「お口にあいませんか?」
エドワード王子が心配そうに私に尋ねてくる。

「いえ、とても美味しいです」
異世界に転生しても、私の体は食べものを受け付けようとしない。
前世で給食の残飯を口に押し込められた記憶に、まだ苦しめられている。

ルイ国のサイラス王太子殿下と、レイラ王女、エドワード王子殿下と私で高級レストランに入った。
エドワード王子殿下はレストランの常連なのか、彼が入るなりVIPルームに通され勝手にコース料理が出てくる。

「エドワード王子殿下、貴族令嬢は常にウエストを細く見せるため努力をしているのですよ。あまり、女性が食事をするのを見つめてはなりません。努力は隠れてしたいものです」
レイラ王女がエドワード王子に語りかける。

同年代の女の子から、このような優しい気遣いを受けたことがなく私は彼女が好きになってしまった。
彼女は11歳らしいが、3歳年下のエドワード王子のことが本当に好きなのだと表情を見ればわかる。

「それは失礼致しました。でも、イザベラ様はもっとふっくらしても良いと思いますよ」
エドワード王子が肩をすくめながら、私に微笑みかける。

「それにしても、イザベラ様はご婚約したルブリス王子殿下とはお出かけにならないのですか?」
レイラ王女が当たり前に持つだろう疑問を私に投げかけてきた。

「あの、私が不躾で気の利いた会話もできず、退屈させてしまうので出掛けられません」
退屈でつまらない女と言い放ったルブリス王子殿下を思い出し暗い気持ちになる。

「僕はイザベラ様はとても成熟した方だと思います。相手に場をつくらせることを、いつも求める兄上が幼いのです」
エドワード王子は私に微笑みかけた後、レイラ王女に同意を求めるように語りかける。

「もしかして、私18歳くらいに見えますか?」
私は自分が前世で18歳で死んだことを思い出した。

「18歳には見えませんよ。可愛らしい10歳のお嬢様に見えます。でも、イザベラ様は、とても落ち着いていて素敵な方ですね。ちなみに、私は何歳に見えますか?」
サイラス王太子殿下が笑いを堪えながら私に問いかけてくる。

「隣国であるルイ国に対して不勉強で申し訳ございません。間違っていたら国外追放にしてください。20歳くらいでしょうか?」
小説を散々読み込んでいたが、隣国であるルイ国については特に記載がなかった。
でもスラリと背が高く大人っぽいサイラス王太子は、大学2年生よりは上に見えた。

「15歳です。そんなに老けて見えますか?アカデミーを卒業したばかりですよ。イザベラ様は間違ったので、ライ国を国外追放になりルイ国に連れてかれることになります」

アカデミーはライ国でもルイ国でも12歳から15歳が通う場所だ。
中学生が通う年齢のアカデミーに行くのが怖くて仕方がない。

私は前世では中学の卒業式にも出席できなかった。
今世ではアカデミーの卒業パーティーで断罪される予定だ。

「罪人の国外追放先はルイ国なのでしょうか?厨房の仕事でしたらできますので、働かせて頂けるとありがたいです。少しでも、お世話になる国に奉公できればと思います」

15歳で国外追放になるイザベラは一体どの国に行ったのだろうか。
小説はルブリス王子殿下とフローラ・レフト男爵令嬢のラブストーリーが中心で、イザベラの国外追放先の記述もなかった。

「エドワード王子、この可愛いイザベラお嬢様をルイ国に連れて行ってはダメでしょうか?どうして、彼女がルブリス王子殿下の婚約者なんでしょう」

光の住人、サイラス王太子殿下から可愛いなどと言われてしまった。
今日はドキドキして眠れそうもない。

「実は僕も最初は下心があって彼女に近づいたのです。ライト公爵家の娘を兄上から奪えればと思いました。そうすれば、次男の僕でも王位につけるかと考えたのです。でも、このような純粋なイザベラ様を利用したら神々の怒りをかいそうで諦めました」

エドワード様が近づいてきたのは親切心ではなく私を利用するためだったらしい。

私を見て利用価値もなさそうだとガッカリさせたかもしれない。
私もルブリス王子殿下との婚約を解消したいが、私にはこの婚約をどうすることもできない。

「では、私と婚約しませんか? エドワード王子殿下。ライ国はルイ国とは違い一夫多妻制です。私と婚約しても愛する人ができたら、側室として将来娶っても構いません。ライ国との友好国であるルイ国の王女の私はあなたが王位につけるよう手助けができると思います。次男であるあなたが王位につきたいのであれば長子相続のルールなど、破れるくらいの力をつければ良いのです」

私は堂々とエドワード王子殿下に提案するレイラ王女に驚いた。
明らかに彼女は彼が好きそうに見えるのに、自分を利用するようにと提案している。

「レイラ王女、かっこいいですね。本当に憧れます。私も王女殿下のような女性になりたいです」
私が漏らした呟きが意外だったのか、3人とも驚いたような顔で私を見つめていた。