部室を出た私たちは、中庭の花壇へと向かった。
「スマホで写真を撮る時って、設定を触ったりしてる?」
先輩からの唐突の質問に、私は首を横に振る。SNSなどで、よく映える写真の撮り方の動画が流れてくるけれど、私が撮影する写真に映えの要素が全くないため、そのような機能を触ったことがない。
それを素直に伝えると、先輩は笑いながら口を開く。
「え、そうなんだ。それはスマホの写真フォルダの中を見せてもらいたいものだ」
「勘弁してください。本当に大した写真は撮ってないし、友達と加工アプリで顔をいじってるから、先輩に見られたくないです」
「それこそ見てみたいな。ってか、加工アプリなんて使わなくても、香織ちゃんは充分可愛いよ」
先輩が歯の浮くようなセリフを口にするものだから、私は恥ずかしくてずっと顔が熱い。
私が恥ずかしがって俯いたままなのを見て、先輩は申し訳なさそうに言葉を選んで口にする。
「えっと……、香織ちゃんを困らせるつもりはないんだけどね。僕は素直に自分の気持ちを口にしただけだから」
先輩の言葉に、私への好意を感じられる気がする。もしこれが、他の人へも同じように接しているとしたら、私、すごい勘違い女になってしまう。
そう思って先輩に対してちょっと斜に構えていると、先輩はそれに気付いたのか言葉を続けた。
「もしかして、これを女の子みんなに言ってると思ってる?」
先輩はちょっと焦ったように早口だ。
私は素直に頷くと、参ったなと頭を掻きながら言葉を発した。
「僕、そんなチャラそうに見える? 女の子と話をすることってほとんどないんだけど、なんか難しいな」
本当に困ったかのように眉をひそめるその表情が、年齢の割に幼く見えて、私はますます先輩から目が離せない。
入学式の日に、人混みの中から助けてくれた先輩に運命的な何かを感じていたけれど、今ここで確信した。
こんな短期間で、私、先輩のことが好きになっていたんだ。
そう思ったら、先輩のことを意識してしまって直視できなくなってしまった。
「信じてもらえないかもしれないけど、僕、香織ちゃんとペアになりたかったから、自分か名前を書いた場所を耳打ちした。そして、香織ちゃんもそれに応えてその場所に名前を書いた。……間違っていないよね?」
先輩の声が、緊張しているように聞こえた。私は羞恥心を振り切って、先輩の顔を見つめると、とても真剣な表情だった。
まだ知り合って日が浅いけれど、私が知っている先輩は、いつも穏やかで優しい、物腰の柔らかい人だった。それが、今目の前にいる先輩は、余裕がないように見える。
先輩は、私のことを見つめている。その眼差しは真剣だ。
しばらく見つめあった後、先輩が意を結したように口を開く。
「僕の言葉の意味、わかってくれたかな?」
これは、遠回しに告白されたと思って間違いないだろうか。きちんと好きだと言われないと、この先疑問を抱いたままだ。
「先輩は、私のことが好き……、で、間違いないですか?」
なんとも色気のない言葉だと思ったけれど、今の私は頭の中がパニックを起こしている。
生まれてこの方彼氏なんていたこともない。先輩が人生初の彼氏になるかもしれないのだ。
私の問いに、先輩は頬がほんのりと赤らんだ。そして、私が欲しい答えをはっきりと言葉にしてくれた。
「うん。知り合ってまだ日が浅いけど、僕は、香織ちゃんのことが好きだ」
先輩が答えたタイミングで、音楽室から偶然ピアノの旋律が聞こえた。JーPOPのヒットチャートにランクインしている曲で、この季節にぴったりのメロディだ。
「香織ちゃんも、僕と同じ気持ちだと思って間違いない?」
先輩の問いに、私は緊張のあまり、小刻みに何度も頷いた。そんな挙動不審な私の様子に、先輩は笑うどころか安堵の息を吐く。
「ああ、よかった。これで振られたら、一学期だけの関わりとはいえ、気まずくなるからどうしようかと思ったよ」
先輩の表情が、先ほどの緊張が解けたのか、私の知っている穏やかなものに戻っている。
「そ、そんな! 振るだなんて恐れ多いですってば」
私は焦って先輩の言葉をフォローした。人生初のモテ期、それもいいなと思っていた人からの告白だ。もしかして、明日死んでしまうのではないかと思うくらい、内心では舞い上がっている。
「じゃあ、今から香織ちゃんは僕の彼女ということで、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
先輩の言葉に、私は頭を深々と下げてお辞儀すると、先輩は笑いながら右手を差し出した。
「とりあえず、握手」
そう言って、私の右手を取ると、握手した。
こうして、私たちのお付き合いは始まったのだった。
