「ようこそお越しいただきました」
二日後の月曜日、小学校の正門に立つと、待ってましたとばかりに大人の人たちが私たちを出迎えてくれた。この人たち、先生、だよね? 何これ?
これが転校生に対するこの学校の恒例なのかな。随分歓迎されてる感じ。
「じゃあ、みこちゃん。ここから私は行かれないから、先生について行ってね」
「うん。みこ、もうお姉さんだから大丈夫。いってきます」
「いってらっしゃい」
背筋を伸ばして決意に満ちた表情のみこちゃんを見送る。あんなに立派になって……。あんなイイコを産んで育ててくださった方有難う御座います。
「はッ、そういえば親御さんもこの勇姿を見たいかもしれない」
初登校シーンはすでにマンションを出る時五十枚撮ったけど、追加で逞しい後ろ姿を撮っておいた。
親御さんは山に住んでるのかな。というか、いるのかな。お祖父さんとお兄さんと従兄しか話に出てきていない。みこちゃん側からしてもらえるまで話題には出さないでおこう。
行きも帰りもスクールバスってことになっているけど、初めてだから不安。私のメンタルが。家の前で降ろしてくれるらしいけど、部屋に入るまで一瞬でも一人になるのが不安。鍵を落とさないかも不安。
いや、これも他の子たちはしているんだから慣れていかないと。
深呼吸を二回して会社に向かう。不安になるたびみこちゃんの写真を見て癒された。みこちゃん、私頑張るね。
最近、みこちゃんのおかげで定時退社が身についてきた。仕事量は変わってないから、単純に処理速度が上がったんだ。毎日の生活に光を与えてくれたみこちゃんに感謝。
一年生は十五時前には帰宅するらしい。バスだから下校中は心配無いとして、鍵を開けて施錠してがちょっと不安。練習はしたけど。鍵を鍵穴に差しっぱなしにしてたらあっという間に強盗が……!
うう、心配したら不安が倍増しちゃった。十五時になったら一度電話してみよう。みこちゃんはしっかり者だけど、人間間違いは誰しもある。大人だってある。みこちゃんはあやかしだけど、まあそれはそれとして。
みこちゃんの了承を得て設置したペットカメラの映像を確認してみる。誰もいない。まだ十三時半だもんね。誰かいたらホラー過ぎる。
「大丈夫かなぁ」
「何が?」
隣からの声にはっとする。考えていたことを無意識に口に出していた。完全にヤバい人だ。野々宮さんでよかった。これが課長とかはたまた部長だったら、仕事以外のこと考えてるってバレて新たな仕事増やされちゃう。いや、余計なこと考えている私が悪いんだけど、それでも残業は出来る限り避けたいので。
「いや、あの、実は親戚の子を預かることになって、ちゃんと学校から帰ってくるか心配で」
ウサギのことだと誤魔化そうとしたけど、これからのどこかでみこちゃんがいることが分かる日が来る。それならいっそ一人くらいには知らせておいた方がいいと思った。
もしかしたらみこちゃんが風邪を引いて看病するために休むことがあるかもしれないし。色葉さんが飛んでやってきそうだけど。
「そうなの!? ウサギ飼い始めて今度はちびっこと同居!?」
「あはは、そうなんです。だから、今度もう少し広いところに引っ越しもする予定でして」
「へぇ、急展開だね」
「はい。でも、楽しいです」
これは本当。やることは増えたけど大変だと思ったことはない。むしろ、真っ白な当たり障りのない毎日に色を加えてくれて感謝したいくらい。もふもふ万歳。
「その子は寂しがったりしないの?」
「家族が遊びに来たりするので、全然気にしていない感じです」
きっちり仕事はしつつ、野々宮さんから質問されたら答える形で十五時はあっという間に来た。
「一瞬電話してきます。すぐに戻ります!」
「いいよ~」
課長に断りを入れて速足で廊下に出る。課長もなんだかんだ優しい。たしか既婚者だったはずだけど、お子さんはいたりするのかな。
みこちゃんに電話をすると、三コールで出てくれた。
『みこだよ』
「可愛い! おかえり!」
『ただいま』
電話のみこちゃんもいつもと変わらずウルトラ可愛かった。神がかっている。神様かもしれない。少なくとも私には神様です。
「十八時半に帰るからね。お腹空いたらお皿にあるお菓子食べていいし、寝ててもいいし。あ、宿題ある?」
『ある』
「じゃあ、やってみて、分からなかったら私とやろうね」
うう、もっともっとお話ししたいけど今の私は仕事中。これ以上は迷惑が掛かる。急いでデスクに戻り、寂しさをキーボードを打つことで紛らわせる。
初登校どうだったかな。お友だち出来たかな。いじめられたとかはないよね? 先生たちが出迎えてくれるくらい親切な学校だからきっと大丈夫。まずは私がどんと構えていなきゃね。
「大丈夫だった?」
「はい、全然問題無いです。やる気満々です」
「そりゃすごい」
なんか変なテンションになっちゃった。とりあえず成果を出して皆の迷惑にはならないよう頑張ろう。職場の人皆優しい人で私幸せ。
二日後の月曜日、小学校の正門に立つと、待ってましたとばかりに大人の人たちが私たちを出迎えてくれた。この人たち、先生、だよね? 何これ?
