「サイラス様、カール、皆様への対応ありがとうございました」

私がルブリス王子殿下を応援するという言葉に、皆驚きのあまりパニック状態になった。
それを私の頼れる味方の2人が沈めてくれたのだ。

「イザベラ、あなたの願うことを叶えるのが私の役目です」
サイラス様が私を愛おしそうに見つめて来て頬に手を添えてくる。
私は彼に口づけして欲しくて目を瞑った。

「姉上、僕は退散します。僕は大したことはしていません。むしろ姉上の意図を察せられず、余計なことをしてしまって申し訳ございませんでした」
カールが慌てるように言った言葉に我にかえる。

「カール、私はあなたにしつこいくらいのありがとうを言いたいわ。沢山の人々に私のために動くよう説得してくれたのよね。皆、あなたのことを慕っていたわ。私が自分のことしか考えていない時に、あなたが多くの人の心をとらえてきたの。私はいつも助けられてばかりね」

彼はあれだけの人数に声をかけられるのだ。
彼が日々信用を築いて来たから、皆すぐに彼の言うことに耳を傾けたのだろう。

「姉上、幸せになってください。僕に何かしたいと願ってくれているのは知っています。だとしたら、僕の幸せは姉上が幸せになることです。もし僕に姉上の幸せを手伝えることがあれば、いつでも言ってください」
カールはそう言い残すと部屋を去っていった。



また、サイラス様と2人きりになり私はこのまま死んでしまうのかというくらい胸のときめきが止まらない。
「サイラス様、私」

扉のノック音と共にメイが部屋に入ってきた。
「ルブリス王子殿下がお見えです」

「分かりました、通してください」
ルブリス王子は大丈夫だろうか。
寝不足でおかしな言動をしていたのに、長子相続のルールを撤廃し、私との婚約を破棄しろなどと注文ばかりをつけてしまった。

「ちょ、サイラス様」
突然サイラス様が私を抱き込んで、したことのない大人の口づけをしてきた。

私は膝がガクガクしだして立っていられそうになり、慌てて彼の首に手をまわす。
頭がぼーっとしてきて何も考えられなくなりそうになる。

「サイラス王太子殿下、明日、私とイザベラの婚約破棄は明日発表されることになりました。イザベラは今日までは私の婚約者なので不埒な行動は控えてもらえませんでしょうか?」

聞こえてきたルブリス王子の言葉に、私は慌ててサイラス王子を押し返そうとした。
しかし、彼は私の力ではビクともしなかった。

「ルブリス王子殿下、早速、婚約破棄の手続きをしてくださったのですね。ありがとうございます」

「イザベラ、君のいう通り王位を長子に継承するルールについても疑義を唱えてきた。父上は驚いていたが、私を見直したとおっしゃっていた。私は昨日からほぼ寝ていなくてフラフラだ。イザベラに一生のお願いがあるんだ。婚約者として過ごす最後の夜、イザベラの膝枕で寝かしつけて欲しい」

私はルブリス王子殿下の言動がおかしいのが怖くなった。
小説での彼は最初は冷たい人間だが、フローラの温かい人間性に触れ次第に生来の優しさを取り戻していく。

小説の中のルブリス王子は本来なら優しく爽やかな面を持った素敵な方だった。
今の彼は白川愛の憑依したフローラに無理矢理恋をさせられたせいか、味方が私のような根暗な元引きこもりなせいかメンタルがおかしい人になってしまった。

「申し訳ございません。サイラス様にさえしたことがないのに、ルブリス王子殿下に膝枕などできるはずがありません」

「これが、イザベラを傷つけた罰なのだな。一生のお願いさえ聞いてもらえない」
ルブリス王子殿下は心底苦しそうに手を額に当てて首を振った。

「ルブリス王子殿下、氷の輸出の件をイザベラより聞きました。初年度は無償でライ国に提供します。私との交渉により獲得した権利だと周りにアピールして頂ければと思います」

サイラス様がありえないような提案をしてくれる。
彼は優しい人だから、ルブリス王子殿下のメンタルが心配なのかもしれない。

「サイラス王太子殿下、お言葉に甘えさせて頂きます。今、本当に崖っぷちにいるのです、そのような崖っぷちに一緒に立ってくれる女性が私にはいます。誰かは秘密です。サイラス王太子殿下、イザベラは自分のだからお前は退場しろという気持ちを殿下の態度から感じました。私は一時退散しますが、最終的に選ぶのはイザベラです」

「ルブリス王子殿下、王宮でゆっくり休んだ方が良いかと思います。かなりお疲れのようです」

私は自分が知っている小説のルブリス王子とはかけ離れている彼を見て、かなりメンタルが危険な状態だと判断した。

「イザベラ、今日はあなたへの気持ちを数えながら眠りにつきたいと思います」
ルブリス王子殿下は私にそう言い残すと去っていった。