建国祭に私はルブリス王子と参加することになった。
国王陛下と王妃様のダンスが終わると、ルブリス王子殿下が私をダンスに誘ってきた。
「イザベラ・ライト公爵令嬢、あなたと踊る幸運を私に頂けませんか?」
彼の声色はいつもの冷たい声と違って優しかった。
しかし、口角は上がっているが全く目が笑っていない顔が怖くて私は震えてしまった。
「兄上、イザベラ様はまだ社交界デビューを済ませていませんよ」
エドワード王子が、私の不安を嗅ぎ取ってくれたのかルブリス王子に耳打ちするのがきこえた。
小説ではアカデミーのシーンしかなかったから、この世界のルールがいまいち分からない。
私は婚約者として今日ルブリス王子と踊るかもしれないと言われ、ダンスレッスンを頑張ってきた。
でも、社交界デビュー前なら踊らなくてよかったのだろうか。
「婚約前に社交界デビューくらい済ませておいて欲しいものだな。そなたは本当に気が利かない。まあ、人形のようにそこに座ってれば良い。それが、そなたの役割だ」
私は今日までダンスのレッスンをしてきたが、ルブリス王子殿下と踊る自信はなかった。
足でも踏んだりしてたら、またあの冷たい目で見られそうで怖いのだ。
私は国王陛下と王妃様の横に用意されたルブリス王子殿下の隣の柔らかい椅子に腰をかけた。
「イザベラ・ライト公爵令嬢、ダンスパートナーがいない哀れな隣国の王太子の相手をしては頂けませんでしょうか」
突然、私の前にサイラス王太子殿下が現れて跪いてダンスに誘ってきた。
彼の優しい眼差しと、暖かい声に私の心が満たされていくのを感じる。
横を見ると国王陛下も、王妃様も、ルブリス王子も表情管理を忘れて驚いた顔をしている。
しかし、他国の王太子を10歳の貴族令嬢ごときが跪かせている状況が良いはずはない。
私は国王陛下がアイコンタクトで私にダンスに誘いに応じるよう指示してきたのを確認し、サイラス王太子殿下の手に自分の手をのせた。
「サイラス王太子殿下と踊りたそうな令嬢が、たくさん私を見ているのですが」
私はサイラス王太子殿下のリードを頼りながら踊る。
彼はダンスの先生よりも踊りが上手で、体を少し預けるだけで形になってしまう。
しかし、身長差があって少し踊りづらくて足を踏んでしまった。
「私にはイザベラ様しか見えません」
彼が私を少し持ち上げて、私は自分が宙に浮いたことに驚く。
「あの、足踏んだの痛かったですよね。申し訳ございませんでした。私は重くないですか?」
「空気のように、軽いです」
微笑みながら言ってくる、彼の声はそよ風のように優しく私の耳元に届く。
「ダンスパートナーが私で良かったのでしょうか。私が婚約者であるルブリス王子殿下と踊らなかったのに、サイラス王太子殿下と踊って問題になったりしませんか?」
踊っている最中、チラリと見えたルブリス王子が冷たい目で私を睨んでいて怖くなった。
「イザベラ様、一つ決めたことがあるのです。私は初めて愛おしいと思える女性と出会いました。10歳のはずなのに、そう見えない瞬間があり不思議と惹かれてしまう魅力を持った女性です。どうしても、彼女と踊りたくて我儘な行動を初めてとりました。イザベラ様には迷惑がかからないようにするので、安心してください。イザベラ様の見立てとは違い私は20歳ではなく、自分の欲求を抑えられない15歳の未熟な男だと反省しました。でも、今、イザベラ様と踊れて幸せです」
サイラス王太子殿下の青い澄んだ瞳に、ときめきを抑えきれない私が映っていた。
彼は私を愛おしいと言っているのだろうか、そんなこと言われたことがなくて戸惑ってしまう。
私を揶揄っていたり、利用しようとしている人には見えないけれど、自分が彼のような光の住人に想われる魅力があるようには思えない。
夢のような不思議な時間は曲の終わりと共に終わった。
「とても、良い時間でした」
私は顔が熱くて真っ赤になっているのが分かった。
なんとか、彼に優雅に挨拶すると舞踏会会場を抜けて中庭に出た。
こんな赤い顔で、ルブリス王子の横の席に座りには行けない。
また、ルブリス王子から棘のある言葉を受けるのも怖い。
「赤信号!」
私は思わず聞こえた女の声に振り向いた。
そこには、ピンク色のウェーブ髪にピンク色の瞳をしたヒロインであるフローラ・レフト男爵令嬢が立っていた。
この世界に信号は存在しない。
「白川愛⋯⋯」
私は憧れのフローラを前にして、私を虐め抜いた首謀者の名前を呟いていた。
「やだ、マジで綾なの? キモ女、今度は悪役令嬢になったんだ。これ、あんたがよく読んでた小説の世界でしょ。どこ行っても邪魔者なのね。あんたよっぽど赤信号が気に入ってたのね、その赤髪、あの時の信号の色みたい」
私が学校に行けなくなった最大の事件は、赤信号を無理やり何度も往復させられたことだった。
死ぬまで往復しろと愛を中心としたクラスの人間に煽られて、結局バイクに轢かれて入院するほどの怪我をしたのだ。
