「はッ」
まだよく開かない目のままアラームをオフにする。人のお家なはずなのに夜中一度も起きずに爆睡しちゃった。
部屋着から着替え、メイクをして廊下に出る。外はまだ暗いから廊下もかなり暗い。みこちゃんのご両親には許可を得ているけど、この時間に一人でこそこそしているのはなんだか悪いことをしている気になる。
さすがにまだ起きている人いないかな。
玄関の鍵は開いていると聞いたので横に開いてみると、確かにすんなり開いた。結界を張っているので鍵を付ける理由が無いらしい。結界、カッコイイ。
外は薄っすら白んでいてとても幻想的だった。お伽話の中を歩いているような、不思議な感覚。
山だからちょっと寒い。両腕をさすりながら、昨日教えてもらった広場に来た。もう太陽が顔を出し始めている。良いタイミング!
「わああ……」
建物に邪魔されることなく、真ん丸の太陽が見えてきた。自然と声が出る。すごい。日の出は初日の出を昔一度見たきりだったけど、もっと経験しておけばよかった。
ぴとん。
「ん?」
日の出に感動していたら、足元に何やら柔らかい感触が。見下ろすと一羽のウサギ。茶色だぁ可愛い。あやかしのウサギだよね、誰だろう。
「あっ」
私が屈むと逃げられちゃった。残念。
そろそろ戻ろうかな。すでに外に出ているウサギさんがいたから、他にも誰か起きているかも。
元来た道を戻って玄関を開ける。黒い子ウサギが飛び込んできた。
「これは……みこちゃん!」
うさみこちゃんが頭でぐりぐりしてくる。甘えている? 甘えているのね!?
きゅぅぅぅん! 早朝から可愛すぎて倒れそう。
「おはよう。日の出を見てきたの」
すると、ぷうぷううさみこちゃんが鼻を鳴らした。もしかして一緒に行きたかったって言っているのかな。
「次はみこちゃんも行こうね」
ぽんッ。
「うん」
人になったみこちゃんが手を掴んで私を引っ張っていった。着いたのは居間。おじいさまがすでに座っていた。
「お早う御座います」
「おはよう。昨日はよく眠れたかな」
「はい。ぐっすり」
「それはよかった」
和服が似合うおじいさま。ウサギの姿もさぞかし立派なんだろうなぁ。
台所からは軽快な包丁の音。お手伝いさん、朝から有難う御座います。
七時近くなると、他の人たちも集まってきた。みこママが私の横に座って言った。
「おはよう。奈々ちゃん、連絡先交換してもよいかしら?」
「はい、もちろんです!」
嬉しい。光栄。みこママにならいくらでも個人情報渡しちゃう。
スマートフォンを取り出してみこママと連絡先を交換する。これでみこちゃんの近況とか送ることが出来る。親からしたら、離れている娘のことは気になるもんね。
『よろしくね』
ウサギのよろしくスタンプが送られてくる。スタンプまでウサギ……素敵ッ!
「みこもケータイ持ってる」
「まぁっ」
私たちの間に入ってみこちゃんがキッズケータイを見せてくれる。みこママは大げさに驚いて、みこちゃんの番号を教えてもらっていた。みこちゃんはすごい笑顔だった。
午前中はトランプをみんなでして、うさみこちゃんとお散歩をして、お昼を食べて帰る時間になった。
「荷物全部詰めた?」
「詰めた」
家族と離れると言っても、来ようと思えばいつでも来られる距離なので、みこちゃんから寂しさは感じられない。むしろ、リュックを背負う姿は小さなお姉さんだ。きっと、親からあれこれ言われることなく一人前に扱ってもらえて嬉しいんだろうな。
「みこちゃん、奈々ちゃんのいうことを聞くのよ」
「うん」
「寂しくなったら、いつでも帰っておいで」
「うん」
ご両親が言うことを一生懸命頷いて聞いている。本当に立派なお姉さん。小学校もしっかり通えているもんね。
「奈々さん」
おじいさまが手招きをしている。傍に行くと、そっと封筒を手渡された。ずっしり重い封筒を。
「いえいえいえとんでもない。前回頂いたものが余っていますから」
「いやいや、じじいからの小遣いだと思って。なんなら余ったものは奈々さんが使いなさい」
「いえいえいえお小遣いという範囲をとうに超えています!」
有難いけどみこちゃんが必要な額を超え過ぎていて涙が出てきちゃう。なんか怖い。どれだけお金持ちなんだろう。
「そうか、残念だねぇ。それなら、せめてこれを」
分厚い封筒を仕舞い、今度はポチ袋を握らされた。おおお、これもお金ですよね。でも、薄いし、せっかくのご厚意を無碍にするのもあれだから頂こうかな。
「有難う御座います。頂きます。一日お世話になったのに、お気遣い頂き恐縮です」
「そんな、私のことは実の祖父と思ってくれて構わないよ」
「ほっほっほ」おじいさまが朗らかに笑う。
私は人間で、ここでは異端な存在なのに、こうして歓迎してくれているのがとても嬉しくてくすぐったくなる。
「また遊びに来ます」
「いつでも待っているよ」
「おじいさま、またね」
「うん、またね」
別れの挨拶をしていたその時、玄関のドアが勢いよく開かれた。中から日向さんが必死の形相で出てくる。
「ううッ日差しが私を殺しに……ッ」
もしかして太陽アレルギーとか!? 近くにいた色葉さんが苦笑いする。
「まぁた変なこと言って。引きこもりなだけだろうが」
「なんだ、太陽で体調を崩すわけじゃないんですね」
「引きこもり過ぎて慣れてないだけだ」
ほっと胸を撫で下ろしていると、日向さんがふらふらしながら近寄ってきた。なんか顔色も悪いからゾンビ映画みたいになっています……!
