない部だ。だから二人とも、引退まで退部するなよ?」

 落合先生の言葉に、一瞬真莉愛は表情が固まったけれど、すぐに元気よく「はい!」と返事をした。

 私も真莉愛に釣られて返事をすると、正式な入部は、来週決定するからそれまでは他言無用と箝口令を敷かれた。先輩たちも、先生の決定事項に反論できないので、部長も渋々頷いた。対する西村先輩は、「良かったな」と笑みを見せ、その表情を見た私は、なぜか顔が熱くなった。

 その様子を面白そうに見つめるのは落合先生と真莉愛だけど、この場で何かを口にすることはなく、こうして私たちの写真部入部が決まった。