せっかくの夏休みなのに、遊ぶ暇もなく課題漬けだなんて、終わっている。
「ねえ、香織って英語が得意だったっけ? 私は数学の課題を片付けるから、お互い写し合いっこしない? そうでもしないとマジで夏休みの課題が終わらないよ」
帰り際に真莉愛から、そんな提案をされた。
確かにそうだ。本当なら自分で課題をするべきだと思うけれど、このままじゃ絶対夏休み中に終わると思えない。
お互いが得意分野を片付けて、交換して写し合えばすぐに終わるし、わからないところは見直せば済む。
「その提案、乗った! お盆明けの十六日、午前中図書館で落ち合おう。それまでに英語の課題はやっつけておくよ」
「了解。じゃあ私も、その日までに数学の課題を片付けておく」
お互いの役割を決めると私たちはその場で解散した。
お盆明けから私たち一年は補習がないけれど、先輩たちは引き続き補習がある。午前中のうちにできることを片付けて、午後から先輩と一緒に課題へ取り組もう。
夏休み中は一年生も自由登校なので、補習がなくても登校はできる。もちろん図書室も利用可能だ。
私は自由登校期間も学校へ登校し、午前中に落合先生と話ができるタイミングを狙おうと考えていた。
真莉愛との約束の日、間違えていたらごめんとお互い了承のもと、私たちは英語と数学のノートを交換し、それを丸写しした。内容の見直しは後日するつもりで、ひとまず課題を写すことでノルマを一つこなしていく。
こうして無事に数学の課題を終えることができた。
そして、落合先生に話ができたのは、夏休みも終わりに近づいた八月二十四日のことだった。
この日も私は朝から学校に登校し、写真部の部室の鍵を借りようと職員室へと向かった。その途中で偶然落合先生と顔を合わせることとなった。
「おはようございます」
私の挨拶に、落合先生も「おはよう」と返してくれる。
「先生、今ってお時間大丈夫ですか?」
この時間、三年生は補習を受けている。ここに落合先生がいるということは、先生は補習の担当ではない。
私の問いに、大体の見当をつけていたのだろう。落合先生は「ついてきなさい」と言うと、私を通り越してスタスタ歩き始めた。私は先生の後をついて行く。
この時間、登校してきているのは三年生と、部活動に参加している人たちと、私みたいに自主登校している人間だけだ。
先生が向かった先は、予備の教室として普段は使っていない部屋だった。普段は使用しない場所なので、施錠されている。けれど先生は元々ここで授業の準備をするため鍵を借りていたとのことで、ポケットから鍵を取り出すと鍵を開けて私を中へ招き入れた。
私は恐る恐る中へと足を踏み入れる。
先生の言う通り、教室の中は、生徒用の机が四つ向かい合わせで並べられており、机の上にはプリントが並んでいる。これを一枚ずつ取ってホッチキスで留めるところだったようだ。
「私も手伝いますよ」
「ああ、ありがとう。そうしてもらえると助かる」
入口の引き戸を閉めると、私は先生の手伝いを始めた。
プリントが指先の水分や油分を吸い、ちょっと手こずったけれど、思ったよりもスムーズに作業が終わった。
ホッチキスで閉じたプリントを箱の中へと収納すると、机の上がすっきりと片付いた。
ようやく落ち着いたところで、私は先生に着席を促された。先ほどの作業が終わった時に、机の向きを戻していなかったので、落合先生は私の正面に座った。
「話は、あのカメラのことだよな?」
私がどう話を切り出そうか考えていたところへ、先生が先に口を開く。
「はい」
私の返事に、先生が頷いた。表情を見ていると、なんだか安心感を覚える。きっと雰囲気が先輩に似ているからだろう。
「これを見てもらえますか?」
私はそう言うと、鞄の中から古いスマホを取り出した。そう、昔使っていた、番号を抜いているスマホだ。
写真フォルダを開き、画像検索をかける。
そして、先輩が写っている画像を開くと、先生に差し出した。
先生は、画像を見て息を飲む。
「これ、日付はいつ?」
自身も過去にリープした体験をしているだけに、詳しい説明をしなくても理解が早い。
「九月二十五日と、十一月……、十二日です。実は私、七年前の十一月に、交通事故に遭ってるんですが……」
きちんと先生に伝えたいのに、緊張から声が上擦っている。なのでここで一度言葉を切り、深呼吸して言葉を続けた。
「この日、私を庇って一人の男性が亡くなりました。……身元が今もわからないままです」
それから私は、今現在私が使っているスマホを取り出して、写真フォルダを開いた。そこには七年前の事故の記事をスクリーンショットした画像と、当時の新聞記事の画像がある。私は過去の写真に先輩を見つけてから、当時の事故に関するニュースを検索しまくったのだ。
事故からもうすぐ七年が経つので、ネット上の古い記事のほとんどは削除されている。加えて地方都市の交通事故なんて、普通に検索してもなかなか記事は見つからない。これは私が退院した当時、このスマホで命の恩人に関することを調べようと、ネットで検索したものをスクリーンショットで残していたものだった。