「みこ、こ、これ」
日向さんがみこちゃんに本を渡した。
「ありがと」
児童書かな。これを渡すために頑張って外に出てくれたんだ。優しいお兄さん。
そんな日向さんの顔がぐりんとこちらを向いた。だから角度がおかしいしゾンビみたいです。
「か、かかか川吉さん」
「は、はい」
「こここ、これ、これを」
日向さんが本を差し出す。私にも用意してくれたんだ。
「有難う御座います。嬉しいです」
私が受け取ってお礼を言うと、日向さんが汗をだらだら流しながら後ずさった。えっと、受け取っていいんだよね……?
「まあ、日向ったら」
みこママがにこにこするから、私もそれに合わせておいた。
「お世話になりました。では、そろそろ失礼します」
「はい。気を付けて」
みこちゃんと二人で手を振って歩き出す。家にいたお手伝いさんたちも出てきて、皆で手を振り返してくれた。
「みこぉ! すぐそっち行くからな!」
色葉さん、明日には来そう。
「私たちも遊びに行くわね」
ぽん。
──わッみこママがウサギに!
ぽん。
ぽん。
ぽんぽんぽんッ。
みこママを皮切りに、見送ってくれていた人たちが一斉にウサギへと変身した。
──うわぁぁぁぁぁぁウサギパラダイスだぁ!!
ウサギさんがぴょんぴょん跳んでさよならしてくれている。なにこれ夢かな。夢でもいい。こんな幸せを味合わせてくれるなんてウサギの神様有難う御座います。楽園はここに存在した。
まだよく開かない目のままアラームをオフにする。人のお家なはずなのに夜中一度も起きずに爆睡しちゃった。
部屋着から着替え、メイクをして廊下に出る。外はまだ暗いから廊下もかなり暗い。みこちゃんのご両親には許可を得ているけど、この時間に一人でこそこそしているのはなんだか悪いことをしている気になる。
さすがにまだ起きている人いないかな。
玄関の鍵は開いていると聞いたので横に開いてみると、確かにすんなり開いた。結界を張っているので鍵を付ける理由が無いらしい。結界、カッコイイ。
外は薄っすら白んでいてとても幻想的だった。お伽話の中を歩いているような、不思議な感覚。
山だからちょっと寒い。両腕をさすりながら、昨日教えてもらった広場に来た。もう太陽が顔を出し始めている。良いタイミング!
「わああ……」
建物に邪魔されることなく、真ん丸の太陽が見えてきた。自然と声が出る。すごい。日の出は初日の出を昔一度見たきりだったけど、もっと経験しておけばよかった。
ぴとん。
「ん?」
日の出に感動していたら、足元に何やら柔らかい感触が。見下ろすと一羽のウサギ。茶色だぁ可愛い。あやかしのウサギだよね、誰だろう。
「あっ」
私が屈むと逃げられちゃった。残念。
そろそろ戻ろうかな。すでに外に出ているウサギさんがいたから、他にも誰か起きているかも。
元来た道を戻って玄関を開ける。黒い子ウサギが飛び込んできた。
「これは……みこちゃん!」
うさみこちゃんが頭でぐりぐりしてくる。甘えている? 甘えているのね!?
きゅぅぅぅん! 早朝から可愛すぎて倒れそう。
「おはよう。日の出を見てきたの」
すると、ぷうぷううさみこちゃんが鼻を鳴らした。もしかして一緒に行きたかったって言っているのかな。
「次はみこちゃんも行こうね」
ぽんッ。
「うん」
人になったみこちゃんが手を掴んで私を引っ張っていった。着いたのは居間。おじいさまがすでに座っていた。
「お早う御座います」
「おはよう。昨日はよく眠れたかな」
「はい。ぐっすり」
「それはよかった」
和服が似合うおじいさま。ウサギの姿もさぞかし立派なんだろうなぁ。
台所からは軽快な包丁の音。お手伝いさん、朝から有難う御座います。
七時近くなると、他の人たちも集まってきた。みこママが私の横に座って言った。
「おはよう。奈々ちゃん、連絡先交換してもよいかしら?」
「はい、もちろんです!」
嬉しい。光栄。みこママにならいくらでも個人情報渡しちゃう。
スマートフォンを取り出してみこママと連絡先を交換する。これでみこちゃんの近況とか送ることが出来る。親からしたら、離れている娘のことは気になるもんね。
『よろしくね』
ウサギのよろしくスタンプが送られてくる。スタンプまでウサギ……素敵ッ!
