「どうする? 私たちも部活動見学、行ってみる?」
真莉愛の問いに、私は頷く。今日は塾のない日なので、帰宅が遅くなっても大丈夫だ。高校に進学して、授業についていけなかったら困ると、中学時代に通っていた学習塾へ継続して通うことにしてたのだ。
私たちもみんなに倣って自分の荷物を片付けると、写真部の部室へと向かった。
放課後の学校は、どこにこれだけの人がいるのかというくらい、人で溢れている。体験入部の期間中だけあり、中庭で部活動勧誘をする上級生の姿も多いからだろう。
案の定、高身長の真莉愛は早速運動部の上級生に目を付けられてスカウトの声が掛かるけれど、真莉愛はそれを軽く交わす。気のない返事だと私でもわかる。それでも上級生はしつこく食い下がるけれど、真莉愛はジロリと一瞥し、その場を立ち去ろうとする。
私は内心ハラハラしながらそのやりとりを見ていたけれど、あまりにしつこい勧誘にウンザリした真莉愛は、私の手を取ると、「走るよ!」と声を掛けダッシュした。
上級生は呆気に取られてその場に佇んでいる。私は真莉愛に手を引かれているので、転ばないよう着いて走るのに必死だ。
文化部の部室は、特別教棟にある。
特別教棟の入口は一箇所しかなく、その入口は体験入部の希望者でごった返していた。
人気の高い吹奏楽部は、この混雑を解消すべく仮入部者を音楽室へと誘導している最中で、私たちは人混みが落ち着くのを中庭のベンチに座って待つことにした。
しばらくすると、吹奏楽部の部室前から人だかりが消えた。音楽室への移動が完了したのだろう。私たちはベンチから立ち上がると、特別教棟へと足を踏み入れた。
吹奏楽部の隣にある箏曲部の部室から、人の話し声が聞こえたかと思うと、琴の音色が聞こえた。演奏ではなく、一音ずつ音を出しているので、きっと花音ちゃんたちが体験で琴に触れているのだろう。
私たちは、写真部の部室を探しながら、廊下を歩いていた。
目的の写真部は、奥から一つ手前にあった。一番奥は、生徒会室だ。私たちは視線が合うと、互いに頷いて、軽い深呼吸をする。そして、右手で部室のドアをノックした。
少しして、ドアが開く。私たちを出迎えてくれたのは、昨日私を人混みから救い出し、今朝昇降口で話をした西村先輩、その人だった。
入口で私たち三人が顔を突き合わせる形となったけれど、先輩が先に動いた。
「いらっしゃい。入部希望でいいのかな?」
私と真莉愛はお互いアイコンタクトすると、同時に頷く。すると先輩は、私たちを部室の中へと招き入れた。
私たちを椅子に座らせると、先ほど部活動紹介でマイクを握っていた部長が口を開く。部長も西村先輩と同じくらい身長が高い。
「今の時点で入部希望者は、君たちを入れて八人なんだけど……、第二、第三希望の部って決まってる?」
「いえ……、写真部以外にこれだと思う部活動がなくて……、ね?」
真莉愛が私に同意を求めるので、私も無言で頷いた。
その様子見て、先輩たちは思案しているようだ。
「んー、どうしたものかねえ……。うちは活動の時に学校が所有している一眼レフを貸し出しするんだけど、カメラの台数分以上の入部希望者がいるとそれができないから、どうしても人数制限をかけなきゃならなくてね……」
部長はそう言うと、カメラを保管しているロッカーへと私たちを案内する。
ロッカーの扉を開くと、そこには一眼レフカメラが並べられていた。その数は、十台ある。
「今、写真部に在籍しているのは十人。二年と三年がそれぞれ五人ずついるんだけどね。三年は一学期で部活を引退するから、その間に三年生が一年生にカメラの使い方を教えて引継ぎする。だから、一年生の入部は五人までなんだ」
カメラを見せられて、改めて入部の難しさを実感したその時だった。
「……一眼レフって、自己所有のものがあれば入部できますか?」