「ねえ、香織って英語が得意だったっけ? 私は数学の課題を片付けるから、お互い写し合いっこしない? そうでもしないとマジで夏休みの課題が終わらないよ」
帰り際に真莉愛から、そんな提案をされた。
確かにそうだ。本当なら自分で課題をするべきだと思うけれど、このままじゃ絶対夏休み中に終わると思えない。
お互いが得意分野を片付けて、交換して写し合えばすぐに終わるし、わからないところは見直せば済む。
「その提案、乗った! お盆明けの十六日、午前中図書館で落ち合おう。それまでに英語の課題はやっつけておくよ」
「了解。じゃあ私も、その日までに数学の課題を片付けておく」
お互いの役割を決めると私たちはその場で解散した。
お盆明けから私たち一年は補習がないけれど、先輩たちは引き続き補習がある。午前中のうちにできることを片付けて、午後から先輩と一緒に課題へ取り組もう。
夏休み中は一年生も自由登校なので、補習がなくても登校はできる。もちろん図書室も利用可能だ。
私は自由登校期間も学校へ登校し、午前中に落合先生と話ができるタイミングを狙おうと考えていた。
真莉愛との約束の日、間違えていたらごめんとお互い了承のもと、私たちは英語と数学のノートを交換し、それを丸写しした。内容の見直しは後日するつもりで、ひとまず課題を写すことでノルマを一つこなしていく。
こうして無事に数学の課題を終えることができた。
そして、落合先生に話ができたのは、夏休みも終わりに近づいた八月二十四日のことだった。
この日も私は朝から学校に登校し、写真部の部室の鍵を借りようと職員室へと向かった。その途中で偶然落合先生と顔を合わせることとなった。
「おはようございます」
私の挨拶に、落合先生も「おはよう」と返してくれる。
「先生、今ってお時間大丈夫ですか?」
この時間、三年生は補習を受けている。ここに落合先生がいるということは、先生は補習の担当ではない。
私の問いに、大体の見当をつけていたのだろう。落合先生は「ついてきなさい」と言うと、私を通り越してスタスタ歩き始めた。私は先生の後をついて行く。
この時間、登校してきているのは三年生と、部活動に参加している人たちと、私みたいに自主登校している人間だけだ。
先生が向かった先は、予備の教室として普段は使っていない部屋だった。普段は使用しない場所なので、施錠されている。けれど先生は元々ここで授業の準備をするため鍵を借りていたとのことで、ポケットから鍵を取り出すと鍵を開けて私を中へ招き入れた。
私は恐る恐る中へと足を踏み入れる。
先生の言う通り、教室の中は、生徒用の机が四つ向かい合わせで並べられており、机の上にはプリントが並んでいる。これを一枚ずつ取ってホッチキスで留めるところだったようだ。
「私も手伝いますよ」
「ああ、ありがとう。そうしてもらえると助かる」
入口の引き戸を閉めると、私は先生の手伝いを始めた。
プリントが指先の水分や油分を吸い、ちょっと手こずったけれど、思ったよりもスムーズに作業が終わった。
ホッチキスで閉じたプリントを箱の中へと収納すると、机の上がすっきりと片付いた。
ようやく落ち着いたところで、私は先生に着席を促された。先ほどの作業が終わった時に、机の向きを戻していなかったので、落合先生は私の正面に座った。
「話は、あのカメラのことだよな?」
私がどう話を切り出そうか考えていたところへ、先生が先に口を開く。
「はい」
私の返事に、先生が頷いた。表情を見ていると、なんだか安心感を覚える。きっと雰囲気が先輩に似ているからだろう。
「これを見てもらえますか?」
私はそう言うと、鞄の中から古いスマホを取り出した。そう、昔使っていた、番号を抜いているスマホだ。
写真フォルダを開き、画像検索をかける。
そして、先輩が写っている画像を開くと、先生に差し出した。
先生は、画像を見て息を飲む。
「これ、日付はいつ?」
自身も過去にリープした体験をしているだけに、詳しい説明をしなくても理解が早い。
「九月二十五日と、十一月……、十二日です。実は私、七年前の十一月に、交通事故に遭ってるんですが……」
きちんと先生に伝えたいのに、緊張から声が上擦っている。なのでここで一度言葉を切り、深呼吸して言葉を続けた。
「この日、私を庇って一人の男性が亡くなりました。……身元が今もわからないままです」
それから私は、今現在私が使っているスマホを取り出して、写真フォルダを開いた。そこには七年前の事故の記事をスクリーンショットした画像と、当時の新聞記事の画像がある。私は過去の写真に先輩を見つけてから、当時の事故に関するニュースを検索しまくったのだ。
事故からもうすぐ七年が経つので、ネット上の古い記事のほとんどは削除されている。加えて地方都市の交通事故なんて、普通に検索してもなかなか記事は見つからない。これは私が退院した当時、このスマホで命の恩人に関することを調べようと、ネットで検索したものをスクリーンショットで残していたものだった。