「みこもケータイ持ってる」
「まぁっ」
私たちの間に入ってみこちゃんがキッズケータイを見せてくれる。みこママは大げさに驚いて、みこちゃんの番号を教えてもらっていた。みこちゃんはすごい笑顔だった。
午前中はトランプをみんなでして、うさみこちゃんとお散歩をして、お昼を食べて帰る時間になった。
「荷物全部詰めた?」
「詰めた」
家族と離れると言っても、来ようと思えばいつでも来られる距離なので、みこちゃんから寂しさは感じられない。むしろ、リュックを背負う姿は小さなお姉さんだ。きっと、親からあれこれ言われることなく一人前に扱ってもらえて嬉しいんだろうな。
「みこちゃん、奈々ちゃんのいうことを聞くのよ」
「うん」
「寂しくなったら、いつでも帰っておいで」
「うん」
ご両親が言うことを一生懸命頷いて聞いている。本当に立派なお姉さん。小学校もしっかり通えているもんね。
「奈々さん」
おじいさまが手招きをしている。傍に行くと、そっと封筒を手渡された。ずっしり重い封筒を。
「いえいえいえとんでもない。前回頂いたものが余っていますから」
「いやいや、じじいからの小遣いだと思って。なんなら余ったものは奈々さんが使いなさい」
「いえいえいえお小遣いという範囲をとうに超えています!」
有難いけどみこちゃんが必要な額を超え過ぎていて涙が出てきちゃう。なんか怖い。どれだけお金持ちなんだろう。
「そうか、残念だねぇ。それなら、せめてこれを」
分厚い封筒を仕舞い、今度はポチ袋を握らされた。おおお、これもお金ですよね。でも、薄いし、せっかくのご厚意を無碍にするのもあれだから頂こうかな。
「有難う御座います。頂きます。一日お世話になったのに、お気遣い頂き恐縮です」
「そんな、私のことは実の祖父と思ってくれて構わないよ」
「ほっほっほ」おじいさまが朗らかに笑う。
私は人間で、ここでは異端な存在なのに、こうして歓迎してくれているのがとても嬉しくてくすぐったくなる。
「また遊びに来ます」
「いつでも待っているよ」
「おじいさま、またね」
「うん、またね」
別れの挨拶をしていたその時、玄関のドアが勢いよく開かれた。中から日向さんが必死の形相で出てくる。
「ううッ日差しが私を殺しに……ッ」
もしかして太陽アレルギーとか!? 近くにいた色葉さんが苦笑いする。
「まぁた変なこと言って。引きこもりなだけだろうが」
「なんだ、太陽で体調を崩すわけじゃないんですね」
「引きこもり過ぎて慣れてないだけだ」
ほっと胸を撫で下ろしていると、日向さんがふらふらしながら近寄ってきた。なんか顔色も悪いからゾンビ映画みたいになっています……!
「みこ、こ、これ」
日向さんがみこちゃんに本を渡した。
「ありがと」
児童書かな。これを渡すために頑張って外に出てくれたんだ。優しいお兄さん。
そんな日向さんの顔がぐりんとこちらを向いた。だから角度がおかしいしゾンビみたいです。
「か、かかか川吉さん」
「は、はい」
「こここ、これ、これを」
日向さんが本を差し出す。私にも用意してくれたんだ。
「有難う御座います。嬉しいです」
私が受け取ってお礼を言うと、日向さんが汗をだらだら流しながら後ずさった。えっと、受け取っていいんだよね……?
「まあ、日向ったら」
みこママがにこにこするから、私もそれに合わせておいた。
「お世話になりました。では、そろそろ失礼します」
「はい。気を付けて」
みこちゃんと二人で手を振って歩き出す。家にいたお手伝いさんたちも出てきて、皆で手を振り返してくれた。
「みこぉ! すぐそっち行くからな!」
色葉さん、明日には来そう。
「私たちも遊びに行くわね」
ぽん。
──わッみこママがウサギに!
ぽん。
ぽん。
ぽんぽんぽんッ。
みこママを皮切りに、見送ってくれていた人たちが一斉にウサギへと変身した。
──うわぁぁぁぁぁぁウサギパラダイスだぁ!!
ウサギさんがぴょんぴょん跳んでさよならしてくれている。なにこれ夢かな。夢でもいい。こんな幸せを味合わせてくれるなんてウサギの神様有難う御座います。楽園はここに存在した。