真莉愛はカメラを見ながら部長に問いかけた。その問いに、先輩たちは困惑しているようだ。
「えっと……、過去に自己所有のカメラを持ち込んだ生徒の前例がないから、これは顧問に相談してみないとわからないな……。もし仮に、自己所有のカメラを使って活動するとして、カメラに何かあった時の補償ができないんじゃないかな……」
部長は西村先輩に問いかけるように口を開く。
西村先輩も、部長の言葉に困惑しているようだ。
「うん。多分、持ち込みは許可してないんじゃないかな……。泰兄に聞いてみないと……って、あれ? 泰兄、一年二組の副担じゃなかったっけ?」
西村先輩はそう言うと、鞄の中からプリントを取り出して、それに目を通す。それは、今年一年の教職員一覧表だった。
「ああ、やっぱりそうだ。泰兄、今年は一年二組の副担だ。香織ちゃん、二組って言っていたよね?」
突然私に話題が振られ、私は驚きながらも頷いた。
「写真部の顧問は、一年二組の副担任、落合泰之先生で、こいつの親戚なんだ」
部長の言葉に、私たちは落合先生の顔を思い出そうとするも、まだそこまでの接点もないし、会話も交わしていないので全然印象に残っていない。そのためすぐに顔を思い出せないでいた。
「落合先生……、どんな先生だったっけ?」
真莉愛が、私に小声で問いかける。
「ごめん、まだ顔もよく覚えてないよ」
この場で落合先生が西村先輩に雰囲気が似ているとはさすがに言い出しにくい。私はオロオロになりながら答えると、そのやり取りを聞いた先輩たちが笑い出す。
「ははは、そうだよな。まだ入学して一日しか経っていないのに、覚えているほうがすごいって」
「うん。僕たちもそうだったからな。……泰兄は、僕の母の弟……、叔父に当たる人でね。身内ってことは、泰兄があまり公言してないみたいだから、部活内の話でよろしく頼むよ」
部長と西村先輩が順番に口を開く。私たちは西村先輩の秘密を聞き、口外しないと約束した。
真莉愛の問いに、私は頷く。今日は塾のない日なので、帰宅が遅くなっても大丈夫だ。高校に進学して、授業についていけなかったら困ると、中学時代に通っていた学習塾へ継続して通うことにしてたのだ。
私たちもみんなに倣って自分の荷物を片付けると、写真部の部室へと向かった。
放課後の学校は、どこにこれだけの人がいるのかというくらい、人で溢れている。体験入部の期間中だけあり、中庭で部活動勧誘をする上級生の姿も多いからだろう。
案の定、高身長の真莉愛は早速運動部の上級生に目を付けられてスカウトの声が掛かるけれど、真莉愛はそれを軽く交わす。気のない返事だと私でもわかる。それでも上級生はしつこく食い下がるけれど、真莉愛はジロリと一瞥し、その場を立ち去ろうとする。
私は内心ハラハラしながらそのやりとりを見ていたけれど、あまりにしつこい勧誘にウンザリした真莉愛は、私の手を取ると、「走るよ!」と声を掛けダッシュした。
上級生は呆気に取られてその場に佇んでいる。私は真莉愛に手を引かれているので、転ばないよう着いて走るのに必死だ。
文化部の部室は、特別教棟にある。
特別教棟の入口は一箇所しかなく、その入口は体験入部の希望者でごった返していた。
人気の高い吹奏楽部は、この混雑を解消すべく仮入部者を音楽室へと誘導している最中で、私たちは人混みが落ち着くのを中庭のベンチに座って待つことにした。
しばらくすると、吹奏楽部の部室前から人だかりが消えた。音楽室への移動が完了したのだろう。私たちはベンチから立ち上がると、特別教棟へと足を踏み入れた。
吹奏楽部の隣にある箏曲部の部室から、人の話し声が聞こえたかと思うと、琴の音色が聞こえた。演奏ではなく、一音ずつ音を出しているので、きっと花音ちゃんたちが体験で琴に触れているのだろう。
私たちは、写真部の部室を探しながら、廊下を歩いていた。
