わたしは、お姉ちゃんが死んだあの日、死が嫌いになった。ひとりが死ぬだけで、まわりのひとがどれだけ悲しむのか、知ってしまった。お姉ちゃんが死んだのは、わたしのせいだと思っていた。ひとの死の責任を負うことの重さや苦しさも、わたしは知っていた。

「いっ……」

 寮から校門へ向かう途中の階段で、足を踏み外した。ひざをすりむいて、足首に激痛が走った。それでも気にせず立ち上がって、また走る。運動が得意なわけでもない身体は、すこし走っただけで全身ひりついて、内臓がねじ曲がりそうな痛みを訴えた。全身が心臓になったみたいに鼓動を打っている。

 凪都はどこにいる? 多分、学校からは出たはずだ。とにかく、走る。凪都のもとへ。早く。

 この夏休み、凪都はどんな気持ちで、わたしと一緒にいたんだろう。自分のせいで死んだのかもしれない相手の願いを、どんな思いで叶えていたんだろう。

 わたしが幽霊になって声をかけたとき、どれだけ驚いたのか。

 海に行って、夏祭りに行って。

 わたしの悩みを聞いて、凪都の悩みを話して。

 夜の散歩をして、朝のランニングをして。

 わたしが死にたくないって言ったとき、凪都はなにを思ったの?

 お腹の奥から、胸へ、喉へ、熱と痛みが突き抜けて、涙があふれた。手の甲で乱暴に拭っても、あとからあとからこぼれ出てくる。制服のスカートがはためいて邪魔くさい。陽射しが強くて目がくらむ。早く、早く。

 さっき、一度スマホで凪都に呼びかけた。当たり前みたいに無視された。ばか、と心の中で叫ぶ。本人に言ってやらないと気が済まない。

 頭にいろいろなことが浮かぶ。笑っている凪都も、泣きそうな凪都も。きっと凪都はこの夏、毎日死にそうになるくらい苦しかったんだ。わたしに会うたびに、心がふるえて、胸が痛んで、叫び出したかったはずだ。

 道がふたつに分かれていた。どっち。

 そのとき、頭に浮かぶものがあった。……左!

 最後の力を使って、走り抜ける。かすかな水音が聞こえてきた。川がある。橋がある。去年の冬、凪都に出会った橋がある。あのとき欄干に腰かけて死のうとしていた凪都を思い出す。わたしは必死に凪都を止めた。出会いから最悪だった。死にたがりなんて、わたしが大嫌いなものだ。

 なのにいつから、凪都のことを好きだと思ったんだろう。凪都の笑顔を見たいと思うようになったんだろう。

 走って乱れる呼吸と、泣いているせいで乱れる呼吸。まともに息ができなくて、世界がちかちかと光る。

「……なぎ、と」

 去年と同じ場所に――、凪都は座っていた。

 黒い瞳は足もとを流れる川を見つめている。そこに、消えようとしている。凪都の身体が、すこし傾く。わたしは息が止まった。

 だめ。

 地面を蹴りつけて、手をのばす。

 涙が視界の邪魔をする。

 それでも凪都へ、手をのばして。

「死なないで!」

 やっと、凪都の腕をつかまえた。