「はぁ~~~癒し」
今日も今日とて、私はみこちゃんに癒されている。
ただいま十一時五十分、絶賛仕事中。間もなくランチの時間。デスクの上にはうさみこちゃんの写真立て。一枚までしか飾れないのでみこちゃんの写真が無いのがちょっと不満。アプリで合成してみこちゃんがうさみこちゃん抱っこしてる写真作ろうかな。もちろん本人の許可を取ってから。
「うさぎだ」
上を向くと、営業の棚元さんが立っていた。誰かに用事でもあるのかな。
「飼ってるんだ」
「はい、実は」
そう言ってスマートフォンの画面も見せた。うさみこちゃんの魅力をあらゆる角度から堪能してほしいので。
「へぇ、可愛いね」
「他の写真も見ます?」
業務中なのでささっと数枚見せるだけで我慢した私を褒めてほしい。いや、数枚だけでも見せて足を止めさせた時点でアウトか。ごめんなさい。その時、十二時のチャイムが鳴った。やった、セーフ。セーフだよね? 多分。
「あれ、この子は?」
ちょうどみこちゃんの方の写真で止まっていたため、棚元さんが聞いてくる。
「この子は親戚の子で、小学校が近いから今家で預かっているんです」
「へぇ」
写真を見てから私を見てきた。似てないとか思っている、とか。でも、親戚なら全然似てなかったりするから、ね!
「川吉さんって」
「はい」
「恋人はいないの?」
「いませんね」
即答したら目を丸くされてしまった。あれ、即答って私の年じゃまずかった? あ、というかこの質問ってセクハラ的な何かなのでは? まあ、いいか。私も気にせず答えちゃったし。
というか、今の流れで何故恋人の話? みこちゃんに夢中過ぎて棚元さんの話聞いてなかったら悪いな。
「いやぁ、動物飼うと恋人出来ないって言うじゃない。しかも、親戚の子どもの世話まで。大変だなと思って」
「大変じゃないですよ」
なるほど、そこに繋がるわけか。
全然大変じゃないです。爪の先程も大変じゃないです。
「でも、飲み会とかも行けないじゃん」
「まあ、それは」
「今度の打ち上げはどうする?」
「あ」
そっか。みこちゃんと一緒で楽し過ぎて忘れてたけど、打ち上げという名の飲み会があった。最近飲み会断りまくってたけど、さすがにプロジェクト完了の打ち上げくらいは出といた方がいいよね。
「川吉ちゃん、無理しなくていいよ」
隣の野々宮さんが助け舟を出してくれる。くぅ~~~良い人ッ。
「いや、で、出ます。皆さんとゆっくりお話し出来てないし。その日は家族の誰かに来てもらうので大丈夫です」
「そう?」
「お~いいね。僕も参加するから、当日はよろしく」
「よろしくお願いします」
棚元さんが他の人にも声をかけつつ戻っていった。営業は社内で関わる人も多いから顔が広いんだよね。私が知らない人ともよく話しているし。
それより、つい勢いで言ってしまった。ど~~~しよ。
いや、悩んでいただけじゃ何も解決しない。
よし、ここはみこママに相談だッ。
今日はここで一人で食べることを伝えてコンビニに走る。サンドイッチとサラダを買ってデスクに戻って、とりあえずメッセージ送信。これできっとお昼休み中に既読にはなるはず。
もぐもぐ。普段食べないけどコンビニランチも結構美味しい。それにしても、社内で食べるとゆっくり出来るな。行き帰りの時間と注文してからの待ち時間が無いから二十分近く違う。
たまにはお弁当持ってきてここで食べてもいいかもしれない。野々宮さんに聞いてみよう。
ブルルッ。
デスクに置いていたスマートフォンが震える。これはきっとみこママ。
メッセージを確認すると『OK。そちらに色葉を送るわ』と書かれていた。色葉さんごめんなさい、夜なのに。
お礼のメッセージを送ってひとまず解決。そういえば、色葉さんって普段は何をしているんだろう。何歳って言ってたっけ。大学生くらいかな。藤さんが二十代後半、日向さんが多分三十路くらい。見た目だけの話だけど。本当は何歳かどうかみこちゃん以外分からない。
