花音ちゃんも、口の中に頬張っていたカップケーキを嚥下すると、お茶を飲んで口の中を潤し、言葉を発する。
「いいじゃんいいじゃん。先輩たちって一学期で部活動引退するし、二学期からは受験モードに突入でしょ? 受験勉強のお供にどうぞって、差し入れするの、アリだと思うよ」
昨日のお礼、か……
何らかの形できちんとお礼しなきゃと思っていたけれど、みんなの意見で、お菓子を作るのもアリだなと思ったその瞬間、真莉愛の言葉で考えを改めた。
「これさ、美味しいんだけど、アイスとホットケーキミックスって一袋丸々使うから、分量の調節ができないんだ。ケーキを焼く時に使う型も、小さいやつを使ったら最後、大量になるし。焼いて数日は日持ちするとは言え、毎日だと飽きちゃうからね。実はこれ、私の夜用おやつの残りなんだ。家にまだこれの半分あるよ」
真莉愛の言葉に、私たちは歓声を上げる。
「ええ、すごい! じゃあ、ケーキの型に生地を入れたら、本格的なケーキもできるってことだよね?」
「よし、じゃあ近いうちに私も作ってみよう。香織ちゃんも、ケーキ作って余ったら、私たちが責任を持って食べるから、安心してね」
食いしん坊な花音ちゃんは、そう言って笑いを誘う。
「ちょっと待って。それって、すでに私が先輩にケーキを作るって前提になってない?」
私は真莉愛のケーキを食べながら口を開くと、全員が何言ってるのとばかりに首をかしげる。
「だれがどう聞いても、これはそんな流れでしょう」
芽美ちゃんはそう言いながら両手を合わせてごちそうさまのポーズを取ると、机の上のお弁当箱を片付け始めた。
「と言うことで、香織ちゃん。先輩への差し入れの前に味見してあげるから」
花音ちゃんもそう言って、机の上を片付け始めた。
残るは私と真莉愛だけ。真莉愛もすでにカップケーキを食べ終えており、残るは私一人だけ。
「え、みんな食べるの早くない?」
焦った私は、残りのカップケーキにかぶりつくと、真莉愛が笑った。
「香織、急がなくていいよ。今日は病み上がりなんだから、食事はゆっくり食べな」
真莉愛の男前発言に、二人も「そうだよ、ゆっくり食べなよ」と言ってくれるけれど、一人だけ遅れていることに気が引ける。
急いで食べ終えると、口の中の水分がスポンジ生地に取られてしまい、喉が渇く。私は水筒に手を伸ばし、お茶を飲む。ようやく一息入れたところで、みんなが自分の席へと戻って行った。
昼休み、清掃の時間も終わり、午後からの授業は先生の声が子守唄のように聞こえ、眠気を我慢するのに必死だった。
六限の授業が終わり、七限の授業が始まると、私たちは写真撮影のため教室を移動する。移動した先は、なぜか被服室だった。証明写真を撮影するため、背景は何もないスクリーンが貼られている。
一組から順番に、顔写真の撮影が始まる。私たちは出席番号順に整列し、自分の撮影順番を待っていた。
待ち時間の間、私たちは少しでも写真写りが良くなるよう、手鏡と睨めっこだ。
そしていよいよ私の順番が回ってくる。
撮影はあっという間に終わり、撮影が終わった人から順に教室へと戻っていくことになっていた。
被服室から出ると、廊下で真莉愛が待っていてくれた。
「さ、教室戻ろう」
「うん」
私たちは一緒に教室へと戻る。
この時間は写真撮影のために設けられていたので、七限終了のチャイムが鳴るまでは自習を告げられていた。
教室に先生が不在だけど、本来なら授業中である時間なので、みんなも私語をするのに声のトーンが低い。
「よし! 今のうちに課題を片付けちゃおう!」
そんな時、教室でだれかが口にした言葉で、みんなが水を打ったように静まり返る。そして一人、二人と机の中から教科書とノートを取り出し、今日の課題に取り掛かる。それを見た他の人たちも、一斉に課題に取り掛かった。
あと少しで数学の課題が終わるというタイミングで、七限終了のチャイムが鳴る。みんなはチャイムと同時に片付けを始めた。私はキリのいいところまで済ませようと、そのまま課題に取り掛かっていると、花音ちゃんが私の名前を呼んだ。
「香織ちゃん、お迎え来てるよ!」
その声に、私は視線を上げる。廊下に目を向けると、そこに先輩の姿があった。そう言えば、今朝教室へ迎えに来るって言っていたけれど、課題に夢中になり過ぎて、すっかり忘れていた。
私は急いで机の上を片付け、鞄の中にしまい込む。
忘れ物がないかチェックを済ませ、教室に残っている友達に挨拶を交わすと、先輩の元へと急いだ。
「お待たせしてすみません!」
「いや、大丈夫だよ。課題やっていたの?」
先輩には私の行動はお見通しだったようだ。
「はい。あともう少しで終わるので、今日は家で楽ができそうです」
私の返事に先輩は少し思案している。そして、ちょっとの間を置いて、先輩が口を開いた。
「今日って帰宅後に何か用事ある? もし時間が空いているなら、図書室で課題を済ませて帰らない?」
先輩の提案に、私は少し考えた。
数学以外にも課題は出されている。学校で全て片付けることができたらなら、本当に今日は家で勉強をしなくても済むのだ。
「はい、よろしくお願いします」
