机の中に教材を収納し、真莉愛の言うように漢字テスト対策で、テキストを開く。昨日、大事を取って勉強をしていないので、ここでできるだけ暗記しておかないと、ひどい点数を取りそうだ。
私は使っていないルーズリーフに、自分が書けない文字を書き抜いていく。『読み』はできても『書き』ができないと、点数は取れない。私は、書きが怪しい感じを徹底的に書き出した。
SHRの時間に行われる漢字テストは、散々な点数だった。でも、直前の書き抜きのおかげで、何問かは救われた。やはり付け焼き刃の勉強は良くないと思い知らされる。
今日は体育の授業もなく、午前中に過呼吸の発作も起こることなく、無事昼休みを迎えた。
お弁当を食べながら、案の定、花音ちゃんと芽美ちゃんは今朝の出来事を根掘り葉掘り聞いてくる。なので私は昨日の出来事を一から説明することとなった。
「昨日ね、部活が終わって先輩が部室の鍵を返しに行っている間、中庭のベンチに座って待っていたの。そうしたら過呼吸の発作を起こしちゃって。先輩、それを心配して、今朝うちへ迎えに来てくれたの」
事情を説明すると、芽美ちゃんが口を開く。
「ええ、それ、大丈夫なの? 過呼吸って、あれでしょう、呼吸を吸いすぎて苦しくなるやつ。たしかしばらく動けなくなるよね。中学の頃、同級生が過呼吸の発作を起こして救急車で運ばれたことがあるよ」
「でも、ベンチに座っている時に過呼吸が起こったって、何があったの?」
花音ちゃんが過呼吸の原因について質問した。
原因、か……。これを口にすることで、また発作を起こさないか不安が過ぎる。
「それ、聞いちゃう? 何かあったから発作が起こったんでしょ? そこは香織が自分から言うまでは聞かないのが友達でしょ」
私が言い淀んでいるとことに、真莉愛が助け舟を出してくれた。真莉愛は、いつもここぞと言うところで私を救ってくれる。先輩と同じくまだ知り合って間もないけれど、真莉愛の何気ない言動に、私はどれだけ助けられただろう。
「そうだね……、香織ちゃん、ごめん。でも、一度過呼吸起こしたら、またなりやすいって聞くけど、大丈夫?」
花音ちゃんの謝罪を、私は受け入れた。
「こっちこそ、心配掛けるようなこと言ってごめんね。……実は私、小学生の頃交通事故に遭ったことがあってね。ちょうど先輩を待っていた時に、その時の記憶が蘇って……」
詳細は語らずとも、私の口から交通事故というショッキングなワードが出たことで、三人の顔色が変わっていくのがわかる。
「私が事故に遭った時間帯が夕方でね。先輩を待っている時に、ちょうどこのくらいの時間だったかなって思い出したら、発作が出ちゃって……」
私の声に、花音ちゃんは自分がこの話題に触れたことについて、申し訳ないと謝罪の言葉を口にした。
「そうだったんだ……。事情を知らなかったとは言え、思い出させるようなことを聞いてごめんね」
「ううん、いいよ。だれだって、過呼吸の発作を起こしたって聞けば、何が原因かって気になるだろうし……」
私の返事に、三人は口を噤んだ。
沈黙が、とても気まずく感じていると、やっぱりここでも真莉愛が空気を変えようと、鞄の中からお菓子を取り出した。
「じゃーん、見てこれ。昨日の夜、私が作ったんだ」
真莉愛の机の上に、可愛らしくラッピングされたカップケーキが並べられた。
「え、これ、手作り? 真莉愛ちゃん、女子力ヤバい」
「ラッピングも可愛いね。これ、食べていいの?」
芽美ちゃん、花音ちゃんが、真莉愛の作ったというカップケーキを見て興奮している。
「うん、いいよ。みんなで食べるために持ってきたんだから」
「「やった! じゃあ、いただきまーす!」」
二人は真莉愛からカップケーキを受け取ると、早速ラッピングを解いてケーキを食べ始めた。
そんな二人を横目に、真莉愛は私にもカップケーキを手渡した。
「香織も、はいこれ」
「あ、ありがとう……。真莉愛、よくこんなことする時間があったね」
真莉愛の通学時間や帰宅後のことを考えると、どこにこんな余裕があるのかが不思議でならない。
「ああ、これね。カップのアイスを溶かして、それとホットケーキミックスを混ぜるだけだから、分量を計ったりしなくていいし簡単だよ。それに、混ぜて型に流し込んだら、あとは焼くだけだし。焼いている間に余裕で勉強できるよ」
真莉愛の声に、二人も感心している。
「へえ、そうなんだ……。言われてみれば、これ、アイスの味だ。全然いける」
「わあ、めっちゃ簡単じゃん。私もやってみよう」
二人とも、ケーキの味に舌鼓を打つ。
「香織も食べてみて」
真莉愛に勧められ、私もカップケーキのラッピングを解き、ポロポロ落とさないよう、上の部分を手でちぎり、それを口へ運ぶ。
「わあ……美味しい。これ、本当にホットケーキミックスとアイスだけで作ったの?」
真莉愛のくれたカップケーキは、市販のカップケーキとそう変わりないように思えた。それくらい完成度も高く、味も美味しい。
みんなに絶賛されて、真莉愛も気分良さそうだ。
「うん。アイスの中に、砂糖や卵も含まれているから、追加する必要はないし、簡単でしょう? 私が小さい頃、親がこれをよく作ってくれたんだ。それこそ、先輩に昨日のお礼で作ってあげたら? 先輩、喜ぶと思うよ」