色葉さんは若いとして、日向さん実は百歳とかだったりして。聞く機会も無いしなぁ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「どうだった?」
野々宮さんにピースする。
「みこちゃんのママに連絡したらOKもらえました。その日は従兄が来てくれるって」
「よかったね。私も行くから一緒に飲もう~」
「やった~よろしくです!」
毎日楽しくて忘れていたけど、会社の人と飲み会するの結構好きだった。飲み会が好きっていうか、会社の人が良い人ばかりだから話すのが楽しい。休日同期で遊びに行ったこともあったし。
同期は九人いたけど、今は六人。しかも同じ課は私しかいないから最近遊べてないや。
退職したうちの一人は、二年目に結婚して今年赤ちゃんが出来たから退職した。赤ちゃん、結婚か……恋人のこの字も最近聞いていない。
ペットを飼うとそれで満足しちゃうから結婚出来ないとは聞くけど、確かにここ数か月満足過ぎる毎日で恋人作りたいなんて思ったことすらなかった。
そんなことに気が付いても、不思議と焦りは感じない。親が何か言ってくることがないのが大きいかも。これが三十歳間近になったら違ってくるのかな。周りの友だちも結婚したいって言う人は見かけないし。
「というわけで、今度の金曜日仕事の打ち上げがあって帰りが遅くなるの。色葉さんが来てくれるみたいだけど、大丈夫?」
「うん、平気。食べて寝るだけだから」
帰宅後みこちゃんに報告すると、予想以上にあっけらかんとした返事が返ってきた。七歳とは思えない落ち着きぶり、素晴らしい。
まあ、一人じゃないしウサギに戻って寝ていれば特に問題無いもんね。色葉さんもみこちゃん大好きだから楽しく過ごしてくれそうだし。むしろ、みこちゃんと離れて過ごす私の方がちょっと寂しかったりして。
「うう、すぐ帰ってくるからね!」
思わず抱きしめたら、小さい手で私を撫でてくれた。ううう女神ィ……。
「いっぱいだっこしていいよ」
そう言ってみこちゃんがウサギになった。
えっと、許可を得たってことはこのふわふわもふもふちゃんを心ゆくまで抱っこしていいわけで……?
「みこちゃんありがとうッッ」
お礼を言いながら優しく抱っこした。ちっちゃい、大きな心のうさちゃん。一生付いていきます。
ひとしきり甘えさせてもらって、二人で仲良く寝る準備をした。本当に幸せ。
「そうだ。金曜日は色葉さんが早めに来て、夜は外食にするって言ってたよ」
土日は外食することが多いけど、平日に外食は初めてで、みこちゃんの目が好奇心に満ちる。学校終わりにどこか出かけるって特別な感じがして良いよね。
今日も今日とて、私はみこちゃんに癒されている。
ただいま十一時五十分、絶賛仕事中。間もなくランチの時間。デスクの上にはうさみこちゃんの写真立て。一枚までしか飾れないのでみこちゃんの写真が無いのがちょっと不満。アプリで合成してみこちゃんがうさみこちゃん抱っこしてる写真作ろうかな。もちろん本人の許可を取ってから。
「うさぎだ」
上を向くと、営業の棚元さんが立っていた。誰かに用事でもあるのかな。
「飼ってるんだ」
「はい、実は」
そう言ってスマートフォンの画面も見せた。うさみこちゃんの魅力をあらゆる角度から堪能してほしいので。
「へぇ、可愛いね」
「他の写真も見ます?」
業務中なのでささっと数枚見せるだけで我慢した私を褒めてほしい。いや、数枚だけでも見せて足を止めさせた時点でアウトか。ごめんなさい。その時、十二時のチャイムが鳴った。やった、セーフ。セーフだよね? 多分。
「あれ、この子は?」
ちょうどみこちゃんの方の写真で止まっていたため、棚元さんが聞いてくる。
「この子は親戚の子で、小学校が近いから今家で預かっているんです」
「へぇ」
写真を見てから私を見てきた。似てないとか思っている、とか。でも、親戚なら全然似てなかったりするから、ね!
