こうして、グループの大まかな方針が決まった。自分の獲得した仕事でグループ名を売り、歩はファンクラブのコンテンツに登場する。もちろん、互いに協力し合って。メンバー全員が、どんな仕事も体当たりでやるという体育会系そのものの方針だ。
それから数週間。『SN―SKY』のファンクラブコンテンツはファンから好評価を得ていた。
しかし、郁斗たちの間の空気は重い。特に歩が。郁斗は7月のドラマの撮影が本格的に始まり、少し目を離した隙に雰囲気が暗くなっていた。弁当の大きさも段々と小さくなっていたのを見て、郁斗はメンバーに緊急集合を掛けた。
「あえて話題にしなかったけど、俺たち、大炎上してるよね」
エアコンが稼働する音だけが響く会議室内で、仲森と西園寺は難しい顔をして神田は不機嫌そうだ。
『SN―SKY』は絶賛大炎上中だ。誰かが何かをやらかした訳ではなく、存在そのものが炎上している。
グループ結成の発表が成されて、ファンの反応は様々だった。それも、誰のファンかによっても異なっていた。
歩と郁斗のファンはおおむね好意的だった。しかし仲森、神田、西園寺のファンの中には「2人でデビューしてほしかった」「ソロのままがいい」「パッとしない2人のせいでデビューが遅れたら嫌」「双子いらない」というような意見を言う人が一定数見られた。
郁斗のファンの中にも「たった1年目の子とシンメなんて郁斗くんが可哀想」と余計なお世話を言う人もいた。
——到底、信じたくない話だけど
それらの投稿を歩は一身に浴びてしまったのだろう。『SN―SKY』に対する中傷の殆どが、郁斗か歩に向けられたものだ。郁斗は中傷を見つけ次第、速攻で通報した後にブロックしているし、ここ最近はSNSを暇つぶしに見ないようにしていた。
これは何年もこの事務所に所属し、メディアに出てきた郁斗が学んできた自衛策だが、経験の浅い歩はそれが出来なかった。
本来なら近くにいた自分がフォローするべきだったが、ドラマ撮影で手が回らなかったことが、郁斗は悔やまれる。
「そろそろ夏のコンサートのリハーサルも始まるし、どうにかしないと……」
夏のコンサート。別名『研修生発表会』とも言う。グループの有無に関わらず中学生以上の研修生全員が出演し、先輩の曲でパフォーマンスをするコンサートだ。学生の多い研修生に合わせて8月の20日間開催される。郁斗も毎年出演し、研修生グループの後ろで踊ったり、まだグループに所属していない研修生と踊ったりしていた。
歩はというと、去年は事務所に入ってすぐだったため一曲踊るのみだった。そして迎えた、今年。メンバーがメンバーなので何曲か踊ることになるだろう。このままだと練習に支障が出てしまう。
「炎上してるっていったって、どうすることもできねぇ。俺らから言ったって神経を逆なでするだけだろ」
仲森が厳しい顔で言うと、神田が天井を仰いだ。
「だから『それはねーだろ』つったのに……」
——え?
「どういうこと?」
西園寺がすかさず尋ねる。しかし神田は答えようとしない。それどころか身体を明後日の方向に向けてしまった。
そんな様子に痺れを切らした仲森が口を開く。
「グループ結成の話があった時、神田は社長に突っかかっただろ。それはこんな風に年下2人にしわ寄せが行くって分かっていたから。だろ?」
仲森が神田の背中を叩くと、神田は照れたように仲森くんの手を振り払った。肯定と捉えて良いだろう。
——そうなんだ……
思っていたような、俺たちを重荷だと思っていた訳じゃないのか。郁斗の心の荷が下りた気がした。
「よかった……」
郁斗の声を代弁するかのように歩がそう呟いた。その目からは涙が溢れ、彼は必死に涙を拭った。
「どうしたんだ?」
仲森が困惑して歩に尋ねるが、歩は「えっと、その……」と上手く言葉を紡げないようだった。
「俺たちが3人のデビューの重荷になってるんじゃないかと思ってて……」
代わりに話し始めた郁斗に、3人は恐ろしいものを見たような視線を向ける。
「それで、侑真くんがあの時社長に怒ってたのもっ、それが嫌だからなんじゃないかって……思って」
言っている内に、郁斗まで涙が出てきた。それに引っ張られたのか歩も大量に涙をこぼし始める。
「そんな訳ないだろ!」
「そうだよ。重荷なんて……」
仲森と西園寺が即座に否定する。それまで黙っていた神田が立ち上がり、郁斗と歩の傍まで来て、2人の肩の上に手を置いた。
「確かに俺はデビューも大事だと思ってる。でも、仲間が傷つかないことが最優先事項だろ。それは重荷でもなんでもねぇ」
神田は郁斗と歩の頭をワシャワシャと撫でた。
「可愛い弟たちをこんなにさせて、許せねえな」
仲森は静かに呟いた。
郁斗たちは新しくグループについたマネージャーを呼び、事務所から注意喚起をしてもらうように言った。事務所はすでに動いていたらしく、時の流れもあってか1週間もすれば炎上は表向きには静かになった。
