「トイレ行っておこう」
ここに来てまだ行っていなかったので、トイレに行くことにした。場所は教えてもらっているので大丈夫。
廊下に出て歩いてみるけど、やっぱりこの家というかお屋敷広いなぁ。絶対見た目より広い。これもあやかしパワーなんだと思うと、どれだけの能力があるのか気になっちゃう。
長い廊下の一番奥がトイレ。夜中だと若干あれな配置。私はわりとそういうの平気だけど、小さい子は怖がりそう。みこちゃんは平気そう。
「わっ」
トイレのすぐ近くにある襖が開いた。中から知らない人がにょっきり顔を出してきた。
──めッッッちゃびっくりした!!
襖があるってことは誰かしらの部屋な可能性が高いから、開いて誰かが出てくるのは今日範囲をして、そこから九十度傾けた顔だけが出てくるとはさすがに予想してなかった。
肩まで伸びた茶髪の成人男性。知らない人だから親戚の人かな。というか相手の男の人の方が私よりびっくりした顔してるんだけど。
「あの」
ピシャァァァン!
すごい勢いで襖を閉められちゃった。こういう時は下手にノックしたりしない方がいいよね。
「すみません。今日お世話になっている川吉です」
それだけ襖越しに挨拶してトイレへ入った。私の方が部外者なんだからちゃんと挨拶はしておかないとね。
トイレからでると、例の部屋の襖が開いていた。なんとなく気になってチラ見したら、先ほどの男性が土下座していた。何故!?
「もも申し訳ありません。私なんぞを貴方の瞳に映してしまいどう償えばいいのか、とりあえず自害します」
「死なないでください!」
思わず近寄ったら、男性が驚愕の表情で茶色のウサギになった。やっぱりこの人もあやかしなんだ。そのまま隅に逃げて震えている。どうしよう、これ、よく分からないけど私が原因だよね。
わたしがここに存在していたからびっくりしたってことかな。人見知りなのかも。そうしたら、もう帰った方がいいのかな。でも、死んじゃったら大変だし。
迷った結果、とりあえず少しだけ様子を見ることにした。正座をして、ウサギさんに頭を下げる。
「驚かせてすみません。先ほど申し上げた通り、川吉と言います。今日はみこちゃんの付き添いでこちらに伺いました。宜しくお願いします」
ぴくッ。
まだ震えているけど、右耳がぴくっとこちらへ向いた。お、これは悪くない印象かもしれない。
でも、あまり長居をしてストレスを与えるのも危険だ。ウサギさんってストレスで死ぬって聞いたことがある。あれは都市伝説で実際は死なないらしいけど、ストレスに弱いのは事実かもしれない。
「では、そろそろ失礼します」
立ち上がってもう一度お辞儀をして襖を開ける。後ろからたたっと走る音がした。振り向くとすぐ傍に茶色のウサギさん。はわわ。
何か言いたいことがあるのかもしれない。見守っていると、ウサギさんの小さい小さい前足が、ちょこんと私の足首に触れた。
──はわ~~~~~~~ッッ!!!
ほんの一瞬過ぎて私の願望が見せた幻だったのではと思わないでもないけれど、この僅かに残る感触は明らかに現実! うわぁ、ウサギさんにちょんてされたぁ!
