先輩の表情を改めて見ていると、落合先生の雰囲気に似ている。先輩の親戚の人たちの気持ちもわからないでもない。

 もしかしたら、幼少の頃から叔母に似ていると言われ続けてきたせいで、神経過敏になり過ぎているのだろうか。

 私の不躾な視線に気付いた先輩は、「どうかした?」と問いかけるけど、それ以上のことは口にしない。その優しさに、胸が熱くなる。

 ああ、私はやっぱり先輩のことが大好きだ。

 こんな優しい人が私の彼氏だなんて、本当に幸せだ。

「いえ、なんでもないです」

 私はそう言うと、少し小走りで先輩の隣に並んで歩く。

 先輩は、そんな私の右手を優しく握ると、花火大会の会場までゆっくりと歩いてくれた。


 花火大会の会場は、たくさんの人で溢れている。それこそ油断していたら、すぐに迷子になりそうだ。

 私たちは暑さを我慢して、ずっと手を繋いだままでいる。屋台がズラッと軒を揃えて並んでおり、それぞれのところから鉄板焼きの美味しそうな匂いやわたあめの甘い匂いが漂っている。

 お祭りの醍醐味とはいえ、熱帯夜でこの熱気だ。おまけにたくさんの人で溢れているため、私は人混みで酔いそうになる。

「香織ちゃん、ここは暑いし浴衣で気持ち悪いよね。かき氷を買って、ちょっと向こうへ行こう」

 先輩はそう言うと私をこの場に待機させ、近くにあるかき氷の屋台へと向かった。

 そして両手にかき氷を持って戻ってきた。

「いちごとハワイアンブルー、どっちがいい?」

 両方とも氷が山盛りになっていて、食べ応えがありそうだ。

「じゃあ、いちごを……」

 両方とも大好きな味だけど、ブルーハワイは後で口の中が青く染まってしまうので、先輩には申し訳ないけれど青く染まった自分の口を見られたくない。

 そんなことを知らない先輩は、どうぞと私にいちごのシロップがかかったかき氷を差し出した。

「あそこに移動しよう。ちょっと人が少ないから、ゆっくりできそうだよ」

 そう言って先輩が指差したのは、駐車場と公園を区切る、腰の高さに建てられた柵のある場所だった。

「あそこなら、しんどくなったらちょっと腰掛けるのにちょうどいい高さがあるし、邪魔にならないだろう」

 私たちは通行の邪魔にならないように、人混みを避けながら先輩が指差す方へ移動した。

 この場所からでも花火は充分見えるので、ここが空いていてラッキーだ。

 人が少ないこの場所で、ようやく大きな深呼吸をすると、先輩も同じように大きな深呼吸をした。

「毎年ながら、花火大会は大盛況だね。どこにこんな人がいるんだってくらい集まってくるよね」

 先輩の言葉に私は頷いた。

「本当に……。迷子にならないよう、着いて歩くのに必死です」

「だよね。今でこそスマホで連絡を取り合うことができるけど、泰兄の学生時代なんて、まだスマホは一部の人しか持っていなかったらしいし。親世代なんて、携帯が出回り始めた頃だもんな」

 お互い顔を見合わせると、それぞれかき氷にスプーン型のストローを突き刺し、かき氷を口にした。

 キンキンに冷えたかき氷は、身体の火照りをゆっくりと冷ましてくれる。それまで外気と布が幾重に重なった腹回りが暑くてたまらなかったのに、少しずつ身体の中がクールダウンしていくのがわかる。

 ゆっくりかき氷を味わいたいところだけど、この暑さですぐに溶けてしまう。私たちはドロドロに溶けてしまう前に、急いでかき氷を食べた。

 今日の装いは浴衣なので、いつも愛用しているバッグは似合わない。なので和柄のポーチを浴衣の上から斜めに掛けている。そんなに大きなものではないので、スマホと財布、ハンカチタオルを入れたらパンパンになる。少しでも荷物を少なくしようと、浴衣の襟元や前帯の隙間にハンカチを忍ばせておくことも考えたけれど、すぐに汗で使い物にならなくなるのは目に見えていた。背中の帯のところに、うちわを二枚差し込んでいたので、一枚を先輩に手渡した。

「これで仰いでも、熱風しか来ないかもですけど、ないよりマシかも……」

「香織ちゃん、用意がいいね。ありがとう」

 先輩はそう言うと、力強くうちわを扇ぐ。その風は、隣にいる私まで届く威力だ。

「風があると、虫もつかないからね」

 先輩はそう言うと、浴衣で後ろまで手が回らない私の背後を力強くうちわで扇いでくれた。

「こちらこそ、ありがとうございます。じゃあお礼に私も」

 私は、手に持っているうちわで先輩の背後を扇ごうと背後に回った。