「小学校にウサギのあやかしがいたの?」

 帰宅一番そんなことを聞かされて、私は三十センチくらい飛び上がった。それぐらいの驚きのことだった。

 だって、小学校と言えば私も行ったことのあるところで、人間の小学校ってことで、まさかそこにあやかしがいるとは。灯台下暗しとはこのことか。ううん、今はそんなのんきなことを言っている場合じゃない。

「駅前で見たあやかしとは違う?」
「うん、違う。あれより弱い」
「なるほど」

 みこちゃんに確認した限りでは危険ではなさそう。でも、弱いにしても警戒しないに越したことはない。私はさらに詳細を聞いた。

「先生?」
「ううん、二年生。転校してきたんだって」
「ますます怪しい!」

 もともといたわけじゃなく転校。みこちゃんが転校した小学校にあやかしの子どもが転校してくるなんて、偶然にはできすぎている。これは私だけで済ませられない状況だ。さっそくみこママに報告する。あやかしのことはあやかしが一番知っている。ここは専門家に任せよう。

「明日はお休みだから、とりあえずは安心だね」
「うん。でも、あの子よりみこの方が強いから、何かあっても平気だよ」

 みこちゃんが両腕に力を入れて力こぶを作ってみせる。ぷにぷにしていて全然こぶは出来なかった。かわいい、じゃなくて。

「へぇ、みこちゃん二年生より強いなんてすごい。でも、ケンカは良いことじゃないから、そうならないように対策してもらおうね」
「うん」







「はぁ!? 浅見光二郎だぁ!?」

 うふふ、色葉さん怖い。想像通りの反応。

 みこママから知らされた色葉さんが昨日の今日で飛んできた。

 みこちゃん曰く、立ち耳じゃなくて垂れ耳ウサギのあやかしだそう。なにそれ見たい。どっちもそれぞれの可愛さがあって良い。

 あれ、百均で見たあやかしも垂れ耳だったよね。偶然、じゃないかも。もしかしてあれは偵察だったのかな。あの時気付いていればよかったけど、情報が何も無かったから仕方がない。まだ事が起きていない今のうちに対策を練らなくちゃ。

 それにしても、光二郎君がみこちゃんのことを知っているから何かあるんじゃないかと思って呼んだんだけど、やっぱり色葉さんは転校生君のことを知っていた。

「光二郎君は五十嵐山の子ではないんですか?」

 みこちゃんに同じ質問をしたんだけど、全員を把握していないから分からないらしかった。ただ、あそこでロップイヤータイプのウサギを見たことがないと言っていたということは……。

「違う」

 やっぱり。あやかしにもいろいろ種類があるんだなぁ。そう思っていた私が甘かった。

「あいつは浅見山のあやかし……みこに求婚してきた野郎だ!」
「えええッ!?」
「えっ」

 それって、重大事件てことでは!? だって、その子が来るから山にいられなくなったんだもんね。みこちゃんを見たら真顔で固まっていた。

「あの子がそうなんだ」
「知らなかったの?」
「うん」

 わぁお。知られていない相手に求婚していたんだ、光二郎君。ちょっと同情しちゃう。何があって求婚するに至ったのか分からないけど、とりあえず成就することは今のところかなり低そう。

「こ、困ったね」

 色葉さんが闇社会の住人みたいな顔で立ち上がる。

「くそ、こうなったらそいつを内々に処分」
「しないでくださいね!?」

 すごい怖いこと言い出した。本当にウサちゃんなの……? できれば、ふわもこプリティーがそういうことを言わないでほしい。

「勝手に婚姻届出されたらどうするんだ」
「双方の合意無く出来ないというかそもそも未成年じゃ認められません。とりあえず落ち着いて」
「お、おう」

 慌て過ぎて変なこと言い出した。それともあやかし界では何か儀式とかしたら未成年でも結婚が認められるとかあるのかな。

「それにしても困ったな。あいつがいるってことはあいつのじいさんも近くにいるかも」

 どうやら、光二郎君よりおじいさんの方が問題らしい。前もそんなことを言っていた気がする。おじいさんがその気なだけで本人は無害なのかも。

「光二郎君はみこちゃんになんて言ってた?」
「お友だちになってくださいって」
「そっかそっか、そのくらいならいいね」

「あと、みこのこと木の陰から覗いてた」
「やっぱりやばい奴じゃねぇか!」

 これはさすがに光二郎君を擁護出来ない。いくら子どもと言えども木の陰から覗くのは怖がらせるから止めようね。目立たないように気を遣ったのかもしれないけど絶対逆効果。

「だめだだめだ。みこの傍にあいつを置いてはおけない」

 色葉さんの目つきが鋭くなる。このまま光二郎君の家に突撃しそう。光二郎君も今はここの近所に住んでるのかな。家がバレたら大変なことになりそう。

「あの、色葉さん。質問いいですか?」
「発言を認める」

 手を挙げると、意外なことに冷静に返された。ずっと気になっていたことを聞いてみる。

「みこちゃんはまた山に帰るってことでしょうか……?」

 あまり聞きたくなかったけど、最重要課題なので早いところはっきりさせなきゃいけないと思っていた。

 浅見家の求婚から逃げるためにこの街にやってきたってことは、光二郎君が同じ小学校に転校してきたんだから、また逃げないとだもんね。

 せっかく仲良く暮らしていたのに一人暮らしに戻るのか……考えただけで涙が出そう。