どんなカメラを持っているかを聞いたのは、メガネをかけた井上(いのうえ)先輩で、バイトでカメラを買いたいと口にしたのは、身体がゴツい仙波(せんば)先輩だ。

 私たちも、松田先輩からもらったお菓子の包装を破って、中身を口に放り込む。サクサクとした食感がたまらない。ちょうど小腹が空く時間帯なので、おやつを口にするだけで元気になれる。

「あ、お菓子のゴミは、ここに捨てて」

 松田先輩はそう言うと、お菓子を入れていた袋を机の上に置いた。みんなは松田先輩の言葉に従い、ゴミをそこへと入れる。

「よし、これで証拠隠滅完了」

 松田先輩がそう言ってニヤリとした瞬間、背後から声が聞こえた。

「何が証拠隠滅完了だって? 匂いでバレバレだろう」

 そこにいたのは、吉本部長を含む三年生の先輩たちだ。

「あ、先輩、遅いですよ。先にミーティングやってました」

 矢野先輩がそう言うと、吉本部長が呆れた顔をして口を開く。

「何がミーティングだよ。単なるサボりだろう?」

 部長の声に、松田先輩が残っているお菓子を手に部長と西村先輩に手渡した。

「まあまあ、先輩たちも授業でお疲れでしょう? こういう時はお菓子で癒されましょうよ」

「賄賂は受けとらんぞ」

 吉本部長の言葉を遮るように、西村先輩が手を伸ばして二人分のお菓子を受け取った。

「松田さん、ありがとう。授業でずっと頭を使っていたら小腹が空くよね。はい、浩樹(ひろき)

 西村先輩は松田先輩にお礼を言うと、受け取ったお菓子の一つを吉本部長に手渡した。吉本部長は、苦虫を潰したような渋い表情を浮かべながらも差し出されたお菓子を受け取った。

「部長、素直じゃないんだからもう……」

 佐々木先輩の呟きに、一同が大きく頷いている。

「浩樹、意地を張るところじゃないだろう?」

「そうですよ、部長。部長が実はお菓子大好きなのは、みんな知ってるんですからね」

 西村先輩や他の二年生の先輩の言葉に、吉本部長は顔を赤らめる。

「……もうっ、せっかく一年の前ではクールなキャラを演じようと思っていたのに、全部台無しじゃないか!」

 部長の言葉に、部室は笑いに包まれる。

「部長、それは今さらでしょう? っていうか、無理があるの、もう見抜かれてますよ」

「そうそう、どこがクールなんですか? こんなに人間味あふれているのに、設定に無理がありますって」

「部長はいつも通りでいてください。笑いすぎでお腹痛くなる」

 井上、仙波、矢野先輩たちがお腹を抱えながら、部長の言葉を全否定する。

「もうっ、何だよお前ら」

 部長はそう言いながら、西村先輩から受け取ったお菓子の包装を破り、口に入れた。

「……くそ、うまいじゃないか。松田さん、これ、どこで買ったやつ?」

 さっきまで突っぱねていたのに、ガラリと態度が変わった。

「これ、うちの近所のドラッグストアにありましたよ」

「ああ、あそこのドラッグストアだな、よし、帰りに寄ってみる」

 部長はポケットの中からスマホを取り出すと、包装してあるパッケージをカメラで撮影した。そこには商品名が記載されているので、これを見て商品を探すつもりだろう。