夏季休暇に入った。
 一学期の間、蔵人が望む望まざるに関わらず、綺紗羅との付き合いは続いた。
 と言うか、冬馬が望んで友達付き合いをしているのだから、冬馬の友人として蔵人も付き合わざるを得なかったのだ。
 もっと言ってしまうと、同じクラスメイトであり、綺紗羅のぶっきらぼうな態度に近寄りがたいと感じてしまった冬馬以外の友人たちとの緩衝役を、否応なく押し付けられてしまったのだ。

 正直に言えば、蔵人も綺紗羅とあまり関わりになりたくなかった。
 最初にされた一件とは別に、綺紗羅に地雷があって、それを踏んだ瞬間の激昂が面倒だと思っていたからだ。
 一方で、その地雷が顔面ネタに集約されていることも気付いていたので、その案件に触れてはいけないことを周知させた。

「いやー、いいお天気になったねぇ!」

 電車を降りて駅前に出たところで、冬馬が言った。

「暑すぎだろ…」
「なにを仰る、この万年お天気男が」
「俺の所為かよ」
「クラちゃん、ご機嫌斜めじゃん。どしたん? ハラ具合悪い? クラちゃんのお陰でお天気はイイし、むっさいソーセージ祭りから一転、目の保養な美しい花も添えられたし。僕は感謝感激してんのよ?」
「分かってるだろうが、本人に言うなよ?」
「あたりきしゃりき。僕だって、サラちゃんの逆鱗に触れたくはないよ。さて、それじゃあ、まずはコテージ目指して行きますか!」

 コテージは、冬馬の父の会社が保有する保養地だ。
 一般的にそういった施設は、料金が割安な理由から夏季休暇、特に盆休みの前後は予約が困難なものだが。
 冬馬の父の会社は、この管理人が定期的に見回るだけで、全ての身の回りの世話を自分たちでしなければならない施設の他に、管理人が常駐してホテル並みに接待してくれるペンションを保有しているため、こちらの施設は盆休みを除けば割と簡単に予約が入れられたのだ。

 冬馬はミリタリーオタクで、サバイバルキャンプなども好むのだが、進学して新しい友人が出来たのを期に、趣味の友達を増やそうと今回のキャンプを計画した。
 全くの初心者に、いきなりサバイバルキャンプを経験させると逃げられてしまう可能性があるので、自炊必須のコテージを拠点に、テントでの夜明かし体験も出来る形を作ったのだ。

「テント指導は、クラちゃんに任せていいよね?」
「初日からカレーにしたくないなら、魚は釣ってこいよな」
「りょーかい!」

 ビシッと敬礼をすると、冬馬は綺紗羅と、テント不参加を表明している友人たちを連れて、渓流釣りに出かけていった。