この前行ったラビットランや五十嵐山でのうさみこちゃん写真を鍵アカウントに上げたら、さっそく二ついいねが飛んできた。もちろん藤さんと色葉さん。フォロワー二人だし。

 癒しフォトの整理と思っていたけど、こうして反応があると嬉しくなっちゃう。癒しを共有して、まるでみこちゃんファンのオフ会をオンラインでしているような。

 今日は月曜日、でも有給消化日なのでお休み。うちの会社は有給の年間消化目標が設定されていて、あまり有給申請していない人には消化してくださいって指示が来たりする。私もその例。なので、何でもない日に取ってみた。

 特に用事も無いので、月曜日なのにお休みという幸福感を味わいたいから今日にした。

 ということで、今日はみこちゃんのお出迎えが出来ちゃう。

 いつもスクールバスで登下校しているからうちのマンション前で待機。歩いても数分なんだけどね。でも、その数分で何か事故に巻き込まれるかもしれないから、保護者の見えないところを学校側で把握してくれるのは助かる。

 ちなみに、スクールバスは毎月の学校費に含まれているらしくて無料。何それすごい。私立強い。だからか、自家用車の人はあまりいないらしい。

 予定時刻と大差無くバスが近づいてきた。あの中に学校帰りのみこちゃんが……!

 毎日一緒に暮らしているのに、本当に毎日可愛いみこちゃん。バスに乗っていて姿が見えないのにもう可愛い。

 きっちり私の目の前で停車し、ドアが開く。その直後大きいランドセルを背負ったみこちゃんが降りてきた。おかしいな、天使の羽が見える。視力一、〇あるはずだけど。そうか、幻覚じゃなくて現実ってことだ。

「みこちゃん、おかえり」
「ただいま」
「みこさん、ばいばぁい」

 前の席の子が手を振ってくれる。お友だちかな。お友だち出来てよかったね。みんながすでにお友だちになっている中の転校生だから少し不安もあったけど、こうして会話をしているのを見るとほっとする。

 私がいつも家にいられれば登下校の風景も見られるけど、如何せん私が仕事を辞めたら私を養ってくれる人がいなくなってしまうので、毎日稼ぎに頑張るしかない。仕事に行くのは面倒だけど、人間関係が良いしわりとホワイト企業なので楽しいこともあるし。

 でも、万が一私が事情で退職することにでもなったら、みこちゃんの家族が私の生活費も上げたものから使っていいよって言いそう。それだけは避ける。そういう目的でみこちゃんを預かっているわけじゃないから。私は私が養います。

「みこさんって呼ばれているんだね」

 ランドセルから連絡袋を取り出すみこちゃんに話しかける。なんか小さい子がさん付けいしていると初々しい言い方で微笑ましくなる。

「学校はみんなさん付けしてくださいって先生が言ったの」
「そうなんだ」

 私が小学生の時はそんな決まり無かったなぁ。あだ名禁止ってことなのかな。先生たちもいろいろ考えなくちゃいけなくて大変。
 そんな会話をしていたら、テーブルに宿題を広げるみこちゃんの口元がぴくぴく動き出した。

「どうしたの?」
「奈々ちゃんがいるからうれしいの」
「そっかそっかぁ!」

 嬉しさを噛みしめてるってこと? 私も嬉しい!!

「宿題終わったら遊ぼうか。夜ご飯の買い物終わってるから一時間以上は遊べるよ」
「遊ぶ」

 何度も頷くものだからぎゅうと抱きしめちゃった。

「ごめん、邪魔しちゃって。向こうにいるね」

 このままだと完全に宿題の邪魔になる。私はベッドルームに移動してスマートフォンで時間を潰す。平日休みのせっかくの機会だから、普段出来ないことをしよう。

「…………」

 と思ったけど、気が付いたら手が勝手にみこちゃん写真の整理を始めていた。まあいいか、これも立派な普段平日に出来ないことだし、やりたいことだし。

「終わった」

 みこちゃんがピースしながら部屋に入ってきた。ドヤ顔も可愛い!

「お疲れ様! おやつ食べる?」
「食べる」

 ドーナツを食べてもらっている間にランドセルの中身を確認。筆箱を開けたら、小さくなった消しゴムが仕舞われていた。

「あ、消しゴム折れてるね。新しいの買おうか」
「まだ使えるよ?」

「でも、使いにくくなって授業に集中出来なかったら大変だから、新しいのも持っていこう。古いのは使えなくなるまで使ってていいから」

「分かった」

 半分になった消しゴムを見つめてみこちゃんが頷く。古くなった文房具も大事に使うのえらすぎる。

「いつも物を大切に使ってくれてありがとう」
「へへ」

 みこちゃんが頬を掻く。照れてる。みこちゃんのご家族の方、みこちゃんはますますイイコに育っています。

 おやつの時間も終わり、さっそく消しゴムを買いに行くことにした。遊ぶ約束もあるしね。

「駅前の百均でいいか」

 文房具一つならわざわざ専門店に行かなくても百均で済む。百均ってイイよね。あそこ行けば服と生鮮食品以外はたいてい揃うイメージ。文房具に掃除用具、遊び道具まで。一度足を踏み入れると隅々まで見ていろいろ買っちゃう。いっそテーマパークなのでは?

 二人で歩いて駅に向かう。

「どこ行くの?」
「駅ビルだよ。中に百均があるから」

「百均?」
「百円の商品をいっぱい扱っているお店のこと」

 ちょっと難しいのが、全商品百円ではないところ。子どもの頃はほぼ全商品百円だった気がするけど、いつの間にか百円以外の商品も置くようになった。そのおかげで商品の幅も広がったからよかったのかもしれない。

 駅ビルに着き入口を入ったところで、ふと視界の端を何かが横切った。

「ん?」

 なんだろう、大きさ的に動物っぽかった。でも、店内に動物はいないよね。みこちゃんは今人間だし。動物が走り回っていたらもっと大騒ぎになっているはず。気のせいか。

「百均は三階だからエスカレーターで行こう」
「うん」

 みこちゃんも変な顔をしていない。やっぱ違うのか。そうなると、私の頭の方を心配しなくちゃいけないことに……?

 待って待って、まだ私二十代半ば。まだ体の不調を訴えるような年齢じゃ……でも、若くしてってことも……。

「あそこ?」
「うん、そう」

 私が一人で悩んでいたら百均の入り口が目の前だった。とりあえず気にしないで行こう。来月会社の健康診断あるし、何かあればそこで分かるでしょう。

 文房具売り場に向かうと、なんとそこでも何かの残像が見えてしまった。

「うそ、やっぱり私どこかおかしいの……」
「なんかいた」
「えっ」

 みこちゃんが何かが通った場所を指差す。よかった。みこちゃんにも視えるんだ。私がおかしいわけじゃなかった! よかった! いや、よくないかもだけど!

「みこちゃん、さっきのって動物、だよね」
「ウサギのあやかしだった」
「ウサ……ッ」

 え、ほんと!? また現れないかな。みこちゃんの仲間とか?

「知ってる人?」

 聞くと、みこちゃんがふるふる首を振る。

「知らないあやかしってこと……? なんでこの街に」