いつもより早く支度が済み、私は玄関前で先輩から連絡が来るのを待っていた。すると、スマホにメッセージ受信の通知が届く。きっと先輩からだろう。
私はスマホのロックを解除すると、アプリを開いた。
やっぱりメッセージは先輩からのもので、寝坊したから家まで自転車でやって来るとのことだった。
先輩の家は、駅の近くだと聞いている。そこは自転車通学の許可がおりないギリギリの場所で、学校までは乗り入れができないため、我が家に自転車を置かせてほしいとのことだ。
「お母さん、今から学校の先輩が迎えに来てくれんだけど、うちに自転車置いて行ってもいい?」
玄関先で私は母に聞こえるよう、少し声を張り上げた。
「え? お迎えって、何ごと?」
私の声に驚いた母が、玄関先までやって来る。
父は私が洗面所で支度している間に出勤している。私に彼氏ができたと知ったら、父はきっと卒倒するだろう。
「えっと……、昨日、私と一緒にいてくれた先輩がね、心配だから迎えに来てくれるって連絡があって……」
私の言葉に、一瞬ポカンとしていた母だけど、状況を察したらしい。
「ああ、昨日の男の子ね。もちろんよ、自転車置き場に余裕あるんだから、いつでも好きな時に停めていいよって伝えてあげて」
母はそう言うと、自身も仕事に行く準備をするため、部屋へと戻っていく。
母は普通に話をしてくれたけど、昨日の今日で先輩が迎えに来るなんてこと普通にありえないことだから、先輩が私の彼氏だということは、きっとバレているだろうな……
「香織、お母さん先に出るから、玄関の戸締まりよろしくね」
母はそう言って、私より先に出掛けようと玄関の扉を開けたその時だった。目の前に、先輩の姿が飛び込んできた。どうやら玄関の前で、ちょうど自転車から降りたところらしい。
「あら、あなた、昨日の……」
母の声に、私は母の後ろから顔を出す。
「あ、先輩、おはようございます」
私の声に、先輩が反応する。
「おはようございます。香織ちゃん、おはよう」
先輩は先に母へ挨拶をすると、続けて私に挨拶をしてくれた。
「えっと、西村くん……だったよね? 昨日は香織がお世話になりありがとう。自転車はスペースあるから、好きなところに停めて大丈夫よ」
母はそう言うと、駐輪場にしているスペースを指差し、自身は反対側の車を停めている方向へ歩き出す。
「じゃあ、二人とも気を付けて行ってらっしゃい」
母はそう言うと、車を解錠し、運転席に乗り込んだ。私と先輩は母が車で出勤する姿を見送り、車が角を曲がって見えなくなると、先輩は母が伝えたスペースに自転車を停めた。
「念のため、自転車の鍵は掛けておいてくださいね」
私はそう言いながら、玄関の施錠をする。
「了解」
先輩はそう言って、私の自転車の隣に自身の自転車を停めた。
自転車の前籠に入れている鞄を手に取ると、頭に被っているヘルメットを外し、そこへ入れる。
「髪、潰れてない?」
先輩の言葉に、私は先輩の頭上へと視線を向ける。身体を両サイドに動かして、先輩の髪型をチェックする。
「全然大丈夫です」
ヘルメットの跡は全く付いておらず、髪の毛はサラサラのままだ。癖のつかない髪質なのか、それとも単に偶然なのかわからないけれど、癖がつかないのは羨ましい。
「じゃあ、行こうか」
先輩の声に、私は素直に頷くと、先輩の隣に並んで学校へと向かう。
登校の道中、同じ学校の生徒の姿を複数見かけるたび、私は緊張で手に汗握る。
知り合いに見られたら、後で質問攻めに合うだろうな。先輩は私のこと、「彼女」だとはっきり口にしてくれたんだから、私も堂々としていればいい。けれど、やっぱりまだ慣れなくて、先輩の隣を歩くだけでドキドキする。
「昨日はゆっくり眠れた?」
不意に聞こえた先輩の声に、私はびっくりして肩が上がる。
「は、はいっ。あれから布団に入ったら、朝まで熟睡していました」
私の声は、少しだけうわずっている。それに対して先輩は普段通りだ。
「ゆっくり休めたようで良かったよ。体調はどう?」
「たくさん眠れたので、多分大丈夫だと思います」
前日の睡眠不足も解消できたので、頭はスッキリしている。
「今日は一年生って、六限終わりだったっけ?」
先輩の言葉に、今日の時間割を思い出す。
「はい。たしか七限に、学生証の写真撮影があるとか……」
入学してまだ日が浅いので、私たち一年生はまだ学生証はない。そのため、学生証に使用する写真撮影あるのだ。その前に服装検査もあり、考えただけで何だか面倒くさそうだ。
「僕らは週明けに写真撮影があるんだ。全校生徒、一度に撮影を終わらせるには無理があるからね」
学生証は一年ごとに更新があるため、毎年この時期に顔写真を撮影して交付されるらしい。手間は掛かるけど、一年の時の写真が三年間使われないだけマシだ。
「ですよね……」
二年生の写真撮影は、明日の七限に時間が設けられている。三年生は、一番最後になるらしい。
「僕らは七限みっちり授業だよ。六限七限の時間って、小腹も満たされて、眠たくなる時間帯だよね」