「川吉さんって」
「はい」
「恋人はいないの?」
「いませんね」
即答したら目を丸くされてしまった。あれ、即答って私の年じゃまずかった? あ、というかこの質問ってセクハラ的な何かなのでは? まあ、いいか。私も気にせず答えちゃったし。
というか、今の流れで何故恋人の話? みこちゃんに夢中過ぎて棚元さんの話聞いてなかったら悪いな。
「いやぁ、動物飼うと恋人出来ないって言うじゃない。しかも、親戚の子どもの世話まで。大変だなと思って」
「大変じゃないですよ」
なるほど、そこに繋がるわけか。
全然大変じゃないです。爪の先程も大変じゃないです。
「でも、飲み会とかも行けないじゃん」
「まあ、それは」
「今度の打ち上げはどうする?」
「あ」
そっか。みこちゃんと一緒で楽し過ぎて忘れてたけど、打ち上げという名の飲み会があった。最近飲み会断りまくってたけど、さすがにプロジェクト完了の打ち上げくらいは出といた方がいいよね。
「川吉ちゃん、無理しなくていいよ」
隣の野々宮さんが助け舟を出してくれる。くぅ~~~良い人ッ。
「いや、で、出ます。皆さんとゆっくりお話し出来てないし。その日は家族の誰かに来てもらうので大丈夫です」
「そう?」
「お~いいね。僕も参加するから、当日はよろしく」
「よろしくお願いします」
棚元さんが他の人にも声をかけつつ戻っていった。営業は社内で関わる人も多いから顔が広いんだよね。私が知らない人ともよく話しているし。
それより、つい勢いで言ってしまった。ど~~~しよ。
いや、悩んでいただけじゃ何も解決しない。
よし、ここはみこママに相談だッ。
今日はここで一人で食べることを伝えてコンビニに走る。サンドイッチとサラダを買ってデスクに戻って、とりあえずメッセージ送信。これできっとお昼休み中に既読にはなるはず。
もぐもぐ。普段食べないけどコンビニランチも結構美味しい。それにしても、社内で食べるとゆっくり出来るな。行き帰りの時間と注文してからの待ち時間が無いから二十分近く違う。
たまにはお弁当持ってきてここで食べてもいいかもしれない。野々宮さんに聞いてみよう。
ブルルッ。
デスクに置いていたスマートフォンが震える。これはきっとみこママ。
メッセージを確認すると『OK。そちらに色葉を送るわ』と書かれていた。色葉さんごめんなさい、夜なのに。
お礼のメッセージを送ってひとまず解決。そういえば、色葉さんって普段は何をしているんだろう。何歳って言ってたっけ。大学生くらいかな。藤さんが二十代後半、日向さんが多分三十路くらい。見た目だけの話だけど。本当は何歳かどうかみこちゃん以外分からない。
色葉さんは若いとして、日向さん実は百歳とかだったりして。聞く機会も無いしなぁ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「どうだった?」
野々宮さんにピースする。
「みこちゃんのママに連絡したらOKもらえました。その日は従兄が来てくれるって」
「よかったね。私も行くから一緒に飲もう~」
「やった~よろしくです!」
毎日楽しくて忘れていたけど、会社の人と飲み会するの結構好きだった。飲み会が好きっていうか、会社の人が良い人ばかりだから話すのが楽しい。休日同期で遊びに行ったこともあったし。
同期は九人いたけど、今は六人。しかも同じ課は私しかいないから最近遊べてないや。
退職したうちの一人は、二年目に結婚して今年赤ちゃんが出来たから退職した。赤ちゃん、結婚か……恋人のこの字も最近聞いていない。
ペットを飼うとそれで満足しちゃうから結婚出来ないとは聞くけど、確かにここ数か月満足過ぎる毎日で恋人作りたいなんて思ったことすらなかった。
そんなことに気が付いても、不思議と焦りは感じない。親が何か言ってくることがないのが大きいかも。これが三十歳間近になったら違ってくるのかな。周りの友だちも結婚したいって言う人は見かけないし。
「というわけで、今度の金曜日仕事の打ち上げがあって帰りが遅くなるの。色葉さんが来てくれるみたいだけど、大丈夫?」
「うん、平気。食べて寝るだけだから」
帰宅後みこちゃんに報告すると、予想以上にあっけらかんとした返事が返ってきた。七歳とは思えない落ち着きぶり、素晴らしい。
まあ、一人じゃないしウサギに戻って寝ていれば特に問題無いもんね。色葉さんもみこちゃん大好きだから楽しく過ごしてくれそうだし。むしろ、みこちゃんと離れて過ごす私の方がちょっと寂しかったりして。
「うう、すぐ帰ってくるからね!」
思わず抱きしめたら、小さい手で私を撫でてくれた。ううう女神ィ……。
「いっぱいだっこしていいよ」
そう言ってみこちゃんがウサギになった。
えっと、許可を得たってことはこのふわふわもふもふちゃんを心ゆくまで抱っこしていいわけで……?
「みこちゃんありがとうッッ」
お礼を言いながら優しく抱っこした。ちっちゃい、大きな心のうさちゃん。一生付いていきます。
ひとしきり甘えさせてもらって、二人で仲良く寝る準備をした。本当に幸せ。
「そうだ。金曜日は色葉さんが早めに来て、夜は外食にするって言ってたよ」
土日は外食することが多いけど、平日に外食は初めてで、みこちゃんの目が好奇心に満ちる。学校終わりにどこか出かけるって特別な感じがして良いよね。