花火大会が終わり、大観衆が帰宅の途につくため、会場付近が人混みで溢れている。

 私たちは花火が終わる前に会場を撤退するつもりだったけれど、あまりに人が多すぎて、しばらくこの場へ留まることにした。

 会場を後にする人たちの通行を邪魔しないよう、私たちは通路の脇で、帰宅していく人たちを眺めていた。

 その時だった。人混みの中から、私を呼ぶ声が聞こえる。

「香織ちゃん……? あ、やっぱり香織ちゃんだ。久しぶり! 元気にしてた?」

 真莉愛や花音ちゃん、芽美ちゃんの声ではない。もっと懐かしい声……

里緒奈(りおな)ちゃん?」

 それは、先ほど先輩に写真を見せた中学時代の友人、田中(たなか)里緒奈だった。

 今日は浴衣を着ておらず、ワンピース姿だ。

「うん! 卒業以来だね。この浴衣着てたから、もしかしてって思ってガン見しちゃったよ」

「浴衣を着れるのってこの季節だけだもんね。暑いけど頑張っちゃった」

 私の声に、里緒奈ちゃんも私も着てくれば良かったと独りごちている。そして、私の隣に立つ先輩に気付いたようだ。

「え、何? 香織ちゃんの彼氏さん?」

 香織ちゃんの反応に、私は照れながらも頷いて肯定すると、里緒奈ちゃんは先輩に「はじめまして」とあいさつをする。そして、しばらく先輩の顔を凝視していた。

「里緒奈ちゃん……?」

 私の声に、我に返った里緒奈ちゃんはスマホに手をやった。

「ああっ、早く帰らないと。この後推しの配信があるんだった! ごめんね、また今度ゆっくり会おうね」

 里緒奈ちゃんはそう言うと、先輩に会釈してこの場を立ち去った。

「賑やかな子だね」

 先輩の言葉に、私は頷く。

「小学校から中学を卒業するまで、一番仲が良かった子なんです。里緒奈ちゃんは隣町の高校に進学したから、会うのは卒業以来ですね」

 里緒奈ちゃんはバスケットの強豪校である隣町の高校へ推薦で進学した。最近はメッセージでのやり取りの頻度は落ちているけれど、元気な姿を見て安堵した。

「そっか。じゃあ今度会う時は、積もる話もいっぱいあるね」

「そうですね。里緒奈ちゃんの部活がお休みの日に、いっぱい話をしたいですね」

「じゃあ、そろそろ僕らも帰ろうか。さっきより人混みも落ち着いてきたし。あまり遅くなるとご両親も心配だろうからね」

 先輩の言葉に従って、私たちははぐれないようお互い手を繋ぎ、帰宅の途についた。着ていた浴衣は、案の定汗だくになっている。洗濯機丸洗いOKのものを買っていたので、私はすかさず浴衣を洗濯ネットに入れて、洗濯機の中へと放り込むと、シャワーで汗を流して就寝した。

 翌朝目覚めると、里緒奈ちゃんからメッセージを受信していた。やり取りをしていると、今週の日曜日は里緒奈ちゃんの部活が休みで、久しぶりにうちへ遊びに来てくれることとなった。

 そして迎えた日曜日――

「わあ、久しぶりの香織ちゃんのお部屋だ! 全然変わってなくて落ち着く」

 里緒奈ちゃんは私の部屋に入ると懐かしむように目を細めた。

 久しぶりと言っても、卒業するまで我が家へ頻繁に入り浸っていたし、四か月程度で部屋の模様替えなんてする余裕なんてない。

「なんか里緒奈ちゃん、自分の部屋みたいにくつろいでるよね」

 里緒奈ちゃんが遊びに来てくれることが決まり、私は彼女の好物であるスナック菓子を複数用意した。里緒奈ちゃんの運動量は、日常生活を送るだけの私とは比較にならないので、今日は思う存分食べてもらおう。

 冷蔵庫から冷やしていたジュースを取り出すと、グラスをトレイに乗せて部屋へと運ぶ。

 部屋へ戻ると、里緒奈ちゃんが立ち上がる。私のベッドに腰を下ろしていたようだ。

「お待たせ、里緒奈ちゃんの好きなリンゴジュース、持ってきたよ」

「やったー、ありがとう!」

 部屋の中央に用意していた折り畳みの机の上にそれを置くと、勉強机の上に置いていた買い置きのお菓子を手に取った。

「どれ食べる?」

 数種類のスナック菓子の袋を見せると、里緒奈ちゃんは目を輝かせた。

「これがいいな」

 里緒奈ちゃんが指さしたのは、コンソメ味のスナック菓子だった。私は袋の封を鋏で切ると、それを器へと移した。

「じゃあ、いただきましょう」

 私たちはジュースで乾杯すると、お菓子を口へと運ぶ。