「ああ、わかります。これが窓際の席だったらもう、眠気マックスになりますよ」
私はスマホのロックを解除すると、アプリを開いた。
やっぱりメッセージは先輩からのもので、寝坊したから家まで自転車でやって来るとのことだった。
先輩の家は、駅の近くだと聞いている。そこは自転車通学の許可がおりないギリギリの場所で、学校までは乗り入れができないため、我が家に自転車を置かせてほしいとのことだ。
「お母さん、今から学校の先輩が迎えに来てくれんだけど、うちに自転車置いて行ってもいい?」
玄関先で私は母に聞こえるよう、少し声を張り上げた。
「え? お迎えって、何ごと?」
私の声に驚いた母が、玄関先までやって来る。
父は私が洗面所で支度している間に出勤している。私に彼氏ができたと知ったら、父はきっと卒倒するだろう。
「えっと……、昨日、私と一緒にいてくれた先輩がね、心配だから迎えに来てくれるって連絡があって……」
私の言葉に、一瞬ポカンとしていた母だけど、状況を察したらしい。
「ああ、昨日の男の子ね。もちろんよ、自転車置き場に余裕あるんだから、いつでも好きな時に停めていいよって伝えてあげて」
母はそう言うと、自身も仕事に行く準備をするため、部屋へと戻っていく。
母は普通に話をしてくれたけど、昨日の今日で先輩が迎えに来るなんてこと普通にありえないことだから、先輩が私の彼氏だということは、きっとバレているだろうな……
「香織、お母さん先に出るから、玄関の戸締まりよろしくね」
母はそう言って、私より先に出掛けようと玄関の扉を開けたその時だった。目の前に、先輩の姿が飛び込んできた。どうやら玄関の前で、ちょうど自転車から降りたところらしい。
「あら、あなた、昨日の……」
母の声に、私は母の後ろから顔を出す。
「あ、先輩、おはようございます」
私の声に、先輩が反応する。
「おはようございます。香織ちゃん、おはよう」
先輩は先に母へ挨拶をすると、続けて私に挨拶をしてくれた。
「えっと、西村くん……だったよね? 昨日は香織がお世話になりありがとう。自転車はスペースあるから、好きなところに停めて大丈夫よ」
母はそう言うと、駐輪場にしているスペースを指差し、自身は反対側の車を停めている方向へ歩き出す。
「じゃあ、二人とも気を付けて行ってらっしゃい」
母はそう言うと、車を解錠し、運転席に乗り込んだ。私と先輩は母が車で出勤する姿を見送り、車が角を曲がって見えなくなると、先輩は母が伝えたスペースに自転車を停めた。
「念のため、自転車の鍵は掛けておいてくださいね」
私はそう言いながら、玄関の施錠をする。
「了解」
先輩はそう言って、私の自転車の隣に自身の自転車を停めた。
自転車の前籠に入れている鞄を手に取ると、頭に被っているヘルメットを外し、そこへ入れる。
「髪、潰れてない?」
先輩の言葉に、私は先輩の頭上へと視線を向ける。身体を両サイドに動かして、先輩の髪型をチェックする。
「全然大丈夫です」
ヘルメットの跡は全く付いておらず、髪の毛はサラサラのままだ。癖のつかない髪質なのか、それとも単に偶然なのかわからないけれど、癖がつかないのは羨ましい。
「じゃあ、行こうか」
先輩の声に、私は素直に頷くと、先輩の隣に並んで学校へと向かう。
登校の道中、同じ学校の生徒の姿を複数見かけるたび、私は緊張で手に汗握る。
知り合いに見られたら、後で質問攻めに合うだろうな。先輩は私のこと、「彼女」だとはっきり口にしてくれたんだから、私も堂々としていればいい。けれど、やっぱりまだ慣れなくて、先輩の隣を歩くだけでドキドキする。
「昨日はゆっくり眠れた?」
不意に聞こえた先輩の声に、私はびっくりして肩が上がる。
「は、はいっ。あれから布団に入ったら、朝まで熟睡していました」
私の声は、少しだけうわずっている。それに対して先輩は普段通りだ。
「ゆっくり休めたようで良かったよ。体調はどう?」
「たくさん眠れたので、多分大丈夫だと思います」
前日の睡眠不足も解消できたので、頭はスッキリしている。
「今日は一年生って、六限終わりだったっけ?」
先輩の言葉に、今日の時間割を思い出す。
「はい。たしか七限に、学生証の写真撮影があるとか……」
入学してまだ日が浅いので、私たち一年生はまだ学生証はない。そのため、学生証に使用する写真撮影あるのだ。その前に服装検査もあり、考えただけで何だか面倒くさそうだ。
「僕らは週明けに写真撮影があるんだ。全校生徒、一度に撮影を終わらせるには無理があるからね」
学生証は一年ごとに更新があるため、毎年この時期に顔写真を撮影して交付されるらしい。手間は掛かるけど、一年の時の写真が三年間使われないだけマシだ。
「ですよね……」
二年生の写真撮影は、明日の七限に時間が設けられている。三年生は、一番最後になるらしい。
「僕らは七限みっちり授業だよ。六限七限の時間って、小腹も満たされて、眠たくなる時間帯だよね」
「ああ、わかります。これが窓際の席だったらもう、眠気マックスになりますよ」