「わぁ、似合う!」

 現在、部屋でみこちゃんファッションショーが行われていた。観客は私一人。写真OKなので、遠慮なく撮らせて頂いている。恥ずかしそうに笑う顔がとても良い。

「くるって一回転してみて!」

 撮影枚数が五十枚に達した頃、ようやくショーが終わった。終わったというより、単純に昼食の時間になったから。お腹空かせちゃ大変だもの。

 満足いくまで食べてクッションに背中を預けて休んでいたら、みこちゃんが神妙な顔でこちらを見た。

 なに、私写真撮り過ぎて気持ち悪かった? それともお昼は美味しくなかったとか……?

 ここを出ていくとか言われたらどうしよう。

「みこのこと気持ち悪くない?」
「どうして? 全然気持ち悪くないよ。気持ち悪いのは私の方だよ」

 突然想像とは全く違う質問をされて自虐してしまった。冷静に考えてもさっきの私は気持ち悪かったけど。

「だって、ウサギになったり人間になったりするから」
「えっあ、可愛くて全然気にしてなかった」

 言われてみたら、非日常過ぎて怖がる人はいるかもしれない。でも、ウサギの姿も人間の姿もはちゃめちゃにキュートだから怖いという感情自体どっかに飛んでいっていた。

「みこちゃんはその、妖精さんかな?」
「あやかしって言う種族」
「へぇ! あやかしかぁ」

 可愛らしいから妖精かと思ったけど、確かにそういう言葉も聞いたことがある。なるほど、みこちゃんはあやかしのウサギさんか。

「気持ち悪くないんだ」

 頭からぴょこんと耳が飛び出て揺れている。こんな超絶可愛いウサギさんが気持ち悪いわけないじゃないですか有難う御座います!

 頭をなでなでなでなでしたい気持ちを抑えて微笑みのみで返した私めっちゃ大人。

 安心したのか、みこちゃんがころんと床に寝転がる。さっとクッションを差し出したら、そこに丸くなった。ウサギの姿で。

──かわ~……ッ!

 スマートフォンのカメラ機能は音が五月蠅くて起こしてしまいそうなので、今回は動画で撮らせて頂いた。ウサギなら他の人に見せても大丈夫だから、週明け誰かにウサギ飼いましたって言ってみよう。

 そんな幸せな土曜日を終え、日曜日はのんびり近所を散歩することにした。これからこの町でいろいろな経験をするだろうから、マンションの近所くらいは知っておかないとね。

「カラス、すずめ」
「鳥好き?」

 塀の上にいる鳥たちを指差すみこちゃんに聞いてみる。

「うん。山にいっぱいいたから、みこのお友だちなの」
「そっか。鳥さん可愛いもんね」

 ちなみに一番可愛いのはみこちゃんです。今日は昨日買った帽子を被っていてさらにキュート。私が仮の母としてみこちゃんを全力で守るからね!

「山には本物のウサギいる?」
「なかなか会えないけどいる。お話も出来る」
「すごい! さすが!」

 同じ種族だと言葉が分かると説明してくれた。なるほど、そんな便利機能が。私も動物とお話してみたい。

「町にもウサギいる?」
「いるよ~。飼っている人もいるし、昨日行ったペットショップは犬猫だけだったけど、小動物扱ってるところならいるし」

 商品扱いは機嫌を損ねるかもしれないと思ったけど、みこちゃんは気にしていない様子だった。ほっ。発言に気を付けよう。

 お昼でファミリーレストランに入ったら、配膳ロボットに挨拶していてほっこりした。可愛いって言っていたみこちゃんが可愛いよ。

 頼んだお子様セットにはおもちゃが付いてきて、袋から出さないで大切にポケットに仕舞っていた。ご飯が来るまで遊んでいいと伝えても、失くしたら困るからって。家でいっぱい遊ぼうね!

「山ではどんな遊びをしてたの?」

 家に向かう途中、そんなことを聞いてみる。

「うんと、かけっこしたり、お手玉とかまりつきしたりしてた」
「そうなんだ」

 かけっこ以外なら私も出来そう。さっそく百円均一でお手玉と、目についたおもちゃをいくつか買って帰った。

「こんなに買って大丈夫?」
「平気平気。毎日働いても自分で使うだけでつまらなかったから、こうやって買い物出来て楽しいの」

 一時間思い切り遊んだ後、ウサギに戻ったみこちゃんに白いウサギのぬいぐるみを渡してみた。さっきお店で見つけて買っておいたんだよね。みこちゃんよりちょっと小さいウサギ、黒と白で正反対なのに姉弟っぽくて可愛い。

 気に入ってくれたのか、みこちゃんがぬいぐるみを両手で抱きしめていた。お写真、撮らせて頂きます。

「そうだ」

 夕食の準備中、重要なことに気が付いた。みこちゃんは今人間の姿でテレビを観ている。

「どうしたの?」
「あのね、私月曜日から金曜日まで働いてて、明日からしばらく日中いないの。お留守番出来そう? 部屋の中でなら好きなことしていていいから」

 七歳の子にお留守番って厳しいかも。でも、ウサギの姿だったらのんびり寝ていてくれたらいいから平気かな。

 みこちゃんが小さな両手で握り拳を作って答えた。

「みこ、おるすばん平気。山でもしたことある」
「すごい、お姉さんだね。基本はウサギになって体力使わないよう寝ていてくれれば大丈夫だよ」
「人間になりたい時はなってもいい?」
「いいよ」

 みこちゃんには出来る限り自由に暮らしてほしい。元々山暮らしで駆け回って過ごしていただろうし。でも、都会はいろいろ怖いので、安全な範囲でと条件が付いてしまう。ごめんね。