「香織ちゃん、何か良からぬことを考えてない? カメラは壊させないよ、絶対に」
先輩に続いて落合先生も、言葉を発した。
「俺は菜摘を助けられなかったけれど、爽真たちは違う。助かる方法があるはずだ。現に今、二人同時に過去へ戻ることに成功したんだから、未来は変えられる。きっと菜摘も、今の状況を見たらそう言うと思うぞ」
落合先生はそう言うと、スラックスのポケットから自分のスマホを取り出して、カメラフォルダを開いた。
まだ見ていない叔母との写真を見せてくれるのかと思っていたら……
「これは、今、見せるべきだな」
そう言って、私にスマホを手渡し、動画を再生するよう促した。
私は言われるがまま、再生ボタンを押す。
すると、動画の再生が始まった。
場所は、叔母の入院している病院の病室のようだ。
小声で落合先生の声が聞こえる。
「さ、話をして」
落合先生の声とともに映し出されたのは、一人の女性の姿だった。それは私も見覚えのある人だ。頭髪が抜け落ち、医療用の帽子を被った、生前の叔母の姿だった。
『えっと……、香織ちゃん、はじめまして。私は、あなたの叔母に当たる菜摘です』
初めて見る生前の叔母の姿。初めて聞く叔母の声に、私は驚いた。
そして何より、私の名前を呼んでいる。
動画の叔母は痩せ細り、顔色も良くないけれど、私にメッセージを伝えようとするその姿には、力強いものを感じた。
『何だか不思議な気持ちだね。あなたはこの世界で、まだお姉ちゃんのお腹の中にいるのに、目の前にいる未来から来た泰之くんは、成長したあなたに会ってるのね』
叔母は画面越しに目を細め、まるで本当に私が目の前にいるかのように、静かに話し始めた。
『私はもうすぐこの世からいなくなるから、あなたに直接会えないけれど……。未来の泰之くんからあなたのことを聞いて、どうしても伝えたいことがあって、この動画を撮ってもらうことにしました』
叔母はそう言うと、深呼吸をして言葉を続ける。
『泰之くんからあなたの高校入学時の写真を見せてもらいました。今、十五? 十六歳かな? お顔が私によく似ていて、びっくりした。やっぱり血は争えないね』
そう言って笑顔を浮かべる叔母の表情は、たしかに私とよく似ている。隣に座ってスマホの画面の一緒に見ている先輩も、驚きのあまり息を飲んでいる。
『多分、この動画を見ているのは香織ちゃん一人じゃないよね? 泰之くんの甥っ子くん……、香織ちゃんの彼氏くんも一緒だよね』
叔母の言葉に、私はぎょっとした。この動画を撮影したのは落合先生だから、私たちが一緒にいるこのタイミングでこれを私たちに見せているのだ。
『私は、未来を見届けることができないけれど……。香織ちゃん、あなたの幸せを願ってる。あなたの未来が、笑顔で満ち溢れていることを願ってる』
叔母はそう言うと、再び大きく深呼吸する。その顔色は先ほどより少しだけ青ざめており、体調がよくないことは一目瞭然だ。動画を撮影している落合先生も、『大丈夫か?』とフレームアウトした叔母の正面から問いかけている。
その声に答えるよう叔母は小さく頷くと、再び言葉を発した。
『香織ちゃん。私ね、過去の選択肢を誤らなければ、未来は変えられるって思うの。私の過ちは……、体調が悪いってわかった時点で、すぐに病院へ行かなかったこと。両親に、お姉ちゃんに心配を掛けたくなくて、しんどいのを我慢していたせいで、病院に運ばれた時には手遅れになっていたの』
そう言った叔母の目から、涙が伝った。
手に握っていたタオルでその涙をぬぐうと、言葉を続ける。
『後悔してる。あの時我慢していなければ、もしかしたら私は未来であなたに会えたかもしれない』
その言葉に、私も涙腺が緩み、目頭が熱くなる。
『でもね、こうして未来から泰之くんがやってきて。あなたの写真を見せてもらえて、それだけでも恵まれてるんだよね。普通に考えて、未来から過去にリープなんて有り得ないもん。最初、信じられなかったよ』
叔母の声に、動画を撮影している落合先生が『俺も信じられなかったよ』と返事する。
『でも、こうして動画を残すことができて良かった。香織ちゃんに会うことは叶わないけれど、写真で成長を見せてもらえて、本当に良かった』
叔母は身体がしんどいのだろう。ここまで話すと、リクライニングのベッドのもたれかかった。
『元気な姿を見せたかったのに、ごめんね。……この動画、お姉ちゃんたちに見せたらきっと、驚きすぎて心臓が止まっちゃうかも。お姉ちゃんには、私の分も長生きしてもらわなくちゃいけないから、これは香織ちゃんと私の秘密ね』
