四月某日、今日は高校の入学式だ。
私は夢と希望に胸を膨らませていた。
近年の地球温暖化の影響か、三寒四温も寒暖差が激しくて、桜の開花は例年より遅れている。そのおかげで入学式の日まで桜が咲いており、桜吹雪の中、真新しい制服に身を包んだ私は高校の校門をくぐる。
正門をくぐると、人だかりができていた。そこには私と同じ新入学生もいれば、大人びた雰囲気の生徒もいる。正面に新入学生のクラス発表の名簿が張り出されており、それを見るためにみんなが集まっているのだろう。
私は人混みをかき分け、掲示板が見える場所まで移動した。
小学生の頃交通事故で怪我をした足は、リハビリのおかげで日常生活に支障がない程度にまで回復したけれど、後遺症で今も少し足を引きずっている。
同じ中学校からこの高校に進学した友達は少なくて、見知った名前はほとんどない。
掲示板の張り紙から、自分の名前を探す。
中嶋香織の名前は、一年二組のところに表示されていた。
「二組、か……」
私の呟きが、隣に立っていた女子生徒の耳に届いたらしく、その彼女が私に話しかける。
「え、あなた二組なの? 私も二組なんだ。私、阿部真莉愛。よろしくね!」
阿部真莉愛と名乗る少女は、身長が高くほっそりとした体形に、ショートヘア。ボーイッシュな見た目だけど、明らかに女の子だ。
スラックスこそ履いていないけれど、まるでタカラジェンヌのような容姿だから、女子生徒にモテそうだ。もし運動が得意なら、バレー部やバスケ部が喉から手が出るくらいほしがる逸材だろう。
「私は、中嶋香織。こちらこそよろしくね」
同じ中学校からこの学校に進学した子は少なく、加えてそれまで仲が良かった友達は、みんな違う高校だ。それだけに、友達ができるか少なからず不安だったのだ。
私の不安げな様子を察したのか、真莉愛は私に向かって笑顔を見せる。
「ああ、良かった。これで一人、友達ができた!」
真莉愛の声に、私も釣られて笑顔になった。
「本当だね。私も一人で不安だったの。良かったら、私のことは香織って呼んでね」
「うん! 私のことは真莉愛って呼んで。じゃあ、教室へ行こう」
私たちは掲示板の前から離れ、一年二組の教室へと向かおうとした。けれど、人だかりのせいで真莉愛とはぐれてしまいそうになる。幸い真莉愛は身長が高いので、見失うことはない。私は必死に真莉愛の後を追うけれど、もみくちゃになり、その場から動けないでいた。
その時だった。
突風が吹きつけて、目の前に桜吹雪が舞ったと思ったと思ったら……
「こっちにおいで」
一人の男子生徒が私の前に現れると、私の手を取り、人混みの中から救ってくれた。
身長は真莉愛よりも高く、その広い背中はとても頼りがいがある。
掲示板から少し離れたところまで誘導してもらい、初めてその男子生徒の顔を見た。
名札の色が私のものと違うから、上級生に間違いない。
明るい髪の色に、優しい顔立ちのイケメンさんだ。
一瞬私は彼の顔に見とれてしまったけれど、すぐに我に返り、お礼を伝えるために口を開いたその瞬間――
「香織! 大丈夫?」
校舎まで歩いていた真莉愛は、私の姿が見えないことを心配して戻ってきたようだ。
「あ、うん。大丈夫」
咄嗟に口から出た言葉は、上級生への感謝を伝えるものではなく、真莉愛に対する返答だった。
「友達が一緒なら大丈夫だな。じゃあまたね」
先輩は、そんな私に対して気を悪くするふうでもなく、そう言うと踵を返すと校舎へ向かって去って行った。
結局、助けてもらったお礼を伝えられないまま……
私は夢と希望に胸を膨らませていた。
近年の地球温暖化の影響か、三寒四温も寒暖差が激しくて、桜の開花は例年より遅れている。そのおかげで入学式の日まで桜が咲いており、桜吹雪の中、真新しい制服に身を包んだ私は高校の校門をくぐる。
正門をくぐると、人だかりができていた。そこには私と同じ新入学生もいれば、大人びた雰囲気の生徒もいる。正面に新入学生のクラス発表の名簿が張り出されており、それを見るためにみんなが集まっているのだろう。
私は人混みをかき分け、掲示板が見える場所まで移動した。
小学生の頃交通事故で怪我をした足は、リハビリのおかげで日常生活に支障がない程度にまで回復したけれど、後遺症で今も少し足を引きずっている。
同じ中学校からこの高校に進学した友達は少なくて、見知った名前はほとんどない。
掲示板の張り紙から、自分の名前を探す。
中嶋香織の名前は、一年二組のところに表示されていた。
「二組、か……」
私の呟きが、隣に立っていた女子生徒の耳に届いたらしく、その彼女が私に話しかける。
「え、あなた二組なの? 私も二組なんだ。私、阿部真莉愛。よろしくね!」
阿部真莉愛と名乗る少女は、身長が高くほっそりとした体形に、ショートヘア。ボーイッシュな見た目だけど、明らかに女の子だ。
スラックスこそ履いていないけれど、まるでタカラジェンヌのような容姿だから、女子生徒にモテそうだ。もし運動が得意なら、バレー部やバスケ部が喉から手が出るくらいほしがる逸材だろう。
「私は、中嶋香織。こちらこそよろしくね」
同じ中学校からこの学校に進学した子は少なく、加えてそれまで仲が良かった友達は、みんな違う高校だ。それだけに、友達ができるか少なからず不安だったのだ。
私の不安げな様子を察したのか、真莉愛は私に向かって笑顔を見せる。
「ああ、良かった。これで一人、友達ができた!」
真莉愛の声に、私も釣られて笑顔になった。
「本当だね。私も一人で不安だったの。良かったら、私のことは香織って呼んでね」
「うん! 私のことは真莉愛って呼んで。じゃあ、教室へ行こう」
私たちは掲示板の前から離れ、一年二組の教室へと向かおうとした。けれど、人だかりのせいで真莉愛とはぐれてしまいそうになる。幸い真莉愛は身長が高いので、見失うことはない。私は必死に真莉愛の後を追うけれど、もみくちゃになり、その場から動けないでいた。
その時だった。
突風が吹きつけて、目の前に桜吹雪が舞ったと思ったと思ったら……
「こっちにおいで」
一人の男子生徒が私の前に現れると、私の手を取り、人混みの中から救ってくれた。
身長は真莉愛よりも高く、その広い背中はとても頼りがいがある。
掲示板から少し離れたところまで誘導してもらい、初めてその男子生徒の顔を見た。
名札の色が私のものと違うから、上級生に間違いない。
明るい髪の色に、優しい顔立ちのイケメンさんだ。
一瞬私は彼の顔に見とれてしまったけれど、すぐに我に返り、お礼を伝えるために口を開いたその瞬間――
「香織! 大丈夫?」
校舎まで歩いていた真莉愛は、私の姿が見えないことを心配して戻ってきたようだ。
「あ、うん。大丈夫」
咄嗟に口から出た言葉は、上級生への感謝を伝えるものではなく、真莉愛に対する返答だった。
「友達が一緒なら大丈夫だな。じゃあまたね」
先輩は、そんな私に対して気を悪くするふうでもなく、そう言うと踵を返すと校舎へ向かって去って行った。
結局、助けてもらったお礼を伝えられないまま……