二年の先輩たちから預かった鍵を職員室へと戻しに行き、そのまま一緒に下校する。
私は先生から渡された叔母の写真パネルを持っており、このまま移動すると荷物が嵩張るので、一度家に戻ることにした。先輩はその間外で待っていると言うけれど、今日も日差しはきつく、熱中症にでもなったら大変なので、荷物を部屋へ置きに行く間だけでも玄関の中で待ってもらうことにした。
私は自分の部屋に荷物を置くと、お財布とスマホ、鍵を入れたポーチを持って玄関へと戻る。
「すみません、じゃあ行きましょう」
玄関の施錠を確認して私たちは家を後にすると、目的地であるスーパーへと向かった。
私たちがゲームコーナーへ到着すると、夏休みで行く場所のない子どもたちで湧いているかと思ったけれど、この暑さで外に出る元気がないのか閑散としていた。
お目当てのプリ機は、当然のことながらだれもいないのですぐに使える。
「先輩、撮りますよ!」
私は先輩の腕を引っ張り、プリ機の前に陣取ると、百円硬貨を数枚投入する。
音声ガイダンスに従って、私たちはいろいろな写真を撮影した。
先輩は撮り慣れていないようで、アタフタしていたけれど、それがとても新鮮だった。
納得いく写真が撮れると、先輩は自分のスマホを取り出して、不意打ちで私を撮影する。
「香織ちゃん」
名前を呼ばれて振り返ると、先輩が手にしていたスマホで私を撮影した。
「え、ちょっと待ってください。不意打ちは卑怯ですってば!」
「ポートレートの基本は、作った表情じゃなく、素の顔を撮影することだよ。その人の本質を写し出す、それができれば一流だって泰兄が言っていた」
唐突に写真についての講義を口にする。
「え、そんな……。素の顔って言われたら私、きっとひどい顔してますよ」
私が反論すると、先輩は今撮影した画像を私に見せてくれた。
「そんなことないよ、僕の彼女は充分かわいい」
唐突に『彼女』宣言をされると照れてしまう。
恥ずかしくて顔を上げることができないでいると、先輩はスマホの写真フォルダを閉じ、再びカメラを起動したようだ。
再びシャッター音が聞こえたけれど、私の視線よりも高い場所からの音に、どうやら俯く私の頭頂部を撮影したようだ。
顔を上げなくても、気配でわかる。今までだれにもそんなところを撮影されたことなんてないし、驚きのあまり顔を上げると、そのタイミングを見計らって再び先輩がシャッターボタンを押した。
「ほら、僕だけしか知らない、かわいい香織ちゃんの素顔が撮れた」
唐突な言葉に、私はどう言葉を返していいかわからない。結果、私の顔は熱くなっていく。
「えっと……、じゃあ次は、先輩とゲームやりますよ。どれやりましょう? って、そんなに種類ないけど……」
先輩の言葉をはぐらかすように、私はゲーム機を指差した。
「よし。じゃあ、対戦型のレーシングゲームやってみる?」
「はいっ!」
私は先輩に手ほどきを受けながら、一緒にゲームを楽しんだ。
初めてのレーシングゲームの結果は散々だったけれど、久しぶりに大笑いした。
ほかにもジュースを掛けたエアホッケーで三回勝負をしたけれど、案の定私はストレートで負けてしまい、先輩にコーラをおごることとなった。
コーラとオレンジジュースを購入し、ベンチに並んで腰を下ろすと、そこで休憩を取る。
ジュースを口にしながら、私は今日一日の情報を整理していた。
落合先生が叔母の恋人だったこと。そして昨日、叔母が亡くなった十六年前にリープしたこと……
前者については先輩や先生の言葉に嘘は感じられなかったので、きっと本当のことだ郎。
けど、後者のタイムリープについてはにわかに信じがたい。
そんなS Fじみた出来事を、急に信じろと言われて素直に信じられるわけがない。けれど、証拠として見せられたスマホの画像……
あれを合成で作るのはさすがに悪趣味だと思うけれど、合成には見えないくらい、お互い自然体だった。
本当にあれが合成ではなく、先生がリープしたのだとしたら……
私は、七年前のあの日に戻って、あの人を助けたい。
過去を変えてしまったら、それに続く未来まで変わってしまう。けれど、私の命を救うために亡くなってしまったあの人の未来を、救えるチャンスかもしれない。
私はその人の顔すら覚えていないけれど、十代後半から二十代前半の男性だと、当時の事故を担当していた警察官から聞かされていた。
七年経った今でもその人の身元は判明していないのだ。その人の家族が見つかるなら、きちんと会って謝罪と命を救ってくれたお礼を伝えたい。
そんなことを考えている時だった。
先輩がコーラを飲み終えると口を開いた。
「こんなに楽しいの、いつぶりだろう。これも香織ちゃんのおかげだな」
先輩の言葉に、私も同意見だ。私も先輩と一緒にいるだけで、とても楽しい。
「私も、今日はとても楽しいです。先輩と念願のプリも撮れたし」
「香織ちゃん、プリにこだわるね……」
先輩は半ば呆れているけれど、それでもいい。
「先輩、こっちでも一緒に写真撮りましょう!」
私は自分のスマホを取り出すと、先輩と肩を並べた。
「貸して」
先輩はそう言うと私のスマホを取り、私の肩を抱くと、すかさずシャッターボタンを押した。
撮れた写真を見て、既視感を覚える。
そうだ、これはさっき、落合先生から見せられた叔母と撮影したという写真と同じ構図だ。