ここまで話すと、叔母は目を閉じ、そして動画はここで終了した。
先輩に続いて落合先生も、言葉を発した。
「俺は菜摘を助けられなかったけれど、爽真たちは違う。助かる方法があるはずだ。現に今、二人同時に過去へ戻ることに成功したんだから、未来は変えられる。きっと菜摘も、今の状況を見たらそう言うと思うぞ」
落合先生はそう言うと、スラックスのポケットから自分のスマホを取り出して、カメラフォルダを開いた。
まだ見ていない叔母との写真を見せてくれるのかと思っていたら……
「これは、今、見せるべきだな」
そう言って、私にスマホを手渡し、動画を再生するよう促した。
私は言われるがまま、再生ボタンを押す。
すると、動画の再生が始まった。
場所は、叔母の入院している病院の病室のようだ。
小声で落合先生の声が聞こえる。
「さ、話をして」
落合先生の声とともに映し出されたのは、一人の女性の姿だった。それは私も見覚えのある人だ。頭髪が抜け落ち、医療用の帽子を被った、生前の叔母の姿だった。
『えっと……、香織ちゃん、はじめまして。私は、あなたの叔母に当たる菜摘です』
初めて見る生前の叔母の姿。初めて聞く叔母の声に、私は驚いた。
そして何より、私の名前を呼んでいる。
動画の叔母は痩せ細り、顔色も良くないけれど、私にメッセージを伝えようとするその姿には、力強いものを感じた。
『何だか不思議な気持ちだね。あなたはこの世界で、まだお姉ちゃんのお腹の中にいるのに、目の前にいる未来から来た泰之くんは、成長したあなたに会ってるのね』
叔母は画面越しに目を細め、まるで本当に私が目の前にいるかのように、静かに話し始めた。
『私はもうすぐこの世からいなくなるから、あなたに直接会えないけれど……。未来の泰之くんからあなたのことを聞いて、どうしても伝えたいことがあって、この動画を撮ってもらうことにしました』
叔母はそう言うと、深呼吸をして言葉を続ける。
『泰之くんからあなたの高校入学時の写真を見せてもらいました。今、十五? 十六歳かな? お顔が私によく似ていて、びっくりした。やっぱり血は争えないね』
そう言って笑顔を浮かべる叔母の表情は、たしかに私とよく似ている。隣に座ってスマホの画面の一緒に見ている先輩も、驚きのあまり息を飲んでいる。
『多分、この動画を見ているのは香織ちゃん一人じゃないよね? 泰之くんの甥っ子くん……、香織ちゃんの彼氏くんも一緒だよね』
叔母の言葉に、私はぎょっとした。この動画を撮影したのは落合先生だから、私たちが一緒にいるこのタイミングでこれを私たちに見せているのだ。
『私は、未来を見届けることができないけれど……。香織ちゃん、あなたの幸せを願ってる。あなたの未来が、笑顔で満ち溢れていることを願ってる』
叔母はそう言うと、再び大きく深呼吸する。その顔色は先ほどより少しだけ青ざめており、体調がよくないことは一目瞭然だ。動画を撮影している落合先生も、『大丈夫か?』とフレームアウトした叔母の正面から問いかけている。
その声に答えるよう叔母は小さく頷くと、再び言葉を発した。
『香織ちゃん。私ね、過去の選択肢を誤らなければ、未来は変えられるって思うの。私の過ちは……、体調が悪いってわかった時点で、すぐに病院へ行かなかったこと。両親に、お姉ちゃんに心配を掛けたくなくて、しんどいのを我慢していたせいで、病院に運ばれた時には手遅れになっていたの』
そう言った叔母の目から、涙が伝った。
手に握っていたタオルでその涙をぬぐうと、言葉を続ける。
『後悔してる。あの時我慢していなければ、もしかしたら私は未来であなたに会えたかもしれない』
その言葉に、私も涙腺が緩み、目頭が熱くなる。
『でもね、こうして未来から泰之くんがやってきて。あなたの写真を見せてもらえて、それだけでも恵まれてるんだよね。普通に考えて、未来から過去にリープなんて有り得ないもん。最初、信じられなかったよ』
叔母の声に、動画を撮影している落合先生が『俺も信じられなかったよ』と返事する。
『でも、こうして動画を残すことができて良かった。香織ちゃんに会うことは叶わないけれど、写真で成長を見せてもらえて、本当に良かった』
叔母は身体がしんどいのだろう。ここまで話すと、リクライニングのベッドのもたれかかった。
『元気な姿を見せたかったのに、ごめんね。……この動画、お姉ちゃんたちに見せたらきっと、驚きすぎて心臓が止まっちゃうかも。お姉ちゃんには、私の分も長生きしてもらわなくちゃいけないから、これは香織ちゃんと私の秘密ね』
ここまで話すと、叔母は目を閉じ、そして動画はここで終了した。