「ライアン、イザベラがお世話になりました。彼女は私が部屋までお送りします。もう、寝た方が良いですよ。夜も遅いですから」

寝巻き姿を指摘されるかと思ったが、サイラス様は気にしていないようだった。

「兄上、イザベラは明日から午前中だけはアカデミーに行くようですよ。遅い時間なので、私はもう眠りますね。」
ライアン王子は早口で言うと、素早く部屋に戻ってしまった。

「ライアンの匂いがします」
サイラス様はそう言うと私のガウンを脱がして放り投げた。

「匂いに敏感なんですね。サイラス様。あの、ガウン落とされています」
彼が匂いに敏感だと、私が最近ゲロ臭いと思われてそうで不安だ。

「わざと落としました。お部屋までお連れしますね」
体がふわっと浮いたと思うと、私はサイラス様にお姫様抱っこをされていた。

「あの、歩けるので大丈夫ですよ。夜遅いですが、眠くなくて元気です」
誰かに見られても見られなくても、態勢的にサイラス様の顔が近くにあって恥ずかしい。

「イザベラが少しでも休めるように、私が運びたいだけですよ」
サイラス様が笑顔で囁いてくるが、少し怒っている感じがした。

「あの寝巻きで出歩いて申し訳ございません。王宮を家だと勘違いしてしまいまし」

「ここは、イザベラと私が一緒になったら、あなたの家になります。リラックスして頂いて構いませんよ。」

「でも、誰が通るかわからない王宮で寝巻き姿で出歩くのは間違っていました」

「ライアンに出会して、部屋に連れ込まれましたか?」
彼の言葉に珍しく棘を感じて私は慌てて弁明をした。
「いえ、寝巻き姿で出歩いているのを注意されて、部屋に避難させてもらっていました」

「私の部屋に避難しに来ればよかったのではないですか?」

「明日のことを伝えようとサイラス様のお部屋に向かうところだったんです」

「でも、私がイザベラの部屋に来てしましましたね」
気が付くと私は自分の部屋のベットに寝かしつけられていた。

「運んでいただき、ありがとうございます。明日からのことですが、午前中はアカデミーに行き、午後は王宮で自習をする予定です。教師の方には私から告げます。心配なさらないでください、外国人の大人は怖くないのです」

私が対人恐怖症だとサイラス様は思ってそうだ。
私が怖いのは集団と同世代だと自分でも分かっている。



「外国人だなんて、イザベラはルイ国で私の妻になるのですよ。まだ、ルブリス王子との婚約破棄すらできておらず、イザベラが私をどう思っているかも聞いていません。しかし、私の中ではあなたは家族で、私の唯一の想い女です」
彼が想いを告げてくれて嬉しくなるが、部屋に2人きりなので緊張してしまう。

「外国人とは、ルイ国の方を指して言ったわけではないです。私の前世では私の国の人は基本黒髪でした。黒髪を見ると前世の辛い記憶を思い出すので、黒髪以外の人は怖くないと言う意味です」

「ルブリス王子は黒髪ですね。私は銀髪でよかったです。イザベラのことをいくら好きになっても、髪色だけで拒絶されては悲しいですから」

私はルブリス王子とまともに話さないままに、彼を怖い人間だと認定してしまった。
実際、彼は優しい人ではなさそうだが、最初から拒絶するような態度で接してしまったのは失礼だったように思う。

「私、髪色でルブリス王子のこと最初から怖いと思ってしまったかもしれません。実はあまり関わっていなくて、怖いという初対面の印象しか残っていないのです」

「私といる時に、ルブリス王子のことを考えないで欲しいです。彼とイザベラが結ばれてしまっても、私はあなたを奪いに行きます」

真剣に私を見つめるサイラス様の青い瞳に、恋する私の顔が映っていた。
しかし、夜遅くの2人きりのシチュエーションで妙に良い雰囲気になっているのが私には耐えられない。

「ありがとうございます。サイラス様に奪われたいです。あの、明日はアカデミーに行ってお昼を食べてから帰ってきます。おやすみなさい」
私は素早くシーツを頭まで被ると、サイラス様の優しい声が上から降ってきた。

「おやすみなさい。イザベラ。頼るときは私を頼ってくるれると嬉しいです。明日からも無理はしないでくださいね」

その優しくくすぐったくなるような声に、私はぎゅっと目を瞑った。