今、この画像を見て、あれが合成だとは思えない。
私は先生から渡された叔母の写真パネルを持っており、このまま移動すると荷物が嵩張るので、一度家に戻ることにした。先輩はその間外で待っていると言うけれど、今日も日差しはきつく、熱中症にでもなったら大変なので、荷物を部屋へ置きに行く間だけでも玄関の中で待ってもらうことにした。
私は自分の部屋に荷物を置くと、お財布とスマホ、鍵を入れたポーチを持って玄関へと戻る。
「すみません、じゃあ行きましょう」
玄関の施錠を確認して私たちは家を後にすると、目的地であるスーパーへと向かった。
私たちがゲームコーナーへ到着すると、夏休みで行く場所のない子どもたちで湧いているかと思ったけれど、この暑さで外に出る元気がないのか閑散としていた。
お目当てのプリ機は、当然のことながらだれもいないのですぐに使える。
「先輩、撮りますよ!」
私は先輩の腕を引っ張り、プリ機の前に陣取ると、百円硬貨を数枚投入する。
音声ガイダンスに従って、私たちはいろいろな写真を撮影した。
先輩は撮り慣れていないようで、アタフタしていたけれど、それがとても新鮮だった。
納得いく写真が撮れると、先輩は自分のスマホを取り出して、不意打ちで私を撮影する。
「香織ちゃん」
名前を呼ばれて振り返ると、先輩が手にしていたスマホで私を撮影した。
「え、ちょっと待ってください。不意打ちは卑怯ですってば!」
「ポートレートの基本は、作った表情じゃなく、素の顔を撮影することだよ。その人の本質を写し出す、それができれば一流だって泰兄が言っていた」
唐突に写真についての講義を口にする。
「え、そんな……。素の顔って言われたら私、きっとひどい顔してますよ」
私が反論すると、先輩は今撮影した画像を私に見せてくれた。
「そんなことないよ、僕の彼女は充分かわいい」
唐突に『彼女』宣言をされると照れてしまう。
恥ずかしくて顔を上げることができないでいると、先輩はスマホの写真フォルダを閉じ、再びカメラを起動したようだ。
再びシャッター音が聞こえたけれど、私の視線よりも高い場所からの音に、どうやら俯く私の頭頂部を撮影したようだ。
顔を上げなくても、気配でわかる。今までだれにもそんなところを撮影されたことなんてないし、驚きのあまり顔を上げると、そのタイミングを見計らって再び先輩がシャッターボタンを押した。
「ほら、僕だけしか知らない、かわいい香織ちゃんの素顔が撮れた」
唐突な言葉に、私はどう言葉を返していいかわからない。結果、私の顔は熱くなっていく。
「えっと……、じゃあ次は、先輩とゲームやりますよ。どれやりましょう? って、そんなに種類ないけど……」
先輩の言葉をはぐらかすように、私はゲーム機を指差した。
「よし。じゃあ、対戦型のレーシングゲームやってみる?」
「はいっ!」
私は先輩に手ほどきを受けながら、一緒にゲームを楽しんだ。
初めてのレーシングゲームの結果は散々だったけれど、久しぶりに大笑いした。
ほかにもジュースを掛けたエアホッケーで三回勝負をしたけれど、案の定私はストレートで負けてしまい、先輩にコーラをおごることとなった。
コーラとオレンジジュースを購入し、ベンチに並んで腰を下ろすと、そこで休憩を取る。
ジュースを口にしながら、私は今日一日の情報を整理していた。
落合先生が叔母の恋人だったこと。そして昨日、叔母が亡くなった十六年前にリープしたこと……
前者については先輩や先生の言葉に嘘は感じられなかったので、きっと本当のことだ郎。
けど、後者のタイムリープについてはにわかに信じがたい。
そんなS Fじみた出来事を、急に信じろと言われて素直に信じられるわけがない。けれど、証拠として見せられたスマホの画像……
あれを合成で作るのはさすがに悪趣味だと思うけれど、合成には見えないくらい、お互い自然体だった。
本当にあれが合成ではなく、先生がリープしたのだとしたら……
私は、七年前のあの日に戻って、あの人を助けたい。
過去を変えてしまったら、それに続く未来まで変わってしまう。けれど、私の命を救うために亡くなってしまったあの人の未来を、救えるチャンスかもしれない。
私はその人の顔すら覚えていないけれど、十代後半から二十代前半の男性だと、当時の事故を担当していた警察官から聞かされていた。
七年経った今でもその人の身元は判明していないのだ。その人の家族が見つかるなら、きちんと会って謝罪と命を救ってくれたお礼を伝えたい。
そんなことを考えている時だった。
先輩がコーラを飲み終えると口を開いた。
「こんなに楽しいの、いつぶりだろう。これも香織ちゃんのおかげだな」
先輩の言葉に、私も同意見だ。私も先輩と一緒にいるだけで、とても楽しい。
「私も、今日はとても楽しいです。先輩と念願のプリも撮れたし」
「香織ちゃん、プリにこだわるね……」
先輩は半ば呆れているけれど、それでもいい。
「先輩、こっちでも一緒に写真撮りましょう!」
私は自分のスマホを取り出すと、先輩と肩を並べた。
「貸して」
先輩はそう言うと私のスマホを取り、私の肩を抱くと、すかさずシャッターボタンを押した。
撮れた写真を見て、既視感を覚える。
そうだ、これはさっき、落合先生から見せられた叔母と撮影したという写真と同じ構図だ。
今、この画像を見て、あれが合成だとは思えない。