「お見送り有難う御座います。またお会いしましたら、お話してください」
冷静を装う私、素晴らしくない? 本当は欲望の赴くままナデナデし続けたかったのに必死に我慢した。
おかげで今度は怖がらせることなく部屋を出ることに成功。私、無事任務完了しました。
あれは誰だったのかなぁ。今度はきちんとお話出来るといいな。
部屋に戻る途中、お庭を走るウサギがいた。わぁ、ドッグランならぬラビットラン。幸せな世界が広がっている。いっそここで暮らしたいくらい天国だ。
いろいろあったけど、今度こそ部屋で寛がせてもらう。部屋の座布団もふかふか。この部屋で泊まるんだよね。うちのリビングより広い。ここに一人なんてなんだか申し訳なくなっちゃう。
「奈々ちゃん」
「みこちゃん、もういいの?」
「うん」
みこちゃんが私を迎えに来た。トランプやりたいんだって。可愛い! 手を繋いで居間に行ったら、色葉さんがちょっと不機嫌そうに待っていた。
「トランプやるぞ」
テーブルにはすでに三等分されたトランプが置かれている。みこちゃんに頼まれると嫌と言えない色葉さんも可愛い。良いと思います。
三人で仲良くババ抜きをする。みこちゃん、最近いろいろなトランプの遊び覚えたからやりたいんだね。可愛いね。
「ぬおぉ……」
そして色葉さんが負けた。すごい悔しそう。眉間の皺が深い。
「もう一回だ!」
「じゃあ、今度は七並べ」
「し、しちならべ?」
七並べを知らないらしく、色葉さんの瞳に動揺が広がる。でもここで引きさがりたくはないようで、テーブルに両手をばんと置いた。
「教えてくれ」
「いいよ」
「さすがみこ」
色葉さんは大好きなみこちゃんに七並べを教えてもらって本当に嬉しそうだった。こうしていると、色葉さんとみこちゃんって兄妹っぽい。実際のお兄さんとあまり会わないからかな。一番上のお兄さんはまだ会ったことないし。
「よし、あとはやりながら覚える」
七並べでは、続きの一枚を止めてその次を出したい人を悔しがらせるという技を出す人が存在しなかったので、始終平和に終わった。私が負けちゃった。色葉さんがその技覚えたら、私を狙ってきそう。
「勝ったぞ、見たか」
「おめでとう御座います」
「もっと悔しがれ!」
「悔しい!」
「ふざけてんのか」
せっかく私がノったのに、色葉さんにすんって顔されちゃった。隣でみこちゃんが拍手してくる。なんか面白かったらしい。みこちゃんが楽しんでくれたらそれが何よりです。
「ふん。そろそろ片付けるか」
「あ、私やります」
二人でトランプを集め、みこちゃんが持つケースに入れておしまい。片付けもみんなでやるとすぐ終わる。こんな小さなことで嬉しくなった。
ここに来てまだ行っていなかったので、トイレに行くことにした。場所は教えてもらっているので大丈夫。
廊下に出て歩いてみるけど、やっぱりこの家というかお屋敷広いなぁ。絶対見た目より広い。これもあやかしパワーなんだと思うと、どれだけの能力があるのか気になっちゃう。
長い廊下の一番奥がトイレ。夜中だと若干あれな配置。私はわりとそういうの平気だけど、小さい子は怖がりそう。みこちゃんは平気そう。
「わっ」
トイレのすぐ近くにある襖が開いた。中から知らない人がにょっきり顔を出してきた。
──めッッッちゃびっくりした!!
襖があるってことは誰かしらの部屋な可能性が高いから、開いて誰かが出てくるのは今日範囲をして、そこから九十度傾けた顔だけが出てくるとはさすがに予想してなかった。
肩まで伸びた茶髪の成人男性。知らない人だから親戚の人かな。というか相手の男の人の方が私よりびっくりした顔してるんだけど。
「あの」
ピシャァァァン!
すごい勢いで襖を閉められちゃった。こういう時は下手にノックしたりしない方がいいよね。
「すみません。今日お世話になっている川吉です」
それだけ襖越しに挨拶してトイレへ入った。私の方が部外者なんだからちゃんと挨拶はしておかないとね。
トイレからでると、例の部屋の襖が開いていた。なんとなく気になってチラ見したら、先ほどの男性が土下座していた。何故!?
