先生の言葉の意図を理解しようと、私たちは前のめりになった。落合先生は先輩が持ってきたカメラを手に取ると、自身の経験でわかっていることを教えてくれた。

「このカメラ、過去へ行って元の世界に戻ることはできるけれど、未来には行けない。そして、今日と同じ日にしか行けないようだ。俺の経験では、別の日へは行ったことがない」

 今日は九月十八日。私のスマホの画像の日付けは、九月二十五日。ということは、今日このカメラを使って過去へ行くとすれば、同じ九月十八日にしか行けないということらしい。

「ってことは、去年の今日に行くことはできるってこと?」

 先輩の質問に、先生は頷いた。

「ああ。でも、気を付けろ。去年の今日も、二十五日も平日だ。この時間だと他のだれかに姿を見られる可能性もある。……あ、そういえば、去年ドッペルゲンガー騒ぎがあったよな? もしかしたら去年のあれは、過去へリープした爽真本人だったのかも知れないな」

 落合先生の言葉に、先輩がハッとした。

「ああ、多分そうだ……。たしか、佐々木さんたち二年に目撃されてたんだ。どうしようかな……」

「二十五日に過去へ行くのをやめたら、過去が変わる。けれど、一度は試してみるほうが安心できるんじゃないか? ここでリープすれば、リープ先もこの教室だから、人目につくことはない。二十五日に過去へ行くことがなければ、爽真がリープして起こすイレギュラー、ドッペルゲンガー騒ぎは消える」

 イレギュラーという言葉に、私は七年前の事故のことを考えていた。

 あの事故のことで、先輩が未来から私を助けに来てくれた。
 先輩が過去に来てくれなかったら、私は死んでいた。

 先輩の存在は、七年前の世界ではイレギュラーだ。

 でも、先輩が死なずに済むには……
 考えがそこからまとまらない。

「それから、リープする時このカメラのシャッターを押すことで、過去へ行くことができるけど、戻る時も同じでカメラのシャッターを押さなければならない。日付は選べないけれど、年代だけは、どうやらここのカレンダー設定で合わせた年に行けるみたいだ。でも俺はいつもリープする時一人だったから、二人同時にリープできるかは、わからないぞ」

 先生の言葉に、私たちは目から鱗だった。

 画像を見る限り、私の姿は見当たらなかった。先輩は一人でリープしていたと思っていたので、まさか私も一緒にリープすることを考えていたと思わなかったのだ。

「じゃあ、ちょっとだけ、試してみる?」

 先輩の言葉に、落合先生も頷いた。

「もし二人同時にリープできるか試すなら、カメラのシャッターを切るのは爽真で、中嶋さんは爽真の体に触れている。または、二人ともカメラに触れている、とか。とにかく二人が密着していることが条件になるのか……? その辺りも試してみる価値はあると思うぞ」

 先生の言葉に、即座に反応したのは先輩だ。

「じゃあ、香織ちゃんが僕に密着していたら問題ないよ。僕に抱き着くとか?」

 先輩がぎょっとするような発言をする。

「それは人に見られた時が大変なので勘弁してください。……とりあえず、先生の提案その二の、二人でカメラに触れるで試してみましょう」

 私の反応に、先輩はちょっとがっかりしたようだけど、それもそうかと納得してくれたようだ。