「矢野、お前はどの作品がいいと思う?」
矢野と呼ばれたのは、先生に声を掛けた先輩だ。二年生のまとめ役のようで、ほかの先輩たちも固唾を飲んで矢野先輩と落合先生のやり取りを見守っている。
「僕はこの花畑がいいと思うけど、こっちの雪景色も捨て難くて」
矢野先輩の言葉に、ほかの先輩たちも一様に頷いている。
今回先輩たちが出展するコンテストは、地方自治体が主催のもので、写真のテーマがいくつか決められている。
このコンテストに優勝すると、今年一年その写真が広告PRとして採用されるとともに、副賞として産地の特産品が贈られるのだという。そして、回を重ねるにつれ規模も大きくなり、全国からも応募があるため、かなりの激戦が予想されると隣に立つ西村先輩が教えてくれた。
「もう一つのテーマの応募作品は決まったのか?」
落合先生の声に、二年生たちは力強く頷いた。
コンテストは、風景と人物の二つの部門が設けられているとのことで、それは先輩たちの自信作らしい。
矢野先輩がパソコンのキーボードに触れ画面を切り替えると、そこに写し出されたのは、高校の合格発表の張り出された掲示板の前で、歓喜の表情を浮かべる私たち――今年の新一年生の姿だった。
「え……、うそ……」
私の驚く声に、部室の中にいた全員の視線が私に集中した。そして、画面と私を見比べる二年生の女子生徒が気付いたようだ。
「あ……! あなた、この写真の!」
そう、その写真の中央に写り込んでいたのは、何を隠そう私だったのだ。
そういえば合格発表のあった時、掲示板のそばに立っていた在校生がカメラを持っていて、全体に向かい、「合格おめでとうございます。記念に写真を撮らせてください」と声を掛けていた気がする。
高校の合格発表は、高校のホームページには開示されず掲示板に受験番号が貼り出される。だから、必ず合否の確認をするために学校へ足を運ばなければならなかった。
写真を撮られていたことは気付いていたけれど、まさかそれがコンテストに出展されるとは思ってもみなかった。
「わあ、改めて入学おめでとう! ねえ、早速なんだけど、この写真をコンテストに出してもいい? ここに写ってる今年の新入生、全員に許可をもらってから出そうと思ってるの」
今年の合格者は、受験者の定員が割れていたせいか、一般入試枠での受験者は全員合格している。そのため部外者の写り込みはないはずだ。
「え……っと、私は別に構いませんけど、みんなに許可を取るって、どうやって……?」
私の疑問に、佐々木と名乗るその先輩が回答する。
「この写真、一年生の担任にお願いして、ホームルームの時間にみんなから使用許可を取ってもらうようにしようと思って。先生、いいでしょ?」
佐々木先輩の言葉に、一同が頷いた。たしかにそれが一番手っ取り早い。
落合先生も、苦笑いを浮かべながら頷いた。
「おまえ、そういうところには頭が働くなあ……。まあ、学校でも個人情報の取り扱いについては入学説明会の時にアンケートを取っているし。そこで情報開示がダメだとチェックが入っている人以外なら、使用許可の確認はいらないから、少し待て。集計が終わってからまた報告する」
落合先生の言葉に、先輩たちは頷いた。
「でもいい写真だな。これ、撮ったのだれ?」
唐突に、部長が口を開く。
部長の声に、もう一人の女子生徒が挙手で答えた。
「私、です……。なんか恥ずかしいな」
佐々木先輩の隣に立つ、小柄な先輩だ。
「松田さんか、やるじゃないか」
部長の言葉に、松田さんと呼ばれた先輩が照れながらもありとうございますと言葉を返す。
「他の写真も見せてみろ。ギリギリまでいい写真が撮れるとは限らないし、過去の写真からも何枚か候補を挙げておこう」
落合先生がそう言うと、二年生たちは撮影したデータをパソコンに取り込み、先生と一緒に鑑賞会が始まった。