「スマホで写真を撮る時って、設定を触ったりしてる?」
先輩からの唐突の質問に、私は首を横に振る。SNSなどで、よく映える写真の撮り方の動画が流れてくるけれど、私が撮影する写真に映えの要素が全くないため、そのような機能を触ったことがない。
それを素直に伝えると、先輩は笑いながら口を開く。
「え、そうなんだ。それはスマホの写真フォルダの中を見せてもらいたいものだ」
「勘弁してください。本当に大した写真は撮ってないし、友達と加工アプリで顔をいじってるから、先輩に見られたくないです」
「それこそ見てみたいな。ってか、加工アプリなんて使わなくても、香織ちゃんは充分可愛いよ」
先輩が歯の浮くようなセリフを口にするものだから、私は恥ずかしくてずっと顔が熱い。
私が恥ずかしがって俯いたままなのを見て、先輩は申し訳なさそうに言葉を選んで口にする。
「えっと……、香織ちゃんを困らせるつもりはないんだけどね。僕は素直に自分の気持ちを口にしただけだから」
先輩の言葉に、私への好意を感じられる気がする。もしこれが、他の人へも同じように接しているとしたら、私、すごい勘違い女になってしまう。
そう思って先輩に対してちょっと斜に構えていると、先輩はそれに気付いたのか言葉を続けた。
「もしかして、これを女の子みんなに言ってると思ってる?」
先輩はちょっと焦ったように早口だ。
私は素直に頷くと、参ったなと頭を掻きながら言葉を発した。
「僕、そんなチャラそうに見える? 女の子と話をすることってほとんどないんだけど、なんか難しいな」
本当に困ったかのように眉をひそめるその表情が、年齢の割に幼く見えて、私はますます先輩から目が離せない。
入学式の日に、人混みの中から助けてくれた先輩に運命的な何かを感じていたけれど、今ここで確信した。
こんな短期間で、私、先輩のことが好きになっていたんだ。
そう思ったら、先輩のことを意識してしまって直視できなくなってしまった。
「信じてもらえないかもしれないけど、僕、香織ちゃんとペアになりたかったから、自分か名前を書いた場所を耳打ちした。そして、香織ちゃんもそれに応えてその場所に名前を書いた。……間違っていないよね?」
先輩の声が、緊張しているように聞こえた。私は羞恥心を振り切って、先輩の顔を見つめると、とても真剣な表情だった。
まだ知り合って日が浅いけれど、私が知っている先輩は、いつも穏やかで優しい、物腰の柔らかい人だった。それが、今目の前にいる先輩は、余裕がないように見える。
先輩は、私のことを見つめている。その眼差しは真剣だ。
しばらく見つめあった後、先輩が意を結したように口を開く。
「僕の言葉の意味、わかってくれたかな?」
これは、遠回しに告白されたと思って間違いないだろうか。きちんと好きだと言われないと、この先疑問を抱いたままだ。
「先輩は、私のことが好き……、で、間違いないですか?」
なんとも色気のない言葉だと思ったけれど、今の私は頭の中がパニックを起こしている。
生まれてこの方彼氏なんていたこともない。先輩が人生初の彼氏になるかもしれないのだ。
私の問いに、先輩は頬がほんのりと赤らんだ。そして、私が欲しい答えをはっきりと言葉にしてくれた。
「うん。知り合ってまだ日が浅いけど、僕は、香織ちゃんのことが好きだ」
先輩が答えたタイミングで、音楽室から偶然ピアノの旋律が聞こえた。JーPOPのヒットチャートにランクインしている曲で、この季節にぴったりのメロディだ。
「香織ちゃんも、僕と同じ気持ちだと思って間違いない?」
先輩の問いに、私は緊張のあまり、小刻みに何度も頷いた。そんな挙動不審な私の様子に、先輩は笑うどころか安堵の息を吐く。
「ああ、よかった。これで振られたら、一学期だけの関わりとはいえ、気まずくなるからどうしようかと思ったよ」
先輩の表情が、先ほどの緊張が解けたのか、私の知っている穏やかなものに戻っている。
「そ、そんな! 振るだなんて恐れ多いですってば」
私は焦って先輩の言葉をフォローした。人生初のモテ期、それもいいなと思っていた人からの告白だ。もしかして、明日死んでしまうのではないかと思うくらい、内心では舞い上がっている。
「じゃあ、今から香織ちゃんは僕の彼女ということで、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
先輩の言葉に、私は頭を深々と下げてお辞儀すると、先輩は笑いながら右手を差し出した。
「とりあえず、握手」
そう言って、私の右手を取ると、握手した。
こうして、私たちのお付き合いは始まったのだった。