体育館では、布製の折りたたみ式の長椅子が用意されており、私たちはそこに座った。

 全員が集まると、学年主任の先生がまず挨拶をし、その後各部の部長や部員が部活動について簡単な内容を紹介する。
 各部の持ち時間は五分と決められており、時間がくれば紹介の途中でも強制終了させられるので、各部ともきっちりと時間を守っている。そのおかげで、六限のチャイムが鳴る前に、全ての部活の紹介を聞くことができた。

 教室に戻ると周りの人たちは、サッカー部の先輩が格好良かったとか、演劇部の先輩が可愛かったとか、そんな話で持ちきりだ。

 中学校時代から所属している部活にそのまま入部する人もいれば、高校ではやったことのない部活に入りたいと言う声も聞こえる。

 花音ちゃんが言うように、その中でもやはり写真部は活動時間が少ないせいか人気が高い。

 部活動紹介の前に配布された入部希望のプリントには、第三希望まで記入することができる。これ、絶対に全部埋めなければならないのかな……

 プリントを見ながら頭を悩ませていると、真莉愛が私の耳元で囁いた。

「なんかさ、『これだ!』ってのが全然思い付かないんだけど。香織はどう? 心惹かれる部活動紹介あった?」

「ううん、私も真莉愛と同じく、どれも今ひとつピンと来なくて……。でもこれって、絶対に記入しなきゃならないんでしょう? どうしよう」

 私の選択肢の中に、運動部は候補にない。マネージャーとして所属するのもありかもしれないけれど、一人だけその輪の中に入れないのは虚しいだけだ。

 でも、せっかくなら真莉愛と一緒の部に所属できればいいな。そう思っている時に、真莉愛が口を開いた。

「第三希望まで出さなきゃならないんだよね……。とりあえず、私は楽な部活に所属したいんだ。ダメ元で、写真部にしてみるよ。せっかくだから、香織も同じところで出さない?」

「いいね。じゃあ、私もそうしよう。写真部は競争率高いと思うけど、落ちた時のことを考えて、後はどうする?」

「んー……、あえて他を記載せず、写真部が本命です、他の部に所属する気はありませんってのをアピールしてみる? それが通るかどうかはわかんないけど……」

 第三希望まで埋めることと記載されているので、プリントが差し戻されることは、お互い充分承知の上だ。

「二人とも、写真部にするの? 私たち、箏曲部を体験させてもらってから考えることにするよ」

 話に割って入ったのは、芽美ちゃんと花音ちゃんだ。

 先ほど体育館で箏曲部の演奏を生で聞き、興味を持ったようだ。吹奏楽部は部活動紹介の時に『全国大会出場を狙っている』と部長がはっきりと口にしたため、入部テストで足切りがあるのだという。

 吹奏楽部の活動は、中学校の頃に比べて発表会や大会の頻度が高く、そのうえ運動部――野球部やサッカー部などの応援時には欠かせない存在だ。運動部の応援演奏に駆り出される時は授業も公欠になるし、練習も放課後遅くまで、土日も練習があるらしい。

 休日が練習で潰れる上に、忙しさのあまり勉強についていけなくなる不安や自分のことが何もできなくなることに気付いた芽美ちゃんは、早々に吹奏楽部への入部を諦めたようだ。

「お互い、希望する部に入れるといいね」

 花音ちゃんはそう言うと、自分の席に戻り帰宅の準備を始めた。

「私たち、これから箏曲部の体験に行ってくるから、また明日ね!」

 芽美ちゃんは私たちにそう声を掛けると、花音ちゃんに倣って自分の荷物をまとめ始める。

「うん、また明日ね。バイバイ」

「頑張ってね!」

 私と真莉愛がそれぞれ口を開き、二人の後ろ姿を見送った。