そして改めて先輩の手元を見てみると、どうやら追加でかき氷を買いに行ってくれたようだ。両手には先ほどとは違う味のシロップがかかった容器を持っている。

「これ……」

 私がスマホを前帯の隙間へと差し込むのを確認して、先輩がかき氷を差し出した。

「わあ、ありがとうございます!」

 私はレモン味の黄色いシロップがかかった容器を受け取ると、先輩も笑顔を見せた。

「こう熱いと、かき氷様様だよね」

 先輩はそう言うと、メロン味の緑色のシロップがかかったかき氷を口に運ぶ。

「本当に……、冷たいものが最高に嬉しいです」

 私も先輩に倣って、かき氷を口に運んだ。

 先輩が戻ってきてすぐに、花火の打ち上げが再開された。

 空には連続して花火が打ち上がる。

 写真を撮りたいけれど、先にかき氷を食べないと溶けてしまう。

「先輩、花火ってまだ打ち上がりますよね? カメラで花火を撮影したいんです」

 花火の音に負けないよう、私も大きな声で先輩に話しかけた。

「うん、まだ大丈夫だよ。これを食べ終えてから、撮影しよう」

 先輩の返事に安心した私は、かき氷を浴衣の上にこぼさないよう、ゆっくりと味わった。

 かき氷を食べ終えた私たちは、手振れしないよう、先ほど私がしていたようにガードレールの上でスマホを固定して、花火を撮影した。

 上空に風が吹いていないせいで、煙が辺り一面中蔓延しており撮影は難航したけれど、それまでの写真とは比べ物にならないレベルで綺麗に撮影できた。

 知識があるとないとでは、その差は歴然としている。

「最後の連続打ち上げ、綺麗に撮れるといいですね」

「そうだね。実のところ、僕も花火をこうやって撮影するのは初めてのことだから、ちょっと興奮してるんだ」

 先輩の意外な言葉に、思わず顔を仰いだ。

「そうなんですか?」

「うん。花火大会に来たのだって、小学生の頃以来かな。毎年この時期は、テレビでいろいろな特番を放送していたから、それを見ていた記憶がある」

「そうなんですね。私も小学生の頃はいつも親と一緒でしたけど、中学生になってからは、友達と一緒でした。実はこの浴衣、仲良かった友達と色違いのお揃いなんですよ」

 私の言葉に、先輩が目を見張る。

「え、そうなんだ」

「はい。浴衣が欲しくて母と買い物に行った先で、偶然友達がいて。その時に色違いでお揃いのを買ったんですよ」

 私はそう言うと、自分のスマホの写真フォルダを開いた。たしか二人並んで一緒に写真を撮っていたはずだ。

 フォルダ内の写真を遡り、ようやく見つけたその画像をタップすると、当時の幼い表情を浮かべた私と友達が表示される。

「これ、中学二年の時のだから、顔が今より若いですね、なんか恥ずかしい……」

「本当だ。この子とお揃いなんだね。今もだけど、当時も香織ちゃんはかわいいね」

 自分が予想していなかった発言を先輩がするものだから、暑さととはまた別の意味で顔が火照る。

「ううっ、はずかしいです」

「ははっ、今の香織ちゃんもかわいい。……話は飛ぶけど、泰兄が言うように、本当に過去へ戻れるなら、僕は香織ちゃんの成長記録が見たいな」

 さっきまでの冗談めかした声のトーンから一変して、声色も表情も真剣そのものだ。

「やだ、それ恥ずかしいです。それなら私ももし過去に戻れるなら、先輩の成長記録が見たいです。でも……、私、ずっと考えていたんです。もし過去に戻れるなら……」

「戻れるなら?」

 先輩がおうむ返しする。

 これ、言ってもいいものか……

 悩みながらも、相手が先輩だからと私は油断していた。先輩なら、一緒になって考えてくれるだろうと思っていた。

「七年前の、事故の現場に戻って、命の恩人を助けたい……」

 先輩は私の言葉を聞いて、口を閉ざした。
 その代わり、私の気持ちを尊重すると言わんばかりに私の右手をそっと握った。

「うん……。その話、また今度じっくり聞かせてくれる? もし本当に過去へ戻ることができるなら、僕も協力する。だから一緒に対策を練ろう。きっと大丈夫だよ。だから香織ちゃん、僕を頼って」

 先輩の優しさに、私の目からいつの間にか涙が伝っていた。

 先輩を好きになって、本当に良かった。
 ずっとこんなふうにお互いを思いやれる関係が続きますように。

 私は先輩と一緒に打ち上がる花火を見ながら、心の中で念じていた。