「今月は過去へ戻ることをやめて、事故の日の、私の行動を再検証しましょう。過去へ行くのはそれからでもいいと思います」

 私の提案に落合先生は賛成したけれど、先輩は浮かない顔だ。

「それに、もし七年前にリープするなら、先生の言うようにこの格好では目立つと思うんです。せめて当時の制服を着ていたら、向こうの世界でも目立たずに済むし……」

 私の言葉に、先生は何か思案している。
 しばらくの沈黙を破り、先生は言葉を発する。

「俺の学生服、着てみるか? 多分処分せず残してあるはずだ」

「え、マジで? 僕、泰兄の学ラン着るの?」

 落合先生の提案に、先輩は素っ頓狂な声を上げる。私のテンションが上がった。

 先輩の学生服姿は、とても貴重だ。

 今はもう、ブレザー制服で全学年が統一されているので、詰襟の学生服姿を見る機会なんて、他校の生徒以外では絶対にない。

「ああ。そのほうが安心だ。そして中嶋さんも爽真と一緒に過去へ行くなら、当時の制服を着ていくか、中学時代の制服を着るかの二択になるけど……」

「え、僕、どっちも見たいな」

 落合先生の言葉にかぶせるように、先輩が言葉を発した。

 たしかにこの制服は目を惹くだろう。できるだけ目立たないようにするなら、そうすべきだけど……。高校生になった今、さすがに中学校の制服に袖を通すのは抵抗がある。

「母に、リニューアル前の制服がないか聞いてみます。もしなければ、中学校の制服を着ることにします……」

 私の返答に、二人は頷いた。

 先輩は「まるでコスプレだ」と喜んでいる。
 そして、落合先生は一番重要なことを口にする。

「あと、この前も話したと思うけど、このカメラは俺の在学中からあるもので、十五年以上前の年代物だ。いつ寿命がきてもおかしくない。中嶋さんの画像からして、十一月までは問題なさそうだけど、取り扱いには充分気を付けること」

「わかった、壊さないよう充分気を付ける」

「話は以上だ。ほかに質問はないか?」

 落合先生の言葉に、私は恐る恐る質問する。

「あの……、先生が過去へ行った時、叔母の運命を変えようとしましたか?」

「ん? どういう意味だ?」

「先生が過去へ行った時、叔母が長く生きられるよう、何かされたりしましたか?」

 私の質問の意味を理解した落合先生は、ゆっくりと首を横に振る。

「いや……、どんなに過去へ遡っても、俺は医者じゃない。菜摘の病気を治してやることは不可能だ。俺には医者になるだけの学がなかったし、もし仮に何年、何十年かかって医者になれたとしても、その時までこのカメラが壊れないという保証はない」

 落合先生の言葉に、私は俯いた。

 そうだ、このカメラが壊れてしまったら、過去へ行くことはできないのだ。

 もしここで私がこのカメラを壊したら、私は十一月に消滅する。

 本当なら私は七年前の十一月に、交通事故で死ぬ運命なのだ。だけど、もしこのカメラを壊せば、過去へリープすることができないのだから先輩の命は助かる。

 どうするのが一番正しいことだろう。

 私が無言になったことで、二人が私に言葉をかける。