午後からの授業も終わり、あっという間に放課後を迎えた。
花音ちゃんたちは箏曲の練習のため、部室へと足繁く通っている。夏に行われる演奏会で、花音ちゃんや芽美ちゃんを含む新入生たちのお披露目もあり、その時に一曲演奏することとなったのだという。
「お披露目には簡単な曲しか演奏できないけど、そのうち二人が知ってる有名な曲も演奏できるように頑張るから、聞きに来てね!」
二人とも、思いの外楽しそうだ。
私たちは、演奏会の日が決まったら教えてねと二人を教室から送り出した後、机の中の荷物をまとめる。
今日も教材で鞄の中がびっしりと埋まっており、鞄の持ち手を手に取ると、ずっしりと重い。
「使わない教科書って、置いて帰っちゃいけないのかな。これ、かなり重いよね」
「本当それ! 重みで自転車のハンドル取られそうになるよ。強風の吹く日は自転車倒れないか心配になる」
この学校は、以前教室荒らしがあったとのことで、教室内に教科書を置いて帰ることが禁止されているのだ。中学校の頃は、重い教科書はテスト期間以外置いて帰っても良かったので、その違いに私は正直戸惑っている。
「それ、危ないよね。自転車が倒れて怪我したら大変なのにね」
「一番は、教科書もデジタル化してくれたらいいのにね。そうすれば、タブレットと電子辞書、ノートだけで済むのに」
「本当それ! タブレットの充電が切れたらアウトだけど、そっちのほうが合理的だよね?」
私たちは、お互いに言いたい放題文句を口にしながら部室へと向かった。
部室の鍵は空いている。すでに誰かが部室に来ているようだ。
「「こんにちはー」」
私たちは、部室のドアをノックして、声をかけながら扉を開けた。
部室には、二年生の先輩が勢揃いしている。
「先輩たち、早いですね」
真莉愛が先輩たちに声を掛けると、松田先輩が返事をする。コンテストに応募予定の、合格発表の日の写真を撮影した先輩だ。
「ああ、あなたたち! ちょうど良かった、今から一緒にお茶しない?」
松田先輩はそう言うと、鞄の中から個別包装してある小さなお菓子を取り出した。
先輩たちは、各自の水筒を机の上に置いている。断る理由も特にないので、私たちはその輪の中に混ぜてもらい、一緒にお菓子を食べることにした。
「もう、この学校に慣れた?」
三年生が引退後、次期部長に決まっている矢野先輩が私たちに声をかけた。昨日、落合先生へコンテストに出す写真のことで話をしていた男子生徒だ。
「はい。でもこの学校って置き勉できないから、鞄が重くて……」
私が口を開く前に、真莉愛がさっき話していたことをそのまま先輩たちの前で話をする。すると、先輩たちもうんうんと頷いている。
「だよなあ、教材重すぎるって」
「私なんて、鞄のせいで手にマメができたよ。ほら見て」
「え、マジで? これ、どうにかならないものかな」
先輩たちも同様に愚痴をこぼすので、ああ、私たちだけじゃなかったんだと仲間意識が湧いた。
人数が少ない部だけに、合わない人がいたらどうしようと思っていたけれど、少なくとも先輩たちはとてもいい人たちみたいで安心する。
「二人とも、カメラは初めて?」
佐々木先輩が、お菓子の包装を破りながら私たちに問いかけた。松田先輩と佐々木先輩は同性なので、何かあった時にいろいろと相談しやすそうだ。
「私は初めてです。真莉愛は……」
家に一眼レフがあると言っていたので、触ったことはあるのだろうけど、私には詳細がわからないので、語尾をぼかして真莉愛に話を振った。
「うちは親が一眼レフを持っているんです。でも私自身、触ったことはなくて」
真莉愛の言葉に、先輩たちがどよめいた。
「え、すげえ! 親御さん、どんなやつ持ってるんだろう? 絶対それ、触らせてもらって練習するといいよ」
「家にカメラがあるんだ、羨ましいな。俺も夏休みにバイトして、自分のカメラを買おうと思ってるんだ」
目の前に座る男子の先輩たちが口々に熱くカメラへの情熱を語った。この時、ようやく先輩たちも自己紹介してくれたので、二年の先輩たちの顔と名前を覚えることができた。