国王陛下と王妃様のダンスが終わると、ルブリス王子殿下が私をダンスに誘ってきた。
「イザベラ・ライト公爵令嬢、あなたと踊る幸運を私に頂けませんか?」
彼の声色はいつもの冷たい声と違って優しかった。
しかし、口角は上がっているが全く目が笑っていない顔が怖くて私は震えてしまった。
「兄上、イザベラ様はまだ社交界デビューを済ませていませんよ」
エドワード王子が、私の不安を嗅ぎ取ってくれたのかルブリス王子に耳打ちするのがきこえた。
小説ではアカデミーのシーンしかなかったから、この世界のルールがいまいち分からない。
私は婚約者として今日ルブリス王子と踊るかもしれないと言われ、ダンスレッスンを頑張ってきた。
でも、社交界デビュー前なら踊らなくてよかったのだろうか。
「婚約前に社交界デビューくらい済ませておいて欲しいものだな。そなたは本当に気が利かない。まあ、人形のようにそこに座ってれば良い。それが、そなたの役割だ」
私は今日までダンスのレッスンをしてきたが、ルブリス王子殿下と踊る自信はなかった。
足でも踏んだりしてたら、またあの冷たい目で見られそうで怖いのだ。
私は国王陛下と王妃様の横に用意されたルブリス王子殿下の隣の柔らかい椅子に腰をかけた。
「イザベラ・ライト公爵令嬢、ダンスパートナーがいない哀れな隣国の王太子の相手をしては頂けませんでしょうか」
突然、私の前にサイラス王太子殿下が現れて跪いてダンスに誘ってきた。
彼の優しい眼差しと、暖かい声に私の心が満たされていくのを感じる。
横を見ると国王陛下も、王妃様も、ルブリス王子も表情管理を忘れて驚いた顔をしている。
しかし、他国の王太子を10歳の貴族令嬢ごときが跪かせている状況が良いはずはない。
私は国王陛下がアイコンタクトで私にダンスに誘いに応じるよう指示してきたのを確認し、サイラス王太子殿下の手に自分の手をのせた。
「サイラス王太子殿下と踊りたそうな令嬢が、たくさん私を見ているのですが」
私はサイラス王太子殿下のリードを頼りながら踊る。
彼はダンスの先生よりも踊りが上手で、体を少し預けるだけで形になってしまう。
しかし、身長差があって少し踊りづらくて足を踏んでしまった。
「私にはイザベラ様しか見えません」
彼が私を少し持ち上げて、私は自分が宙に浮いたことに驚く。
「あの、足踏んだの痛かったですよね。申し訳ございませんでした。私は重くないですか?」
「空気のように、軽いです」
微笑みながら言ってくる、彼の声はそよ風のように優しく私の耳元に届く。
「ダンスパートナーが私で良かったのでしょうか。私が婚約者であるルブリス王子殿下と踊らなかったのに、サイラス王太子殿下と踊って問題になったりしませんか?」
踊っている最中、チラリと見えたルブリス王子が冷たい目で私を睨んでいて怖くなった。
「イザベラ様、一つ決めたことがあるのです。私は初めて愛おしいと思える女性と出会いました。10歳のはずなのに、そう見えない瞬間があり不思議と惹かれてしまう魅力を持った女性です。どうしても、彼女と踊りたくて我儘な行動を初めてとりました。イザベラ様には迷惑がかからないようにするので、安心してください。イザベラ様の見立てとは違い私は20歳ではなく、自分の欲求を抑えられない15歳の未熟な男だと反省しました。でも、今、イザベラ様と踊れて幸せです」
サイラス王太子殿下の青い澄んだ瞳に、ときめきを抑えきれない私が映っていた。
彼は私を愛おしいと言っているのだろうか、そんなこと言われたことがなくて戸惑ってしまう。
私を揶揄っていたり、利用しようとしている人には見えないけれど、自分が彼のような光の住人に想われる魅力があるようには思えない。
夢のような不思議な時間は曲の終わりと共に終わった。
「とても、良い時間でした」
私は顔が熱くて真っ赤になっているのが分かった。
なんとか、彼に優雅に挨拶すると舞踏会会場を抜けて中庭に出た。
こんな赤い顔で、ルブリス王子の横の席に座りには行けない。
また、ルブリス王子から棘のある言葉を受けるのも怖い。
「赤信号!」
私は思わず聞こえた女の声に振り向いた。
そこには、ピンク色のウェーブ髪にピンク色の瞳をしたヒロインであるフローラ・レフト男爵令嬢が立っていた。
この世界に信号は存在しない。
「白川愛⋯⋯」
私は憧れのフローラを前にして、私を虐め抜いた首謀者の名前を呟いていた。
「やだ、マジで綾なの? キモ女、今度は悪役令嬢になったんだ。これ、あんたがよく読んでた小説の世界でしょ。どこ行っても邪魔者なのね。あんたよっぽど赤信号が気に入ってたのね、その赤髪、あの時の信号の色みたい」
私が学校に行けなくなった最大の事件は、赤信号を無理やり何度も往復させられたことだった。
死ぬまで往復しろと愛を中心としたクラスの人間に煽られて、結局バイクに轢かれて入院するほどの怪我をしたのだ。