「サイラス王太子殿下、私の婚約者がお世話になっております。ライト公爵、卒業パーティーの件でイザベラに謝罪したいのですが、2人きりにさせて頂けませんでしょうか?」

ルブリス王子殿下が私のことを自分の婚約者だと言ったことに肩を落とした。

「もちろんでございます。サイラス王太子殿下、先程の申し出にはお答えすることができません。王太子殿下があまりに魅力的なので、娘が一時的に熱をあげていルようです。ルブリス王子殿下も同じように一時の感情に流されたのだと思います。どうか、広い心で若い2人の行く末を見守って頂けないでしょうか?」

先ほどまでサイラス様の提案に乗ろうと傾いていたライト公爵は、ルブリス王子の登場で一気にルブリス王子側についた。

「サイラス様、私の熱は一生冷めなそうなのです。ライ国にはいつまでいられるのでしょうか?私は自分で今ある問題を片付けて、あなたの隣に立ちたいと思っております。どうか、私を信じて待っていてください」

私はサイラス様の隣にいる為には、自分でこの問題を解決するべきだと思った。
私だってレイラ王女や、エリス様のように好きな人の側にいるために強くなりたい。

「イザベラをルイ国に連れ帰るまでは滞在しますよ。ライト公爵、私の優先順位を教えておきますね。1番がイザベラで2番がルイ国です。イザベラが手に入れる為の手段は公爵の想像する方法以外にも存在することを知っておいてください」
サイラス様は微笑みながらライト公爵にそういうと、私の方に来て頬に軽く口づけして去っていった。


「ルブリス王子殿下、お話ししましょうか」
私はルブリス王子殿下を連れて、庭を散歩することにした。

「イザベラ、これまでの君への態度を謝罪させて欲しい。信じられないかもしれないが、君と婚約した日から君を嫌悪するような感情が抑えられなかったんだ。卒業パーティーが終わると、その感情はスッキリ消えた」

「謝罪を受け入れますし、ルブリス王子殿下の仰ることを信じます。でも、私はもうあなたの婚約者ではありません。公の場でルブリス王子殿下自らが私との婚約を破棄すると宣言したではありませんか」

「ありがとう。こんなとんでもない言い訳を信じてくれるだなんて君は本当に優しいんだな。これも、また信じられないような言い訳なんだが、フローラを愛おしく思う気持ちが彼女に会ってから抑えられなかったんだ。断じて恋のような感じではなくて、脳を洗脳してくるような感情なんだ。卒業パーティーが終わるとその感情も消えていた。今、思えば、なぜあのような不躾で意地の悪い女を愛おしく思っていたのか理解できないんだ」

ルブリス王子が私を救いを求めるような目で見つめてくる。
きっと、彼の言うことは本当で、彼は長い間誰にも言えないような力に精神を強制されて苦しんでいたのだろう。

「そのことも信じるので、婚約は破棄してください」

「イザベラ、私たちは婚約してから、ろくに会話もしていない。もう一度最初から私たちの関係をやり直せないだろうか」

「申し訳ございません。私には愛する人がいるのです。それに、精神を強制されていたとはいえ、ご自分が私にしてきた言動については覚えていらっしゃるのですよね。嫌悪感があるからといって人に対して、物言わぬ人形でいろなどという方と私は関わりたくありません」

私の言葉にルブリス王子はショックが隠せないようだった。
彼には同情するべき点がたくさんあるが、彼に同情していては私はサイラス様と一緒にいられない。

「すまない、私が未熟だった。イザベラの言う通り、君の傷つく言動をしたことを覚えている。これからは、絶対イザベラを大切にすると誓う。君だけを妻として娶り愛し抜くと誓うよ」

ルブリス王子が私の手を引き、抱き寄せようとしてくるのを押し返した。

「ルブリス王子殿下、精神がクリアになっているであろう殿下とお会いするのは、今日が初めてだと言うことですね。今日が私とあなたの初対面と言っても過言ではありません。そのような初対面の私にそこまでの愛を誓うのは、ライト公爵家の娘である私を利用したいからですよね。私は人を利用するために平気で愛を誓う殿下を軽蔑します。ライト公爵家と切り離した私について少しでも考えてくれるならば、私との婚約を正式に解消してください」

ルブリス王子殿下は私との婚約が解消になると、次期国王になれないと思い必死だ。
聡明な弟であるエドワード王子は王女と婚約している。
対抗するには、ライ国で最も力のあるライト公爵家の娘の私が手放せないのだ。

「イザベラ、精神がクリアになって初めましてが今日なんだ。今日、君を好きになったと言っても、君は信じてくれないよね。明日も明後日も君を好きだと伝えに行くよ。イザベラが私の気持ちが本当だと信じてくれるまで、何度も君のところに行く。今日は本当に君を傷つけたと思う。今でも、君の泣いている顔が忘れられないんだ。私は、どうして自分の精神汚染のような感情がクリアになったのか考えた。卒業パーティーで、皆の前で涙ながらに無実を訴える君、他の男に抱きしめられる君、そのようなイザベラを見ていたら君は自分のものだと心が悲鳴をあげたんだ。私は君への愛情が洗脳のようなものに打ち勝ったと考えているんだよ」

ルブリス王子殿下はそう言うと、私の髪を一束とりそこに口づけし去っていった。