ぱらぱら声をかけてもらえたけど、半分くらいの人はぽかんとしていた。うう、居たたまれない。

「どこかお寄りになりますか?」
「いえ、まっすぐマンションまでお願いします」
「かしこまりました」

 予想通り、車はおじいさまの車だった。ど緊張する。私の服、汚れてないよね。車内汚れないよね。

「お迎えに来て頂いて有難う御座います」
「いえ、とんでも御座いません」

 穏やかな口調で返される。運転手さんの声、落ち着くなぁ。

「みこちゃんの様子はどうですか?」
「お元気にされていますよ。奈々様がお帰りになるまで寝ないで待っていらっしゃるそうです」
「わぁ、申し訳ないです」

 帰ったら二十一時半くらいか。いつもは二十一時に寝ているからちょっと夜更かしさせちゃうな。ごめん、ありがとうみこちゃん。

「金曜日だから大丈夫ですよ」

 私の焦りが伝わったのか、運転手さんに気を遣わせてしまった。

「なるべく急ぎで、そして安全運転で向かいます」
「有難う御座います」

 さすが一級の運転手さん、急ぎと言っても相変わらずスムーズな運転で全く揺れずにマンションまで到着した。

 部屋まで辿り着くと、玄関でうさみこちゃんが待っていてくれた。私が中に入った途端、ぐるぐるその場を回り始める。

「ただいま! お留守番ありがとう、すぐ手洗いうがいしてくるね!」

 高速で上着を脱ぎながら手を洗いうがいをした。うさみこちゃんが私のお腹にダイブする。

「寝る時間なのに、ごめんね」

 謝ると、腕の中でぷうぷううさみこちゃんが鳴いた。可愛い。

「おう、酔っぱらってないだろうな」
「平気です。色葉さん、今日はお世話になりました。運転手さんも有難う御座います」

 すたすた玄関に歩く色葉さんと玄関でにこにこしている運転手さんにお辞儀する。

「別にあんたの為じゃないから。また遅くなる時はいつでも呼べ」
「はい。有難う御座います。おやすみなさい」

「ああ」
「それでは失礼します」

 二人が帰っていく。本当にお世話になった。またの機会があったら、運転手さんにも何かお土産買っておこう。

「もう寝る?」

 うさみこちゃんが半目になっているので、そっと寝床に下ろす。私も早くお風呂入って寝る準備しよ。

 飲み会楽しかった。でも、やっぱりみこちゃんがいる自宅は落ち着く。

 みんな、今日は有難う御座いました!







「おはようお嬢様!」
「運転手付きってどんな生活?」
「実家はプール付き大豪邸の洋館って聞いたけど本当ですか?」

 週明け、予想通り私は質問責めにあった。先輩から後輩まで。課長も混ざってるんですけど?

 確実に先週飲み会したメンバーより多い人数に話しかけられたから、誰から漏らしたな。私、一般人です。

「ご期待に沿えず申し訳ないですが、預かっている子のご家族がお金持ちなだけなので」

 正直に答えたら、事情を知っている野々宮さんが納得したのか頷いた。

「ああ、親戚の子。じゃあ、親戚がお金持ちなんだから川吉ちゃんも恩恵受けてるんじゃ?」
「う……それは否定出来ないですけど、私自体はド平民なので。先週のことは記憶から吹っ飛ばしてください」

 異常事態だったのは認めるけど、あちらは親切で来てくれただけなのでどうにか私が何でもない一般人だという真実を理解してほしい。

 別にお金持ちだと思われたところで特に不利益は被らないけど、なんとなく恥ずかしいというか。ね。

「川吉さん困ってるでしょ。あんまりからかわないで」

 そんな時、棚元さんがフォローを入れてくれた。助かります!

「ガチでお金持ちならここでがむしゃらに働いてないよ。前も節約だって自販機で買うの躊躇してスーパーでお茶買ったって言ってたし」

 助かりま……そういうのは言わないでいいです。

「そうだよね~」

 周りも理解していたみたいで、私のお金持ち説は一日で落ち着いた。ほっ。

「私も一度でいいから、運転手さんにお迎え来てもらいたい。お嬢様、お待たせしましたみたいな」
「緊張して終わりますよ」

「確かに。それが日常の人じゃないと逆にストレス溜まっちゃいそう。我々は一生懸命働いて、自分の贅沢のために頑張りましょう~」
「ですね」

 野々宮さんと笑いながら仕事を開始する。仕事って大変だし疲れるけど、その分お給料として返ってきてくれるから嬉しくもある。

 私はみこちゃんという非日常が身近にいるけど、身の丈を理解して日々の生活費を稼ぎますか。

 パソコンのメールチェックをして、今日の業務をこなしていく。みこちゃんが学校で頑張って勉強している間、私も頑張るね。

 ちなみに、年末の忘年会では色葉さんが迎えに来て、年下彼氏だと年始まで騒がれることになるのを今の私は知る由も無かった。