私と真莉愛の話を聞いていた芽美ちゃんが、横で首を大きく縦に振っている。
私は使っていないルーズリーフに、自分が書けない文字を書き抜いていく。『読み』はできても『書き』ができないと、点数は取れない。私は、書きが怪しい感じを徹底的に書き出した。
SHRの時間に行われる漢字テストは、散々な点数だった。でも、直前の書き抜きのおかげで、何問かは救われた。やはり付け焼き刃の勉強は良くないと思い知らされる。
今日は体育の授業もなく、午前中に過呼吸の発作も起こることなく、無事昼休みを迎えた。
お弁当を食べながら、案の定、花音ちゃんと芽美ちゃんは今朝の出来事を根掘り葉掘り聞いてくる。なので私は昨日の出来事を一から説明することとなった。
「昨日ね、部活が終わって先輩が部室の鍵を返しに行っている間、中庭のベンチに座って待っていたの。そうしたら過呼吸の発作を起こしちゃって。先輩、それを心配して、今朝うちへ迎えに来てくれたの」
事情を説明すると、芽美ちゃんが口を開く。
「ええ、それ、大丈夫なの? 過呼吸って、あれでしょう、呼吸を吸いすぎて苦しくなるやつ。たしかしばらく動けなくなるよね。中学の頃、同級生が過呼吸の発作を起こして救急車で運ばれたことがあるよ」
「でも、ベンチに座っている時に過呼吸が起こったって、何があったの?」
花音ちゃんが過呼吸の原因について質問した。
原因、か……。これを口にすることで、また発作を起こさないか不安が過ぎる。
「それ、聞いちゃう? 何かあったから発作が起こったんでしょ? そこは香織が自分から言うまでは聞かないのが友達でしょ」
私が言い淀んでいるとことに、真莉愛が助け舟を出してくれた。真莉愛は、いつもここぞと言うところで私を救ってくれる。先輩と同じくまだ知り合って間もないけれど、真莉愛の何気ない言動に、私はどれだけ助けられただろう。
「そうだね……、香織ちゃん、ごめん。でも、一度過呼吸起こしたら、またなりやすいって聞くけど、大丈夫?」
花音ちゃんの謝罪を、私は受け入れた。
「こっちこそ、心配掛けるようなこと言ってごめんね。……実は私、小学生の頃交通事故に遭ったことがあってね。ちょうど先輩を待っていた時に、その時の記憶が蘇って……」
詳細は語らずとも、私の口から交通事故というショッキングなワードが出たことで、三人の顔色が変わっていくのがわかる。
「私が事故に遭った時間帯が夕方でね。先輩を待っている時に、ちょうどこのくらいの時間だったかなって思い出したら、発作が出ちゃって……」
私の声に、花音ちゃんは自分がこの話題に触れたことについて、申し訳ないと謝罪の言葉を口にした。
「そうだったんだ……。事情を知らなかったとは言え、思い出させるようなことを聞いてごめんね」
「ううん、いいよ。だれだって、過呼吸の発作を起こしたって聞けば、何が原因かって気になるだろうし……」
私の返事に、三人は口を噤んだ。
沈黙が、とても気まずく感じていると、やっぱりここでも真莉愛が空気を変えようと、鞄の中からお菓子を取り出した。
「じゃーん、見てこれ。昨日の夜、私が作ったんだ」
真莉愛の机の上に、可愛らしくラッピングされたカップケーキが並べられた。
「え、これ、手作り? 真莉愛ちゃん、女子力ヤバい」
「ラッピングも可愛いね。これ、食べていいの?」
芽美ちゃん、花音ちゃんが、真莉愛の作ったというカップケーキを見て興奮している。
「うん、いいよ。みんなで食べるために持ってきたんだから」
「「やった! じゃあ、いただきまーす!」」
二人は真莉愛からカップケーキを受け取ると、早速ラッピングを解いてケーキを食べ始めた。
そんな二人を横目に、真莉愛は私にもカップケーキを手渡した。
「香織も、はいこれ」
「あ、ありがとう……。真莉愛、よくこんなことする時間があったね」
真莉愛の通学時間や帰宅後のことを考えると、どこにこんな余裕があるのかが不思議でならない。
「ああ、これね。カップのアイスを溶かして、それとホットケーキミックスを混ぜるだけだから、分量を計ったりしなくていいし簡単だよ。それに、混ぜて型に流し込んだら、あとは焼くだけだし。焼いている間に余裕で勉強できるよ」
真莉愛の声に、二人も感心している。
「へえ、そうなんだ……。言われてみれば、これ、アイスの味だ。全然いける」
「わあ、めっちゃ簡単じゃん。私もやってみよう」
二人とも、ケーキの味に舌鼓を打つ。
「香織も食べてみて」
真莉愛に勧められ、私もカップケーキのラッピングを解き、ポロポロ落とさないよう、上の部分を手でちぎり、それを口へ運ぶ。
「わあ……美味しい。これ、本当にホットケーキミックスとアイスだけで作ったの?」
真莉愛のくれたカップケーキは、市販のカップケーキとそう変わりないように思えた。それくらい完成度も高く、味も美味しい。
みんなに絶賛されて、真莉愛も気分良さそうだ。
「うん。アイスの中に、砂糖や卵も含まれているから、追加する必要はないし、簡単でしょう? 私が小さい頃、親がこれをよく作ってくれたんだ。それこそ、先輩に昨日のお礼で作ってあげたら? 先輩、喜ぶと思うよ」
私と真莉愛の話を聞いていた芽美ちゃんが、横で首を大きく縦に振っている。