花音ちゃんたちは箏曲の練習のため、部室へと足繁く通っている。夏に行われる演奏会で、花音ちゃんや芽美ちゃんを含む新入生たちのお披露目もあり、その時に一曲演奏することとなったのだという。
「お披露目には簡単な曲しか演奏できないけど、そのうち二人が知ってる有名な曲も演奏できるように頑張るから、聞きに来てね!」
二人とも、思いの外楽しそうだ。
私たちは、演奏会の日が決まったら教えてねと二人を教室から送り出した後、机の中の荷物をまとめる。
今日も教材で鞄の中がびっしりと埋まっており、鞄の持ち手を手に取ると、ずっしりと重い。
「使わない教科書って、置いて帰っちゃいけないのかな。これ、かなり重いよね」
「本当それ! 重みで自転車のハンドル取られそうになるよ。強風の吹く日は自転車倒れないか心配になる」
この学校は、以前教室荒らしがあったとのことで、教室内に教科書を置いて帰ることが禁止されているのだ。中学校の頃は、重い教科書はテスト期間以外置いて帰っても良かったので、その違いに私は正直戸惑っている。
「それ、危ないよね。自転車が倒れて怪我したら大変なのにね」
「一番は、教科書もデジタル化してくれたらいいのにね。そうすれば、タブレットと電子辞書、ノートだけで済むのに」
「本当それ! タブレットの充電が切れたらアウトだけど、そっちのほうが合理的だよね?」
私たちは、お互いに言いたい放題文句を口にしながら部室へと向かった。
部室の鍵は空いている。すでに誰かが部室に来ているようだ。
「「こんにちはー」」
私たちは、部室のドアをノックして、声をかけながら扉を開けた。
部室には、二年生の先輩が勢揃いしている。
「先輩たち、早いですね」
真莉愛が先輩たちに声を掛けると、松田先輩が返事をする。コンテストに応募予定の、合格発表の日の写真を撮影した先輩だ。
「ああ、あなたたち! ちょうど良かった、今から一緒にお茶しない?」
松田先輩はそう言うと、鞄の中から個別包装してある小さなお菓子を取り出した。
先輩たちは、各自の水筒を机の上に置いている。断る理由も特にないので、私たちはその輪の中に混ぜてもらい、一緒にお菓子を食べることにした。
「もう、この学校に慣れた?」
三年生が引退後、次期部長に決まっている矢野先輩が私たちに声をかけた。昨日、落合先生へコンテストに出す写真のことで話をしていた男子生徒だ。
「はい。でもこの学校って置き勉できないから、鞄が重くて……」
私が口を開く前に、真莉愛がさっき話していたことをそのまま先輩たちの前で話をする。すると、先輩たちもうんうんと頷いている。
「だよなあ、教材重すぎるって」
「私なんて、鞄のせいで手にマメができたよ。ほら見て」
「え、マジで? これ、どうにかならないものかな」
先輩たちも同様に愚痴をこぼすので、ああ、私たちだけじゃなかったんだと仲間意識が湧いた。
人数が少ない部だけに、合わない人がいたらどうしようと思っていたけれど、少なくとも先輩たちはとてもいい人たちみたいで安心する。
「二人とも、カメラは初めて?」
佐々木先輩が、お菓子の包装を破りながら私たちに問いかけた。松田先輩と佐々木先輩は同性なので、何かあった時にいろいろと相談しやすそうだ。
「私は初めてです。真莉愛は……」
家に一眼レフがあると言っていたので、触ったことはあるのだろうけど、私には詳細がわからないので、語尾をぼかして真莉愛に話を振った。
「うちは親が一眼レフを持っているんです。でも私自身、触ったことはなくて」
真莉愛の言葉に、先輩たちがどよめいた。
「え、すげえ! 親御さん、どんなやつ持ってるんだろう? 絶対それ、触らせてもらって練習するといいよ」
「家にカメラがあるんだ、羨ましいな。俺も夏休みにバイトして、自分のカメラを買おうと思ってるんだ」
目の前に座る男子の先輩たちが口々に熱くカメラへの情熱を語った。この時、ようやく先輩たちも自己紹介してくれたので、二年の先輩たちの顔と名前を覚えることができた。