「もも申し訳ありません。私なんぞを貴方の瞳に映してしまいどう償えばいいのか、とりあえず自害します」
「死なないでください!」
思わず近寄ったら、男性が驚愕の表情で茶色のウサギになった。やっぱりこの人もあやかしなんだ。そのまま隅に逃げて震えている。どうしよう、これ、よく分からないけど私が原因だよね。
わたしがここに存在していたからびっくりしたってことかな。人見知りなのかも。そうしたら、もう帰った方がいいのかな。でも、死んじゃったら大変だし。
迷った結果、とりあえず少しだけ様子を見ることにした。正座をして、ウサギさんに頭を下げる。
「驚かせてすみません。先ほど申し上げた通り、川吉と言います。今日はみこちゃんの付き添いでこちらに伺いました。宜しくお願いします」
ぴくッ。
まだ震えているけど、右耳がぴくっとこちらへ向いた。お、これは悪くない印象かもしれない。
でも、あまり長居をしてストレスを与えるのも危険だ。ウサギさんってストレスで死ぬって聞いたことがある。あれは都市伝説で実際は死なないらしいけど、ストレスに弱いのは事実かもしれない。
「では、そろそろ失礼します」
立ち上がってもう一度お辞儀をして襖を開ける。後ろからたたっと走る音がした。振り向くとすぐ傍に茶色のウサギさん。はわわ。
何か言いたいことがあるのかもしれない。見守っていると、ウサギさんの小さい小さい前足が、ちょこんと私の足首に触れた。
──はわ~~~~~~~ッッ!!!
ほんの一瞬過ぎて私の願望が見せた幻だったのではと思わないでもないけれど、この僅かに残る感触は明らかに現実! うわぁ、ウサギさんにちょんてされたぁ!
「お見送り有難う御座います。またお会いしましたら、お話してください」
冷静を装う私、素晴らしくない? 本当は欲望の赴くままナデナデし続けたかったのに必死に我慢した。
おかげで今度は怖がらせることなく部屋を出ることに成功。私、無事任務完了しました。
あれは誰だったのかなぁ。今度はきちんとお話出来るといいな。
部屋に戻る途中、お庭を走るウサギがいた。わぁ、ドッグランならぬラビットラン。幸せな世界が広がっている。いっそここで暮らしたいくらい天国だ。
いろいろあったけど、今度こそ部屋で寛がせてもらう。部屋の座布団もふかふか。この部屋で泊まるんだよね。うちのリビングより広い。ここに一人なんてなんだか申し訳なくなっちゃう。
「奈々ちゃん」
「みこちゃん、もういいの?」
「うん」
みこちゃんが私を迎えに来た。トランプやりたいんだって。可愛い! 手を繋いで居間に行ったら、色葉さんがちょっと不機嫌そうに待っていた。
「トランプやるぞ」
テーブルにはすでに三等分されたトランプが置かれている。みこちゃんに頼まれると嫌と言えない色葉さんも可愛い。良いと思います。
三人で仲良くババ抜きをする。みこちゃん、最近いろいろなトランプの遊び覚えたからやりたいんだね。可愛いね。
「ぬおぉ……」
そして色葉さんが負けた。すごい悔しそう。眉間の皺が深い。
「もう一回だ!」
「じゃあ、今度は七並べ」
「し、しちならべ?」
七並べを知らないらしく、色葉さんの瞳に動揺が広がる。でもここで引きさがりたくはないようで、テーブルに両手をばんと置いた。
「教えてくれ」
「いいよ」
「さすがみこ」
色葉さんは大好きなみこちゃんに七並べを教えてもらって本当に嬉しそうだった。こうしていると、色葉さんとみこちゃんって兄妹っぽい。実際のお兄さんとあまり会わないからかな。一番上のお兄さんはまだ会ったことないし。
「よし、あとはやりながら覚える」
七並べでは、続きの一枚を止めてその次を出したい人を悔しがらせるという技を出す人が存在しなかったので、始終平和に終わった。私が負けちゃった。色葉さんがその技覚えたら、私を狙ってきそう。
「勝ったぞ、見たか」
「おめでとう御座います」
「もっと悔しがれ!」
「悔しい!」
「ふざけてんのか」
せっかく私がノったのに、色葉さんにすんって顔されちゃった。隣でみこちゃんが拍手してくる。なんか面白かったらしい。みこちゃんが楽しんでくれたらそれが何よりです。
「ふん。そろそろ片付けるか」
「あ、私やります」
二人でトランプを集め、みこちゃんが持つケースに入れておしまい。片付けもみんなでやるとすぐ終わる。こんな小さなことで嬉しくなった。