私たちは、迷わず図書室へと直行することとなった。
「いいじゃんいいじゃん。先輩たちって一学期で部活動引退するし、二学期からは受験モードに突入でしょ? 受験勉強のお供にどうぞって、差し入れするの、アリだと思うよ」
昨日のお礼、か……
何らかの形できちんとお礼しなきゃと思っていたけれど、みんなの意見で、お菓子を作るのもアリだなと思ったその瞬間、真莉愛の言葉で考えを改めた。
「これさ、美味しいんだけど、アイスとホットケーキミックスって一袋丸々使うから、分量の調節ができないんだ。ケーキを焼く時に使う型も、小さいやつを使ったら最後、大量になるし。焼いて数日は日持ちするとは言え、毎日だと飽きちゃうからね。実はこれ、私の夜用おやつの残りなんだ。家にまだこれの半分あるよ」
真莉愛の言葉に、私たちは歓声を上げる。
「ええ、すごい! じゃあ、ケーキの型に生地を入れたら、本格的なケーキもできるってことだよね?」
「よし、じゃあ近いうちに私も作ってみよう。香織ちゃんも、ケーキ作って余ったら、私たちが責任を持って食べるから、安心してね」
食いしん坊な花音ちゃんは、そう言って笑いを誘う。
「ちょっと待って。それって、すでに私が先輩にケーキを作るって前提になってない?」
私は真莉愛のケーキを食べながら口を開くと、全員が何言ってるのとばかりに首をかしげる。
「だれがどう聞いても、これはそんな流れでしょう」
芽美ちゃんはそう言いながら両手を合わせてごちそうさまのポーズを取ると、机の上のお弁当箱を片付け始めた。
「と言うことで、香織ちゃん。先輩への差し入れの前に味見してあげるから」
花音ちゃんもそう言って、机の上を片付け始めた。
残るは私と真莉愛だけ。真莉愛もすでにカップケーキを食べ終えており、残るは私一人だけ。
「え、みんな食べるの早くない?」
焦った私は、残りのカップケーキにかぶりつくと、真莉愛が笑った。
「香織、急がなくていいよ。今日は病み上がりなんだから、食事はゆっくり食べな」
真莉愛の男前発言に、二人も「そうだよ、ゆっくり食べなよ」と言ってくれるけれど、一人だけ遅れていることに気が引ける。
急いで食べ終えると、口の中の水分がスポンジ生地に取られてしまい、喉が渇く。私は水筒に手を伸ばし、お茶を飲む。ようやく一息入れたところで、みんなが自分の席へと戻って行った。
昼休み、清掃の時間も終わり、午後からの授業は先生の声が子守唄のように聞こえ、眠気を我慢するのに必死だった。
六限の授業が終わり、七限の授業が始まると、私たちは写真撮影のため教室を移動する。移動した先は、なぜか被服室だった。証明写真を撮影するため、背景は何もないスクリーンが貼られている。
一組から順番に、顔写真の撮影が始まる。私たちは出席番号順に整列し、自分の撮影順番を待っていた。
待ち時間の間、私たちは少しでも写真写りが良くなるよう、手鏡と睨めっこだ。
そしていよいよ私の順番が回ってくる。
撮影はあっという間に終わり、撮影が終わった人から順に教室へと戻っていくことになっていた。
被服室から出ると、廊下で真莉愛が待っていてくれた。
「さ、教室戻ろう」
「うん」
私たちは一緒に教室へと戻る。
この時間は写真撮影のために設けられていたので、七限終了のチャイムが鳴るまでは自習を告げられていた。
教室に先生が不在だけど、本来なら授業中である時間なので、みんなも私語をするのに声のトーンが低い。
「よし! 今のうちに課題を片付けちゃおう!」
そんな時、教室でだれかが口にした言葉で、みんなが水を打ったように静まり返る。そして一人、二人と机の中から教科書とノートを取り出し、今日の課題に取り掛かる。それを見た他の人たちも、一斉に課題に取り掛かった。
あと少しで数学の課題が終わるというタイミングで、七限終了のチャイムが鳴る。みんなはチャイムと同時に片付けを始めた。私はキリのいいところまで済ませようと、そのまま課題に取り掛かっていると、花音ちゃんが私の名前を呼んだ。
「香織ちゃん、お迎え来てるよ!」
その声に、私は視線を上げる。廊下に目を向けると、そこに先輩の姿があった。そう言えば、今朝教室へ迎えに来るって言っていたけれど、課題に夢中になり過ぎて、すっかり忘れていた。
私は急いで机の上を片付け、鞄の中にしまい込む。
忘れ物がないかチェックを済ませ、教室に残っている友達に挨拶を交わすと、先輩の元へと急いだ。
「お待たせしてすみません!」
「いや、大丈夫だよ。課題やっていたの?」
先輩には私の行動はお見通しだったようだ。
「はい。あともう少しで終わるので、今日は家で楽ができそうです」
私の返事に先輩は少し思案している。そして、ちょっとの間を置いて、先輩が口を開いた。
「今日って帰宅後に何か用事ある? もし時間が空いているなら、図書室で課題を済ませて帰らない?」
先輩の提案に、私は少し考えた。
数学以外にも課題は出されている。学校で全て片付けることができたらなら、本当に今日は家で勉強をしなくても済むのだ。
「はい、よろしくお願いします」
私たちは、迷わず図書室へと直行することとなった。