これが転校生に対するこの学校の恒例なのかな。随分歓迎されてる感じ。
「じゃあ、みこちゃん。ここから私は行かれないから、先生について行ってね」
「うん。みこ、もうお姉さんだから大丈夫。いってきます」
「いってらっしゃい」
背筋を伸ばして決意に満ちた表情のみこちゃんを見送る。あんなに立派になって……。あんなイイコを産んで育ててくださった方有難う御座います。
「はッ、そういえば親御さんもこの勇姿を見たいかもしれない」
初登校シーンはすでにマンションを出る時五十枚撮ったけど、追加で逞しい後ろ姿を撮っておいた。
親御さんは山に住んでるのかな。というか、いるのかな。お祖父さんとお兄さんと従兄しか話に出てきていない。みこちゃん側からしてもらえるまで話題には出さないでおこう。
行きも帰りもスクールバスってことになっているけど、初めてだから不安。私のメンタルが。家の前で降ろしてくれるらしいけど、部屋に入るまで一瞬でも一人になるのが不安。鍵を落とさないかも不安。
いや、これも他の子たちはしているんだから慣れていかないと。
深呼吸を二回して会社に向かう。不安になるたびみこちゃんの写真を見て癒された。みこちゃん、私頑張るね。
最近、みこちゃんのおかげで定時退社が身についてきた。仕事量は変わってないから、単純に処理速度が上がったんだ。毎日の生活に光を与えてくれたみこちゃんに感謝。
一年生は十五時前には帰宅するらしい。バスだから下校中は心配無いとして、鍵を開けて施錠してがちょっと不安。練習はしたけど。鍵を鍵穴に差しっぱなしにしてたらあっという間に強盗が……!
うう、心配したら不安が倍増しちゃった。十五時になったら一度電話してみよう。みこちゃんはしっかり者だけど、人間間違いは誰しもある。大人だってある。みこちゃんはあやかしだけど、まあそれはそれとして。
みこちゃんの了承を得て設置したペットカメラの映像を確認してみる。誰もいない。まだ十三時半だもんね。誰かいたらホラー過ぎる。
「大丈夫かなぁ」
「何が?」
隣からの声にはっとする。考えていたことを無意識に口に出していた。完全にヤバい人だ。野々宮さんでよかった。これが課長とかはたまた部長だったら、仕事以外のこと考えてるってバレて新たな仕事増やされちゃう。いや、余計なこと考えている私が悪いんだけど、それでも残業は出来る限り避けたいので。
「いや、あの、実は親戚の子を預かることになって、ちゃんと学校から帰ってくるか心配で」
ウサギのことだと誤魔化そうとしたけど、これからのどこかでみこちゃんがいることが分かる日が来る。それならいっそ一人くらいには知らせておいた方がいいと思った。
もしかしたらみこちゃんが風邪を引いて看病するために休むことがあるかもしれないし。色葉さんが飛んでやってきそうだけど。
「そうなの!? ウサギ飼い始めて今度はちびっこと同居!?」
「あはは、そうなんです。だから、今度もう少し広いところに引っ越しもする予定でして」
「へぇ、急展開だね」
「はい。でも、楽しいです」
これは本当。やることは増えたけど大変だと思ったことはない。むしろ、真っ白な当たり障りのない毎日に色を加えてくれて感謝したいくらい。もふもふ万歳。
「その子は寂しがったりしないの?」
「家族が遊びに来たりするので、全然気にしていない感じです」
きっちり仕事はしつつ、野々宮さんから質問されたら答える形で十五時はあっという間に来た。
「一瞬電話してきます。すぐに戻ります!」
「いいよ~」
課長に断りを入れて速足で廊下に出る。課長もなんだかんだ優しい。たしか既婚者だったはずだけど、お子さんはいたりするのかな。
みこちゃんに電話をすると、三コールで出てくれた。
『みこだよ』
「可愛い! おかえり!」
『ただいま』
電話のみこちゃんもいつもと変わらずウルトラ可愛かった。神がかっている。神様かもしれない。少なくとも私には神様です。
「十八時半に帰るからね。お腹空いたらお皿にあるお菓子食べていいし、寝ててもいいし。あ、宿題ある?」
『ある』
「じゃあ、やってみて、分からなかったら私とやろうね」
うう、もっともっとお話ししたいけど今の私は仕事中。これ以上は迷惑が掛かる。急いでデスクに戻り、寂しさをキーボードを打つことで紛らわせる。
初登校どうだったかな。お友だち出来たかな。いじめられたとかはないよね? 先生たちが出迎えてくれるくらい親切な学校だからきっと大丈夫。まずは私がどんと構えていなきゃね。
「大丈夫だった?」
「はい、全然問題無いです。やる気満々です」
「そりゃすごい」
なんか変なテンションになっちゃった。とりあえず成果を出して皆の迷惑にはならないよう頑張ろう。職場の人皆優しい人で私幸せ。