「カイロス国王陛下、色々な誤解があるかとます。精査してから処罰してください」
 私は初めて、全く尊敬できない人間に頭を下げた。
 隣にいるミカエルは真っ青になり震えている。
(ミカエルも嵌められたんだわ⋯⋯)

縋るような思いでいると、カイロス国王がゆっくりと身を起こし立ち上がった。
「はてさて、このおふざけはすぎるように思うが、ここは愛する娘の意を汲むとするか」
 カイロス国王はステラン公爵をジロリと睨むと、私を抱き寄せて余裕に微笑んだ。 
 周囲がざわついている。
 生きた国王を燃やそうとするという反逆行為。

 私はミカエルの反応から、彼は本当にカイロス国王が死んでいると思っていたように見えた。
 おかしいのは企みがうまくいかなかったからと直ぐにこの場をおさめて退場しようとしているステラン公爵だ。

 「国王陛下、少し足元がふらついているように思います。今日のところはお休みになってはどうでしょう。状況の確認は私の方でさせて頂きます」

 「そうだな。ルシアが王族としての責任を持ち始めた事を嬉しく思うぞ」
 カイロス国王と私のやり取りを見ながら周囲が騒めいている。
 私が彼の娘である事など、本当は薄々気づいている人がいたような反応だ。

 カイロス国王が従者を連れて立ち去って行く。
 一歩間違えば死んでいたかもしれないのに、随分と冷静な態度だ。
 確かにここで、喚き散らしては国王としての威厳は失墜するだろう。

 私は急に卒倒しそうに倒れ込む、ミカエルを支えた。
「ミカエル、部屋で何があったか聞くから私にもたれかかって」
「なんで急に僕に優しくしてくるの? 本当に最近のルシアは理解できないよ」
 少し微笑んでいる彼を見て安心した。