段々と歩の表情には笑顔が戻っていき、郁斗は心から安堵した。
それから数週間。『SN―SKY』のファンクラブコンテンツはファンから好評価を得ていた。
しかし、郁斗たちの間の空気は重い。特に歩が。郁斗は7月のドラマの撮影が本格的に始まり、少し目を離した隙に雰囲気が暗くなっていた。弁当の大きさも段々と小さくなっていたのを見て、郁斗はメンバーに緊急集合を掛けた。
「あえて話題にしなかったけど、俺たち、大炎上してるよね」
エアコンが稼働する音だけが響く会議室内で、仲森と西園寺は難しい顔をして神田は不機嫌そうだ。
『SN―SKY』は絶賛大炎上中だ。誰かが何かをやらかした訳ではなく、存在そのものが炎上している。
グループ結成の発表が成されて、ファンの反応は様々だった。それも、誰のファンかによっても異なっていた。
歩と郁斗のファンはおおむね好意的だった。しかし仲森、神田、西園寺のファンの中には「2人でデビューしてほしかった」「ソロのままがいい」「パッとしない2人のせいでデビューが遅れたら嫌」「双子いらない」というような意見を言う人が一定数見られた。
郁斗のファンの中にも「たった1年目の子とシンメなんて郁斗くんが可哀想」と余計なお世話を言う人もいた。
——到底、信じたくない話だけど
それらの投稿を歩は一身に浴びてしまったのだろう。『SN―SKY』に対する中傷の殆どが、郁斗か歩に向けられたものだ。郁斗は中傷を見つけ次第、速攻で通報した後にブロックしているし、ここ最近はSNSを暇つぶしに見ないようにしていた。
これは何年もこの事務所に所属し、メディアに出てきた郁斗が学んできた自衛策だが、経験の浅い歩はそれが出来なかった。
本来なら近くにいた自分がフォローするべきだったが、ドラマ撮影で手が回らなかったことが、郁斗は悔やまれる。
「そろそろ夏のコンサートのリハーサルも始まるし、どうにかしないと……」
夏のコンサート。別名『研修生発表会』とも言う。グループの有無に関わらず中学生以上の研修生全員が出演し、先輩の曲でパフォーマンスをするコンサートだ。学生の多い研修生に合わせて8月の20日間開催される。郁斗も毎年出演し、研修生グループの後ろで踊ったり、まだグループに所属していない研修生と踊ったりしていた。
歩はというと、去年は事務所に入ってすぐだったため一曲踊るのみだった。そして迎えた、今年。メンバーがメンバーなので何曲か踊ることになるだろう。このままだと練習に支障が出てしまう。
「炎上してるっていったって、どうすることもできねぇ。俺らから言ったって神経を逆なでするだけだろ」
仲森が厳しい顔で言うと、神田が天井を仰いだ。
「だから『それはねーだろ』つったのに……」
——え?
「どういうこと?」
西園寺がすかさず尋ねる。しかし神田は答えようとしない。それどころか身体を明後日の方向に向けてしまった。
そんな様子に痺れを切らした仲森が口を開く。
「グループ結成の話があった時、神田は社長に突っかかっただろ。それはこんな風に年下2人にしわ寄せが行くって分かっていたから。だろ?」
仲森が神田の背中を叩くと、神田は照れたように仲森くんの手を振り払った。肯定と捉えて良いだろう。
——そうなんだ……
思っていたような、俺たちを重荷だと思っていた訳じゃないのか。郁斗の心の荷が下りた気がした。
「よかった……」
郁斗の声を代弁するかのように歩がそう呟いた。その目からは涙が溢れ、彼は必死に涙を拭った。
「どうしたんだ?」
仲森が困惑して歩に尋ねるが、歩は「えっと、その……」と上手く言葉を紡げないようだった。
「俺たちが3人のデビューの重荷になってるんじゃないかと思ってて……」
代わりに話し始めた郁斗に、3人は恐ろしいものを見たような視線を向ける。
「それで、侑真くんがあの時社長に怒ってたのもっ、それが嫌だからなんじゃないかって……思って」
言っている内に、郁斗まで涙が出てきた。それに引っ張られたのか歩も大量に涙をこぼし始める。
「そんな訳ないだろ!」
「そうだよ。重荷なんて……」
仲森と西園寺が即座に否定する。それまで黙っていた神田が立ち上がり、郁斗と歩の傍まで来て、2人の肩の上に手を置いた。
「確かに俺はデビューも大事だと思ってる。でも、仲間が傷つかないことが最優先事項だろ。それは重荷でもなんでもねぇ」
神田は郁斗と歩の頭をワシャワシャと撫でた。
「可愛い弟たちをこんなにさせて、許せねえな」
仲森は静かに呟いた。
郁斗たちは新しくグループについたマネージャーを呼び、事務所から注意喚起をしてもらうように言った。事務所はすでに動いていたらしく、時の流れもあってか1週間もすれば炎上は表向きには静かになった。
段々と歩の表情には笑顔が戻っていき、郁斗は心から安堵した。