目的の写真部は、奥から一つ手前にあった。一番奥は、生徒会室だ。私たちは視線が合うと、互いに頷いて、軽い深呼吸をする。そして、右手で部室のドアをノックした。
少しして、ドアが開く。私たちを出迎えてくれたのは、昨日私を人混みから救い出し、今朝昇降口で話をした西村先輩、その人だった。
入口で私たち三人が顔を突き合わせる形となったけれど、先輩が先に動いた。
「いらっしゃい。入部希望でいいのかな?」
私と真莉愛はお互いアイコンタクトすると、同時に頷く。すると先輩は、私たちを部室の中へと招き入れた。
私たちを椅子に座らせると、先ほど部活動紹介でマイクを握っていた部長が口を開く。部長も西村先輩と同じくらい身長が高い。
「今の時点で入部希望者は、君たちを入れて八人なんだけど……、第二、第三希望の部って決まってる?」
「いえ……、写真部以外にこれだと思う部活動がなくて……、ね?」
真莉愛が私に同意を求めるので、私も無言で頷いた。
その様子見て、先輩たちは思案しているようだ。
「んー、どうしたものかねえ……。うちは活動の時に学校が所有している一眼レフを貸し出しするんだけど、カメラの台数分以上の入部希望者がいるとそれができないから、どうしても人数制限をかけなきゃならなくてね……」
部長はそう言うと、カメラを保管しているロッカーへと私たちを案内する。
ロッカーの扉を開くと、そこには一眼レフカメラが並べられていた。その数は、十台ある。
「今、写真部に在籍しているのは十人。二年と三年がそれぞれ五人ずついるんだけどね。三年は一学期で部活を引退するから、その間に三年生が一年生にカメラの使い方を教えて引継ぎする。だから、一年生の入部は五人までなんだ」
カメラを見せられて、改めて入部の難しさを実感したその時だった。
「……一眼レフって、自己所有のものがあれば入部できますか?」
真莉愛はカメラを見ながら部長に問いかけた。その問いに、先輩たちは困惑しているようだ。
「えっと……、過去に自己所有のカメラを持ち込んだ生徒の前例がないから、これは顧問に相談してみないとわからないな……。もし仮に、自己所有のカメラを使って活動するとして、カメラに何かあった時の補償ができないんじゃないかな……」
部長は西村先輩に問いかけるように口を開く。
西村先輩も、部長の言葉に困惑しているようだ。
「うん。多分、持ち込みは許可してないんじゃないかな……。泰兄に聞いてみないと……って、あれ? 泰兄、一年二組の副担じゃなかったっけ?」
西村先輩はそう言うと、鞄の中からプリントを取り出して、それに目を通す。それは、今年一年の教職員一覧表だった。
「ああ、やっぱりそうだ。泰兄、今年は一年二組の副担だ。香織ちゃん、二組って言っていたよね?」
突然私に話題が振られ、私は驚きながらも頷いた。
「写真部の顧問は、一年二組の副担任、落合泰之先生で、こいつの親戚なんだ」
部長の言葉に、私たちは落合先生の顔を思い出そうとするも、まだそこまでの接点もないし、会話も交わしていないので全然印象に残っていない。そのためすぐに顔を思い出せないでいた。
「落合先生……、どんな先生だったっけ?」
真莉愛が、私に小声で問いかける。
「ごめん、まだ顔もよく覚えてないよ」
この場で落合先生が西村先輩に雰囲気が似ているとはさすがに言い出しにくい。私はオロオロになりながら答えると、そのやり取りを聞いた先輩たちが笑い出す。
「ははは、そうだよな。まだ入学して一日しか経っていないのに、覚えているほうがすごいって」
「うん。僕たちもそうだったからな。……泰兄は、僕の母の弟……、叔父に当たる人でね。身内ってことは、泰兄があまり公言してないみたいだから、部活内の話でよろしく頼むよ」
部長と西村先輩が順番に口を開く。私たちは西村先輩の秘密を聞き、口外しないと約束した。