グレーのジャケットにネクタイ姿の先輩は、とても素敵だ。
先輩が高校へ入学する年に、それまでの制服からモデルチェンジをしたそうで、それまでは高校も男子生徒は黒い詰襟の学生服だったのだという。だから今年の卒業生は最後の詰襟学生服で、四月にやっと全校生徒が同じスーツタイプの制服に統一されたそうだ。
「先輩と落合先生は、年齢差どのくらいなんですか?」
緊張で話題に困った私は、疑問に思っていたことを聞いてみることにした。 先輩のお母さんの弟さんなら、親世代だから四十代くらいかと思ったけれど、入学式の日のオリエンテーションや昨日部室で話をした時に、それより若く見えたため気になっていたのだ。
「泰兄は、母と干支ひと回り違うから、今年三十四だったかな。泰兄が高校生の時に僕が生まれたものだから、泰兄も『叔父さん』と呼ばれるのに抵抗があったらしい」
理由を聞いて納得がいった。
先輩が物心ついた頃でも、落合先生はまだ学生だ。友達に揶揄われたりもするだろう。
部室までの距離も短かったので、話がちょうど一区切りついたところで部室前に到着した。
部室に入ると、二年生の先輩たちがカメラのデータをパソコンに取り込み何やら話し込んでいる。話の内容から、どうやら写真コンテストに応募する作品を選んでいるようだ。
私はその様子を邪魔にならないよう後方から見ていると、西村先輩が横に来て解説してくれた。
「写真部って、活動があまり表に取り沙汰されていないから地味な部活って思われているけど、真剣にカメラの勉強をする人間は、ああやって地道にコンテストへ参加してるんだよ」
先輩の言葉に反応して、先に部室へ到着した部長が口を開く。
「そうそう。俺たち三年は、そこまで力を入れてなかったし、ゆるく写真を撮影して文化祭で展示したりする程度だったけど、二年生は結構真剣に部活動に取り組んでる」
その様子を眺める先輩たちは、二年生の活動を眩しそうに見つめている。
そこへ、顧問の落合先生がやってきた。
「あいつらは素人の俺から見ても、すごい才能があると思う。いつか絶対有名になるぞ。もし、写真について真剣に勉強したいなら、こいつらが引退してからいろいろ教えてもらうといい」
落合先生の言葉に、口を開いたのは西村先輩だ。
「よく言うよ……。俺は知ってるんだからな。泰兄が昔……」
「ストップ。それは昔の話だ」
先輩の言葉を落合先生が途中で遮った。先輩と落合先生が親戚だということを、特に落合先生が公にしていないと聞いていたので、先輩がうっかり泰兄と口にしたからそれを遮ったのだと思ったけれど、どうやらそうではないようだ。
話の続きが気になるけれど、落合先生はその内容を公にしたくないようなので、この場にいる私たちは大人の対応でスルーすることにした。
しばらく微妙な空気が流れたけれど、それを打ち破ったのは、パソコンの画面を食い入るように見つめていた二年生の男子生徒だ。
「あ、先生いたんだ。先生は、コンテストにどの写真を出したらいいと思う?」
先生に声を掛けた二年生の先輩は、そう言って落合先生をパソコン前に誘導する。落合先生は、その男子生徒が開いている画面をじっくりと見ながらプリントアウトされたコンテストの募集要項を手に取った。
手元のプリントに目を通しながら、その男子生徒を含む二年生全員に問いかける。
先輩が高校へ入学する年に、それまでの制服からモデルチェンジをしたそうで、それまでは高校も男子生徒は黒い詰襟の学生服だったのだという。だから今年の卒業生は最後の詰襟学生服で、四月にやっと全校生徒が同じスーツタイプの制服に統一されたそうだ。
「先輩と落合先生は、年齢差どのくらいなんですか?」
緊張で話題に困った私は、疑問に思っていたことを聞いてみることにした。 先輩のお母さんの弟さんなら、親世代だから四十代くらいかと思ったけれど、入学式の日のオリエンテーションや昨日部室で話をした時に、それより若く見えたため気になっていたのだ。
「泰兄は、母と干支ひと回り違うから、今年三十四だったかな。泰兄が高校生の時に僕が生まれたものだから、泰兄も『叔父さん』と呼ばれるのに抵抗があったらしい」
理由を聞いて納得がいった。
先輩が物心ついた頃でも、落合先生はまだ学生だ。友達に揶揄われたりもするだろう。
部室までの距離も短かったので、話がちょうど一区切りついたところで部室前に到着した。
部室に入ると、二年生の先輩たちがカメラのデータをパソコンに取り込み何やら話し込んでいる。話の内容から、どうやら写真コンテストに応募する作品を選んでいるようだ。
私はその様子を邪魔にならないよう後方から見ていると、西村先輩が横に来て解説してくれた。
「写真部って、活動があまり表に取り沙汰されていないから地味な部活って思われているけど、真剣にカメラの勉強をする人間は、ああやって地道にコンテストへ参加してるんだよ」
先輩の言葉に反応して、先に部室へ到着した部長が口を開く。
「そうそう。俺たち三年は、そこまで力を入れてなかったし、ゆるく写真を撮影して文化祭で展示したりする程度だったけど、二年生は結構真剣に部活動に取り組んでる」
その様子を眺める先輩たちは、二年生の活動を眩しそうに見つめている。
そこへ、顧問の落合先生がやってきた。
「あいつらは素人の俺から見ても、すごい才能があると思う。いつか絶対有名になるぞ。もし、写真について真剣に勉強したいなら、こいつらが引退してからいろいろ教えてもらうといい」
落合先生の言葉に、口を開いたのは西村先輩だ。
「よく言うよ……。俺は知ってるんだからな。泰兄が昔……」
「ストップ。それは昔の話だ」
先輩の言葉を落合先生が途中で遮った。先輩と落合先生が親戚だということを、特に落合先生が公にしていないと聞いていたので、先輩がうっかり泰兄と口にしたからそれを遮ったのだと思ったけれど、どうやらそうではないようだ。
話の続きが気になるけれど、落合先生はその内容を公にしたくないようなので、この場にいる私たちは大人の対応でスルーすることにした。
しばらく微妙な空気が流れたけれど、それを打ち破ったのは、パソコンの画面を食い入るように見つめていた二年生の男子生徒だ。
「あ、先生いたんだ。先生は、コンテストにどの写真を出したらいいと思う?」
先生に声を掛けた二年生の先輩は、そう言って落合先生をパソコン前に誘導する。落合先生は、その男子生徒が開いている画面をじっくりと見ながらプリントアウトされたコンテストの募集要項を手に取った。
手元のプリントに目を通しながら、その男子生徒を含む二年生全員に問いかける。