💭   🔁   ❤×?152



 ――友樹くんだ。
 左目を閉じた友樹くんが、僕の背後に立っていたんだ。

 友樹くんは、僕に手招きをした。僕は友樹君に招かれるがまま、付いて行った。不思議と怖くは無かった。
 案内されたのは、僕と友樹くんが轢き逃げされた交差点。友樹くんはそこからさらに、ずんずんと歩き出した。
 僕は、たまたま財布を持っていた偶然に感謝する事となった。何しろ丸一日歩かされたからだ。コンビニに寄っている間こそ待ってはくれるが、友樹くんは僕を休ませてはくれなかった。

 そうして夜通し歩き続けて、太陽が昇り、傾きかけた頃にようやく、彼は立ち止った。
 とある寂れた一軒家。
 1階のガレージに泊っている乗用車に、妙な既視感があった。友樹くんは家の柵をすり抜けてガレージに入っていき、乗用車のバンパーを撫でた。

 そこには、散々に凹んで血塗れになったバンパーがあった。

 ――ように見えたのは一瞬の事で、すぐに、普通のバンパーに戻った。けれどよく見てみると、遠目ながらにも表面がざらざらしているのが分かった。
 後で聞いたところでは、轢き逃げ犯は事故の発覚を恐れて、自分でバンパーを修理したのだそうだ。

 気が付くと、友樹くんの姿は無くなっていた。
 僕はすぐに、警察に通報した。

 僕の荒唐無稽な話は、僕が事故の被害者だという事もあって一応は聞いてもらえた。けれど、僕が『この車が犯人の物だ』と断ずるその根拠の話になると、誰もが首を傾げるか、憐れむような目で僕を見た。
 僕は徹底抗戦した。何人もの大人たちが事情聴取に現れ、そうして――――……最後に現れたのが、(より)(より)()さんだった。
『警視庁刑事部捜査第4課』を名乗るその若いお姉さんは、僕の言葉を信じてくれた。
 度重なる任意事情聴取の結果、犯人は自白した。

 ――と、ここまでは良かった。
 僕は頼々子さんから警視庁お墨付きの除霊グッズを支給してもらえるようになり、僕は僕の担当となった頼々子さんに見守られながら、時には捜査を手伝ったりした。何度か表彰された事もある。

 けれど、そうやって派手に動き過ぎたのが拙かったんだろう……母が、『視える』という僕に対して怯えるようになった。
 元々ノイローゼ気味だった母は妖しい新興宗教にハマるようになり、僕が『視える』のは悪霊に憑りつかれているからだとか言って、僕を滝で打たせたり、棒で叩いたりするようになった。
 父は不在がちになり、知らないうちに海外に単身赴任してしまった。

 綻びが生まれたら、後は一瞬だった。家庭はあっと言う間に空中分解した。
 一人っ子だったのは幸いだった。もし僕に兄弟が居たとしたら、絶対に恨まれていただろうから。
 母には育児能力は無いとされた。父は、僕を気味悪がって引き取るのを拒否し、僕もまた、海外に行くのが嫌だった。
 そうして僕は、親戚の家に預けられるようになった。

 それから6年、僕は漂流するように生きている。
 辛いばかりの人生の中で、頼子さんだけが頼りになる存在だった。