この日は、結局カメラの使い方を教わることはなく、ずっと花壇前に設置されているベンチに二人並んで座り、話をしていた。
下校時刻を知らせるチャイムが鳴り、私たちは揃って部室へ向かうと、机の上にメモと部室の鍵が置かれていた。メモの主は、吉本部長と真莉愛だ。
『爽真へ。公共の場でいちゃつくのはやめましょう。それから部室の施錠、よろしく!』
吉本部長からのメモに、私と先輩はお互い顔を赤らめた。
「いちゃつくって……、ただずっと話をしていただけだよな」
先輩の言葉に、私は小刻みに頷くと、続いて真莉愛からのメモに目を通す。
『香織へ、今日は塾の日なので、悪いけど先に帰るね。今日は先輩に送ってもらうこと。絶対に一人で帰っちゃダメだよ!』
真莉愛のメモを見て、先輩が気を遣って声をかけてくれた。
「じゃあ、ここの鍵をかけて職員室に返してくるから、一緒に帰ろう」
先輩はそう言ってカメラをロッカーの中に片付けると、ロッカーの鍵をかけ、私たちも荷物を持って部室を出ると、入口の鍵をかけた。
一緒に職員室まで行き、先輩が部室の鍵を所定の場所へと戻す。私はそれを見て、返却のやりかたを覚えた。
職員室を出ると昇降口で靴を履き替えると、自転車置き場に立ち寄らず、そのまま校門まで並んで歩いた。
もしかして、同じ校区の中学校出身だろうか。それとも……
「先輩のおうちはどこですか?」
私が質問すると、先輩が答える。
「うちは駅の近く。徒歩通学だよ。香織ちゃんも徒歩通学?」
「はい。うちは小学校の近くです。ここからなら徒歩で十五分くらいです。駅の近くなら、まあまあ近所ですね」
偶然にも同じ小学校、中学校の先輩だ。
登校の地区が違うのと、上級生との交流がないので、同じ学校に通っていたのに先輩の存在に全然気付かなかった。
「え、じゃあ、小学校からの後輩か……。全然知らなかったな。うち、兄貴はいるけど弟や妹はいないから、下級生は全然知らなくて」
「私もです。私は一人っ子なので、上級生や下級生にも知り合いがいなくって。だから先輩が同じ校区だっただなんて、びっくりです」
お互い共通の話題があり、話しながら歩いていると、あっという間に私の自宅前だ。
「今日はありがとうございました」
「彼女を家に送るくらい、当たり前のことだろう」
私は門扉の前で先輩にお礼を伝えると、先輩は何てことはないと、さらりと答えた。
『彼女』の言葉に、私が再び顔を赤らめると、先輩も今さらながら照れたのか、落ち着かないのか視線が泳いでいる。
きっと私の自宅周辺は住宅街なので、ご近所さんの視線が気になるのだろう。
さっきから、道ゆくご近所さんが通り過ぎるたびに、チラチラと私たちのことを見ていたのだ。きっと数日内に、私が家の前まで先輩に送ってもらったことはが両親――特に母の耳にはすぐに入るはずだ。
「じゃあ、先輩も気を付けて帰ってくださいね」
私が声を掛けると、先輩は頷くけれど、その場から動こうとしない。
「あの……、先輩?」
「ん? 僕は香織ちゃんが家の中に入ってから帰るから、最後まで見送らせて?」
予想の斜め上をいく言葉に、私が絶句するも、我に返ると口を開く。
「いやいや、もうここまで送っていただいたんですから、大丈夫です。ここからは、私が先輩の姿を見送らせてください」
「僕のことは気にしなくていいよ。だから早く家の中に入って」
「いやいや、そんなわけにはいかないです」
しばらく押し問答が続いたけれど、先輩が折れてくれ、私は先輩の後ろ姿が角を曲がって見えなくなるまで見送った。
下校時刻を知らせるチャイムが鳴り、私たちは揃って部室へ向かうと、机の上にメモと部室の鍵が置かれていた。メモの主は、吉本部長と真莉愛だ。
『爽真へ。公共の場でいちゃつくのはやめましょう。それから部室の施錠、よろしく!』
吉本部長からのメモに、私と先輩はお互い顔を赤らめた。
「いちゃつくって……、ただずっと話をしていただけだよな」
先輩の言葉に、私は小刻みに頷くと、続いて真莉愛からのメモに目を通す。
『香織へ、今日は塾の日なので、悪いけど先に帰るね。今日は先輩に送ってもらうこと。絶対に一人で帰っちゃダメだよ!』
真莉愛のメモを見て、先輩が気を遣って声をかけてくれた。
「じゃあ、ここの鍵をかけて職員室に返してくるから、一緒に帰ろう」
先輩はそう言ってカメラをロッカーの中に片付けると、ロッカーの鍵をかけ、私たちも荷物を持って部室を出ると、入口の鍵をかけた。
一緒に職員室まで行き、先輩が部室の鍵を所定の場所へと戻す。私はそれを見て、返却のやりかたを覚えた。
職員室を出ると昇降口で靴を履き替えると、自転車置き場に立ち寄らず、そのまま校門まで並んで歩いた。
もしかして、同じ校区の中学校出身だろうか。それとも……
「先輩のおうちはどこですか?」
私が質問すると、先輩が答える。
「うちは駅の近く。徒歩通学だよ。香織ちゃんも徒歩通学?」
「はい。うちは小学校の近くです。ここからなら徒歩で十五分くらいです。駅の近くなら、まあまあ近所ですね」
偶然にも同じ小学校、中学校の先輩だ。
登校の地区が違うのと、上級生との交流がないので、同じ学校に通っていたのに先輩の存在に全然気付かなかった。
「え、じゃあ、小学校からの後輩か……。全然知らなかったな。うち、兄貴はいるけど弟や妹はいないから、下級生は全然知らなくて」
「私もです。私は一人っ子なので、上級生や下級生にも知り合いがいなくって。だから先輩が同じ校区だっただなんて、びっくりです」
お互い共通の話題があり、話しながら歩いていると、あっという間に私の自宅前だ。
「今日はありがとうございました」
「彼女を家に送るくらい、当たり前のことだろう」
私は門扉の前で先輩にお礼を伝えると、先輩は何てことはないと、さらりと答えた。
『彼女』の言葉に、私が再び顔を赤らめると、先輩も今さらながら照れたのか、落ち着かないのか視線が泳いでいる。
きっと私の自宅周辺は住宅街なので、ご近所さんの視線が気になるのだろう。
さっきから、道ゆくご近所さんが通り過ぎるたびに、チラチラと私たちのことを見ていたのだ。きっと数日内に、私が家の前まで先輩に送ってもらったことはが両親――特に母の耳にはすぐに入るはずだ。
「じゃあ、先輩も気を付けて帰ってくださいね」
私が声を掛けると、先輩は頷くけれど、その場から動こうとしない。
「あの……、先輩?」
「ん? 僕は香織ちゃんが家の中に入ってから帰るから、最後まで見送らせて?」
予想の斜め上をいく言葉に、私が絶句するも、我に返ると口を開く。
「いやいや、もうここまで送っていただいたんですから、大丈夫です。ここからは、私が先輩の姿を見送らせてください」
「僕のことは気にしなくていいよ。だから早く家の中に入って」
「いやいや、そんなわけにはいかないです」
しばらく押し問答が続いたけれど、先輩が折れてくれ、私は先輩の後ろ姿が角を曲がって見えなくなるまで見送った。