先生が退出後、私たちは呆然としていた。

 過去へとリープできるカメラ――

 もしかしたら、これがあれば七年前、私を助けてくれた人を助けることができるかも知れない。もし助けられなかったとしても、あの人の身元を調べられるかも知れない。

 カメラを見つめながらそんなことを考えていると、先輩はポツリと呟いた。

「過去へ戻れるカメラ、ねえ……。泰兄が嘘を吐いているとは到底思えないけど、本当かな。香織ちゃんはどう思う?」

 先輩の言葉に、どう答えたらいいだろう。先生が嘘を吐いていると思わないという先輩の言葉が本当なら、いろいろと聞きたいことがある。

「…………」

 無言のままの私に、先輩は敢えて発言を促すようなことをせず、鞄の中から教科書とノートを取り出した。

 私も先輩に倣って、課題を片付けようと鞄の中から英語の教科書とノートを取り出したけれど、全く集中できなくて上の空だ。

 そんな私の様子を見た先輩は、課題に取り掛かっていたけれど、しばらくして机の上に広げていた教材を片付け始めた。

「今日はいろいろと情報量が多くて集中できないから、勉強はやめてデートしない? 思えば僕たちってまだ一度も一緒に出かけたことないよね?」

 先輩からの提案に、私はぼんやりしていて咄嗟に反応ができなかった。

「デート……、え? デート!?」

 びっくりして声が裏返る私の反応が面白かったのか、先輩はクスクス笑っている。

「うん、デートしよう。今から家に帰って着替えてってなると、時間も限られてくるからこのままの格好になるけど、どこか行きたいところある?」

 行きたいところならたくさんある。
 先輩とだったらどこでも一緒に行きたいし、なんでも一緒にやりたい。

 でも、時間は限られている。

 ここから一番近い、行きたいところといえば……

「私、先輩と制服でプリ撮りたいです! あと、スマホでも一緒に写真撮りたい!」

 私服でも一緒に写真を撮りたいけれど、先輩が高校の制服を着用できるのは、今年が最後。卒業してしまえば、それまでなのだ。

「プリか……、この辺だったら、どこがある?」

 私の無茶振りに、先輩は嫌な顔をせず神対応だ。

「隣町にあるショッピングモールまで行けば、たくさんプリの機械ありますけど、移動時間がもったいないしなあ……」

 せっかくならいろいろな機種を使って先輩とプリを撮影したいけれど、公共交通機関で移動となると時間も気にしなければならないし、移動中の会話……声のトーンにも気をつけないといけないし、何かと制約が多い。

「いつもはどこで撮ってるの?」

「近場だったら、あそこ……。花村(はなむら)わかります? 昔はあそこでよく友達と撮ってたんですけど、機種も少なくて……」

 私の言葉に先輩が頷いた。

 花村とは、私たちが通っていた中学校の近所にあるローカルスーパーで、その一角に、ちょっとだけゲームセンターがあるのだ。そこに買い物へ行くついでによく友達とプリを撮っていた。

 校区が同じ先輩だからこそわかる会話だ。

「ああ、あそこね。じゃあそこ行こう。たしか対戦型のゲームも少し置いてあったよね? 香織ちゃんってゲームやる人?」

「得意じゃないですけど、教えてもらったらできるかも……? 初心者ですから、そこはハンデくださいね」

「よし、そうと決まれば早速行こう」

 先輩はそう言うと、私が荷物を片付けるのを待って、一緒に部室を出た。