「みこちゃん、お手紙だよ」

 部屋で寛いでいたうさみこちゃんに手紙を見せれば、ぽんと人の姿に変わった。

「お手紙?」

 郵便ポストを覗くと、初めてみこちゃんに手紙が着ていた。学校以外でここの住所を知っているのはみこちゃんの家族だけ。差出人は五十嵐正三となっている。みこちゃんの名字は五十嵐。つまり、みこちゃんの実家からということだ。

「お家の人からかな」
「うん、おじいさま」

 おお、噂の太っ腹おじいさま! いつかお会いしてお礼言いたいと思ってたんだよね。

 なんて書いてあるんだろう。知りたいけど、勝手に覗くのは失礼だから大人しく待ってよう。

 真剣に手紙を読むみこちゃんの横でそわそわしながら笑顔で座ってみる。待てをされているわんちゃんみたい。

「奈々ちゃん」
「なぁに?」

 待ってましたとばかりに顔を近づけたら、みこちゃんが手紙をこちらに見せてくれた。

「今は山が静かでみこが来ても大丈夫だから、遊びに帰っておいでだって。奈々ちゃんも」
「えッ」

 今の私、変な顔をしている自信がある。それって、私がみこちゃんの同居人として認められたってことかな。嬉し過ぎる。ちゃんと預けられる人間なのか見定めるぞってことかもしれないけど。

いや、今までもみこちゃんの家族が何人か来ていて特に何も言われていないから、駄目出しされるってことは無い、と思う。多分。

「いいね。一緒に行こう。私も一度おじいさまにご挨拶したかったの」
「みこもおじいさまに会いたい」

 そうだよね。七歳だものね。となると、あれ、やっぱりご両親は……。

「いつにする? 週末はちょうど月曜日休みで三連休だから、そのあたり行く?」
「うん、行く」
「じゃあ、お泊りの準備しようね」

 急に決まったみこちゃんの御実家訪問。楽しみだけど、緊張もしてきた。どんなおじいさまなんだろう。みこちゃんが自由だから優しいのか、それともしつけはきちんとされているから厳しいのか。仮の保護者として認められるよう、私もしっかりした大人な雰囲気で行こう。

「スーツとか着た方がいい。あれ、山ってことは結構歩く?」
「いつもウサギで走ってたからあんまり分かんない。でも、人間だったら結構歩くかも」
「そしたら、動きやすい服装がいっか」

 さっそく大人な雰囲気の予定が崩れちゃったけど、せめて言動に気を付けて失敗しないようにしなくちゃ。

 リュックを二つ用意して、その中にお泊りグッズを入れていく。着替えとメイク用品、バスタオルは用意してもらえそうだけど念のため一枚。

「そういえば山ってどこ?」
「五十嵐山ってところ」
「五十嵐山! なるほど!」

 確かにその名前は聞いたことがある。そしてみこちゃんたちの名字と同じ。納得。

 五十嵐山までの行き方をスマートフォンで調べる。同じ県だけどちょっと離れてるなぁ。そこからここまで一人で歩いてきたの!?

「この街までよく怪我無く一人で来られたねぇ、すごい」
「みこ、飛べる」
「飛べる!?」

 初耳ですが!!!

「えっそれはお空を飛べるってこと?」
「うん」

 やだやだ、聞いてないよ。ウサギちゃんがお空を飛ぶ……そんな素敵な秘密技があったなんて。是非今度見せてほしい。

 だから遠くの街まで来られたんだ。えらいねぇ。でも、逃げてきたってことだから怖かったかな。今の生活が平和だと思ってくれていたらいいな。