矢野と呼ばれたのは、先生に声を掛けた先輩だ。二年生のまとめ役のようで、ほかの先輩たちも固唾を飲んで矢野先輩と落合先生のやり取りを見守っている。
「僕はこの花畑がいいと思うけど、こっちの雪景色も捨て難くて」
矢野先輩の言葉に、ほかの先輩たちも一様に頷いている。
今回先輩たちが出展するコンテストは、地方自治体が主催のもので、写真のテーマがいくつか決められている。
このコンテストに優勝すると、今年一年その写真が広告PRとして採用されるとともに、副賞として産地の特産品が贈られるのだという。そして、回を重ねるにつれ規模も大きくなり、全国からも応募があるため、かなりの激戦が予想されると隣に立つ西村先輩が教えてくれた。
「もう一つのテーマの応募作品は決まったのか?」
落合先生の声に、二年生たちは力強く頷いた。
コンテストは、風景と人物の二つの部門が設けられているとのことで、それは先輩たちの自信作らしい。
矢野先輩がパソコンのキーボードに触れ画面を切り替えると、そこに写し出されたのは、高校の合格発表の張り出された掲示板の前で、歓喜の表情を浮かべる私たち――今年の新一年生の姿だった。
「え……、うそ……」
私の驚く声に、部室の中にいた全員の視線が私に集中した。そして、画面と私を見比べる二年生の女子生徒が気付いたようだ。
「あ……! あなた、この写真の!」
そう、その写真の中央に写り込んでいたのは、何を隠そう私だったのだ。
そういえば合格発表のあった時、掲示板のそばに立っていた在校生がカメラを持っていて、全体に向かい、「合格おめでとうございます。記念に写真を撮らせてください」と声を掛けていた気がする。
高校の合格発表は、高校のホームページには開示されず掲示板に受験番号が貼り出される。だから、必ず合否の確認をするために学校へ足を運ばなければならなかった。
写真を撮られていたことは気付いていたけれど、まさかそれがコンテストに出展されるとは思ってもみなかった。
「わあ、改めて入学おめでとう! ねえ、早速なんだけど、この写真をコンテストに出してもいい? ここに写ってる今年の新入生、全員に許可をもらってから出そうと思ってるの」
今年の合格者は、受験者の定員が割れていたせいか、一般入試枠での受験者は全員合格している。そのため部外者の写り込みはないはずだ。
「え……っと、私は別に構いませんけど、みんなに許可を取るって、どうやって……?」
私の疑問に、佐々木と名乗るその先輩が回答する。
「この写真、一年生の担任にお願いして、ホームルームの時間にみんなから使用許可を取ってもらうようにしようと思って。先生、いいでしょ?」
佐々木先輩の言葉に、一同が頷いた。たしかにそれが一番手っ取り早い。
落合先生も、苦笑いを浮かべながら頷いた。
「おまえ、そういうところには頭が働くなあ……。まあ、学校でも個人情報の取り扱いについては入学説明会の時にアンケートを取っているし。そこで情報開示がダメだとチェックが入っている人以外なら、使用許可の確認はいらないから、少し待て。集計が終わってからまた報告する」
落合先生の言葉に、先輩たちは頷いた。
「でもいい写真だな。これ、撮ったのだれ?」
唐突に、部長が口を開く。
部長の声に、もう一人の女子生徒が挙手で答えた。
「私、です……。なんか恥ずかしいな」
佐々木先輩の隣に立つ、小柄な先輩だ。
「松田さんか、やるじゃないか」
部長の言葉に、松田さんと呼ばれた先輩が照れながらもありとうございますと言葉を返す。
「他の写真も見せてみろ。ギリギリまでいい写真が撮れるとは限らないし、過去の写真からも何枚か候補を挙げておこう」
落合先生がそう言うと、二年生たちは撮影したデータをパソコンに取り込み、先生と一緒に鑑賞会が始まった。