午後の授業は、体育だった。
 体育館でのバスケットボールの実技で、チームは指導をしている教諭が振り分けを決めていた。

『げえ、一緒かよ…』

 自分が綺紗羅と同じチームに割り振られたことで、蔵人は心の中で毒づいた。
 蔵人は、自他ともに認めるスポーツ全般である程度の戦力になれる(もの)だ。
 上背もあり、身体能力も高い。
 故に、入学後にスポーツ関係の部活から激しい勧誘をされた。
 だが蔵人は、部活に興味はない。
 と言うよりも、母一人の収入を考えると、自分の小遣いと昼飯代ぐらいは自力でなんとかしたかったので、放課後はバイトにあてることにしたのだ。

 ゴール下で競り合いになったが、適切なパスを通せる場所に同じチームのユニフォームが見当たらない。
 同じチームにバスケ部の生徒がいたはずだが、早々に危険視されてブロックをガッチリされてしまっていた。
 ボールを奪いに来る相手の手を避け、ピポットをしながら目でチームメイトのユニフォームを探す。
 迫る5秒を心の中でカウントしながら、蔵人はチラッと目の端に写ったチームのユニフォームに向けてパスを送った。
 甲高いホイッスルの音が鳴り響き、生徒たちの動きが止まる。
 蔵人の投げたボールは、その生徒の顔面を打ったからだ。
 そのまま倒れた生徒は、綺紗羅だった。

「周防、美咲を保健室へ」
「えっ、俺が?」
「おまえが当てたんだ、おまえが連れて行ってやれ」

 保健体育の教諭は、そう言って蔵人の背中に綺紗羅を背負わせると、自分は指導に戻ってしまった。
 なんとも無責任な…と思ったし、チームメイトも主戦力になる蔵人が抜けることに抗議をしたが、教諭は取り合わなかった。
 仕方がなく、蔵人は綺紗羅を背負って保健室へと向かった。