今日のおやつはお饅頭。お茶は冷蔵庫に入っている。包丁を使うわけじゃないからその辺の心配はいらないけど、お茶がかなり重いから零しちゃったらどうしよう。

 いやいや、七歳の成長を見守ることも大切だ。先回りして全部大人がやってしまったら、本来出来るようになるはずのものが大きくなってからも出来なくなっちゃう。

 ここはみこちゃんに任せて私は待たせてもらおう。

「とは言いつつも」

 心配は心配なのでこっそり観察させて頂きます。

 カウンターから顔半分だけ覗かせてキッチンを見つめる。みこちゃんの可愛い後ろ姿があった。

 お、冷蔵庫開けた。いいよいいよ。お茶を両手で持って、うん、冷蔵庫すぐ閉めようとするのえらい! けど、お茶重いし置いてから閉めても平気だよ……ッ。

 お茶をぐらっとさせつつも、右手だけで持って左手で冷蔵庫を閉めるのに成功。お茶落とさなくてよかった。服が濡れるのもあるけど、足に落ちたりしたら怪我するかもしれない。本人より見ているこっちがはらはらしちゃった。

 みこちゃんっていつでも冷静な顔しているから何でも出来そうって思っちゃうけど、まだまだ七歳だからね。失敗していいから、少しずつ成長してくれたらいいな。

 お盆にお茶とお饅頭を載せたところで私は素早くローテーブルの前に待機した。

「おまたせ」
「ありがとう~重かったでしょ」
「ううん、平気。みこ強い」
「うんうん」

 多分、今すごい気持ち悪い笑顔になっていると思う。口角上がり過ぎてほっぺが一か所に詰め込まれている自覚がある。でもいいの、みこちゃんがすごいと自然と笑顔になっちゃうから。

「そういえば、可愛いお耳が出てるよ」
「はッ」

 ずっと気が付いていなかったみたいで、私が言ったらみこちゃんが目を見開いて耳をしゅっと仕舞った。

 私的にはいつでもうさ耳出しっぱなし大歓迎だけど、学校いる時に間違えて出してしまわないよう訓練が必要だからね。でも、いつでも出していいのよ。

「家だからセーフだよ。気にしないで。お外は気を付けよう」
「うん、がんばる」
「じゃあ、食べよっか」

 二人でいただきますをして食べる。みこちゃんが用意してくれたお茶人生で一番美味しい。お饅頭は昨日色葉さんがくれたもの。色葉さん突然やってきてすぐ帰るんだよね。きっと近いところで用事があったらみこちゃんに会いに寄るんだろうな。

「美味しいね」
「うん。お饅頭好き」

 なるほど。みこちゃんはお饅頭が好き、と。今度会社近くのお店でお饅頭買って帰ろう。課長が和菓子が美味しいお店があるって言っていた。

「お饅頭と言えば、色葉さんって普段は何しているんだろう」

 しょっちゅうここに来られるってことは、この辺りに学校か働いている場所があるのかな。

「大学行ってるって」
「へぇ、大学生なんだ」

 言葉はぶっきらぼうだけど真面目で優しいから、友だち沢山いそう。大学か、懐かしいなぁ。卒業してまだ五年も経っていないのに、遠い昔に思える。連絡取ってる友だちも二人だし。またサークルのみんなで集まりたい。

「私も大学行ってたけど楽しかったなぁ」
「いろははみこと一緒の学校がいいって言ってた」
「さすがブレないね」

 どこまでいっても色葉さんで安心した。こんなにみこちゃん好きだと、私のアカウントのこと知ったら「なんで教えなかったんだ」って怒ってきそう。

 ピンポーン。

「誰か来た。ちょっと待ってて」

 郵便かな。インターフォンのカメラを見て私は絶句した。色葉さんだった。タイミングがすご過ぎる。

 しかもなんかインターフォン睨んでない? 私何かしたっけ?

「ど、どうも」

 インターフォン越しに話しかけてみるも無言。怖い。けど、色葉さんなのでお帰りくださいなんて出来るはずもなく、オートロックを解除した。

 恐る恐るドアの鍵を開けて待つ。すると、ドア越しなのに廊下を走る音が聞こえてきた。ちょ、共用部ではお静かに!

 でもこれで私に怒っていることがほぼほぼ確定した。みこちゃんに怒ることは絶対無いものね。

 バン!

 ドアが勢いよく開けられる。正座したまま見上げると、色葉さんがスマートフォンの画面を見せてきた。

「なんでみこのアカウント教えてくれなかったんだ!」
「それかぁい!!」